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アスリートの睡眠を改善する栄養戦略 キウイ、タルトチェリー、乳製品が有効である可能性

エリートレベルのアスリートの睡眠を改善するための栄養戦略に関する、スコーピングレビューの報告を紹介する。キウイフルーツ、タルトチェリージュース、および、女性では乳製品の摂取が、睡眠改善に最も効果的な可能性があるという。

アスリートの睡眠を改善する栄養戦略 キウイ、タルトチェリー、乳製品が有効である可能性

回復戦略における睡眠と、睡眠をサポートするための栄養

アスリートにとりトレーニングや試合後の回復は、怪我のリスク抑制と質の良いトレーニングの継続のために必須であり、つまりはパフォーマンスの維持・向上に欠かせない。アスリートか否かを問わず、身体的・精神的疲労からの回復において、睡眠は極めて重要とされる。しかしアスリートは、早朝または夜間のトレーニング、試合前の精神的ストレス、遠征時の不慣れな環境などのため、睡眠の時間や質が阻害されやすい。それらは回復の遅延につながるだけでなく、試合の際のパフォーマンス低下にもつながり得る。

一方、食事・栄養が睡眠をサポートすることが広く認識されており、アスリートの睡眠改善を目的とした栄養戦略の研究報告も少なくない。ただし、エリートレベルのアスリートでのエビデンスは限られていることから、本論文の著者らはスコーピングレビューにより、現時点の知見の総括を試みた。

1970年以降の論文から12報を特定

本研究では、PRISMA-ScR(システマティックレビューとメタ解析のための優先報告事項のスコーピングレビュー用拡張版)、およびJBI(スコーピングレビューの標準化マニュアル)に準拠し、NUQUESTによりバイアスリスクを評価しつつ、P2P(Paper to Podium)により実用的なエビデンスを特定した。文献検索は、PubMed、ScienceDirect、Scopus、SPORTDiscus、Google Scholarで行われ、1970年から2024年12月4日までに収載された文献を対象とし、またハンドサーチにより関連論文の検索漏れを確認した。

包括基準は、18歳以上の健康なエリートアスリートを対象として、食事と睡眠の関連を無作為化比較試験、クロスオーバー試験、前後比較試験、観察研究などにより検討した研究であり、査読システムのあるジャーナルに英語で掲載された論文とした。メタ解析、レビュー論文、ケーススタディ―、論説、学会発表などは除外した。

1,903報がヒットし、タイトルと要約に基づくスクリーニング、全文精査を経て、12件の研究報告が抽出された。このうち7件は栄養介入を行い睡眠関連アウトカムへの影響を検討し、5件は食事・栄養摂取習慣と睡眠関連指標との関連を検討していた。

論文では、潜在的な有効性の高いものを3項目特定し、中程度の潜在的有効性と判定したものを6項目、有効性が不確かなものを1項目特定して、それらの評価の根拠を示している。またそれらのエッセンスが表形式でまとめられており、本稿ではその部分のみ紹介する。

潜在的に高い有効性が示唆される栄養戦略

キウイフルーツ

キウイフルーツ2個(就寝1時間前)は、睡眠時間、睡眠効率(就床時間に占める睡眠時間)、中途覚醒の回数・時間、睡眠の質を改善し、翌朝の疲労を軽減する可能性がある。男性と女性のセーリングと耐久レース、シーズン中とプレシーズンにおける研究。

タルトチェリージュース

48時間にタルトチェリージュース30mLを1日2回(朝・晩)、計5回摂取すると、入眠潜時(就床から睡眠に要する時間)の短縮、中途覚醒時間の短縮、および睡眠中の体動を抑制できる可能性がある。女性ホッケー選手のプレシーズンでの研究。

牛乳・乳製品

牛乳の摂取頻度が高い(週5~7日)と、睡眠の質が低下するリスクが低下する。複数の競技の女性選手での研究。

潜在的に中程度の有効性が示唆される栄養戦略

タンパク質とトリプトファン

夜間のタンパク質摂取量が多い(就寝1時間前以上)と、入眠潜時が短縮する傾向がある。睡眠の質が良い選手は、約1.6g/kg/日のタンパク質と約1,350mgのトリプトファンを摂取している人に多い傾向。既に高タンパク質食(2.5g/kg/日以上)を摂取している場合、改善効果は明確でない。男性と女性の自転車、ラグビー、オーストラリアンフットボール選手のシーズン中とプレシーズンでの研究。

α-ラクトアルブミン

コラーゲンペプチドとの比較で睡眠の質に差はないが、シーズン中の入眠潜時を短縮する可能性。女性ラグビ選手ーのシーズン中とプレシーズンでの研究。

プロバイオティクス

ある種のプロバイオティクスを17週間毎日摂取すると、脚の重さや筋肉痛が軽減される可能性。炎症マーカーであるC反応蛋白(CRP)が低下し、筋肉痛は睡眠の質と時間の改善と関連していた。男性ラグビー選手でのシーズン中の研究。

亜鉛、鉄、ビタミンB12

亜鉛、ビタミンB12、鉄分を至適レベルで摂取すると、睡眠の質が向上する可能性がある。女性オーストラリアンフットボール選手のプレシーズンでの研究。

食事摂取タイミング

夕食と就寝時間の間が1時間長くなるごとに総睡眠時間が減少する一方、中途覚醒時間は短縮する可能性がある。男性オーストラリアンフットボール選手のシーズン中での研究。

総摂取エネルギー量

摂取エネルギー量が不十分だと睡眠の質が悪くなり、エネルギー需要を満たすための適切な補給戦略によって、総睡眠時間が延長する可能性がある。男性と女性の水泳、カヌー、アーチェリー、バレーボール、テコンドー選手での、シーズン中とプレシーズンの研究。

矛盾する結果が報告されている栄養戦略

就寝前の炭水化物摂取量

就寝前の炭水化物や糖分の摂取量が多いと中途覚醒時間が長くなり、睡眠効率が低下する可能性があるが、矛盾する報告もある。男性と女性選手の複数のシーズン中とプレシーズンでの研究。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutrition Strategies to Promote Sleep in Elite Athletes: A Scoping Review」。〔Sports (Basel). 2025 Oct 2;13(10):342〕
原文はこちら(MDPI)

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