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大規模スポーツイベント観客の患者数は「体感温度」と関連、気温や湿度が高いほど増加

米国の北東部の都市にある野球のスタジアムで行われた70試合以上のゲームで、スタジアム内の医務室を受診した観客の患者数が、その試合の開始時刻の気温と湿度から算出した「Heat Index(体感温度)」と、中程度の相関関係があるとする研究結果が報告された。著者らは、「この結果は今後の気候変動を見据えた大規模スポーツイベント医療計画に役立つ知見だ」としている。

大規模スポーツイベント観客の患者数は「体感温度」と関連、気温や湿度が高いほど増加

マスギャザリングでの医療需要

マスギャザリング(mass gathering)と呼ばれる大規模イベントでは、人々が集中することに伴い一時的に当該地域の医療受給バランスが逼迫することがあり、事前の綿密な医療計画の立案が必要とされる。多くの国で、イベント会場の収容人数や予測される観客数に応じて、定められた人数の医師や医療スタッフを予め配置することを義務付けている。例えば米国ニューヨーク州では、5,000人を超えるイベントでは15分以内に医師が到着可能な体制を確保すること、3万人を超えるイベントでは現場に医師を配置することが義務化されている。

マスギャザリングで発生する医療需要については、多くの研究で、三つの因子によって左右されることが報告されている。一つ目は観客の年齢や健康状態などの生物医学的因子、二つ目は観客の文化や行動、参加理由などの心理社会的因子、三つ目は会場の特徴や天候などの環境因子である。

三つ目の環境因子の中では「暑さ」が重要な要素とされており、暑さによる熱中症の増加が世界中で報告されている。これまでもマスギャザリングにおける気温と医療需要の変化との関係を解析した報告はいくつかあるが、気温に相対湿度を加えて算出する、より熱中症リスクを正確に評価可能な「Heat Index(体感温度)」と医療需要の変化との関係は、十分検討されていない。以上を背景として、今回紹介する論文の著者らは、大規模スポーツイベントにおけるその関連を探った。

米国内での野球のゲーム73試合を対象に解析

スタジアムの特徴と観客数

この研究では、2023年4~9月に米国北東部の都市にあるスタジアムで開催された野球の試合、81ゲームからデータが取得された。この球場は収容観客数4万7,309人で、周囲全体が囲われた構造であり、日陰は少なく座席の多くは屋根のない部分に設けられていた。

81試合のうち8試合は解析に必要なデータが十分でなかったため除外し、73試合を解析対象とした。観客数は2万5,007~4万7,295人の範囲で平均4万824人だった。

スタジアムで発生した患者数

会場での医療需要は、本人または救急救命士によって医務室に搬送された患者のうち、医師の対応が必要だった患者数を、原因が熱中症か否かにかかわらずカウントした。なお、市販薬の希望のみで医務室を訪問した患者は除外した。その結果、調査対象期間中の総観客数292万6,363人のうち、受診患者数は92人であり、1試合あたり0~5人の範囲で、平均は1.92±1.13人だった。

観客10万人あたりの患者数(patient presentation rates;PPR)は5.04±1.13であり、7月が6.09±1.66で最も高く、4月が3.19±1.13で最も低かった。

試合開始時点のHeat Index(体感温度)

気温と相対湿度に基づき算出した試合開始時点のHeat Index(体感温度)は、華氏46~91度(摂氏7.8~32.8℃)の範囲であり、平均は華氏70.8度(摂氏21.6℃)だった。

なお、日本では熱中症リスクの評価のために、気温と相対湿度だけでなく、輻射熱や気流も利用して算出する湿球黒球温度(wet bulb globe temperature;WBGT〈いわゆる暑さ指数〉)が用いられており、国際的にもWBGTが使われることが多いが、本研究ではデータが把握されていなかったことから、Heat Indexが用いられている。著者らは論文の考察において、「今後の研究ではWBGTでの検討が必要だろう」と記している。

Heat Indexが10度上昇すると、試合中の患者が1.46人増える

では、研究の主題である、Heat Indexと1試合あたりの患者数との関連の解析結果だが、相関係数(r)は0.37であり、中程度の正の相関関係が認められた(p<0.01)。つまり、気温や湿度が高くHeat Indexが上昇するほど、スタジアム内の医務室で医師対応が必要な患者数が、有意に増えることが明らかになった。線形解析からは、Heat Indexが10度上昇すると患者数が1.46人増えると計算された。

患者の主訴と処置内容

スタジアム内の医務室を受診した患者の主訴として最も多かったのは筋骨格系の訴えで31人(34%)、次いでふらつきが24人(26%)、酩酊状態が9人(10%)だった。

治療を複数回受けた患者もいたため、全試合で述べ108件の処置が行われた。処置内容で最も多かったのは、氷嚢33人(31%)、鎮痛薬(NSAIDsまたはアセトアミノフェン)投与21人(19%)、経口補水液投与11人(10%)などだった。

全患者のうち32人(35%)は病院への搬送が必要と判断され、このうち18人(19.2%)が救急車で搬送された。14人は救急隊による搬送を拒否し、個人の車で搬送された。911番(日本の119番)通報が必要になったケースはなかった。なお、ふらつきによる受診は上記のように全体の26%だったにもかかわらず、病院への搬送を要した症例の38%を占めるという結果だった。

論文の結論は、「Heat Indexは、大規模スポーツイベントである野球の試合における患者発生率と中程度の有意な関連があることがわかった。本研究では、研究期間中の天候の穏やかさから、事前に計画されていた医療体制の供給を上回る医療需要は発生しなかった。しかし、このような相関関係が存在するという知見は、今後の気候の変化が予測される中で、大規模イベントの医療計画の策定に役立つ可能性がある」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association of Heat Index and Patient Presentation Rate at a Stadium」。〔Observational Study West J Emerg Med. 2025 May 19;26(3):667-673.〕
原文はこちら(The Regents of the University of California)

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