スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2024 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

アスリートの乱れた食行動は、摂食障害だけでなくパフォーマンス低下や怪我のリスクを高める

アスリートの乱れた食行動が摂食障害のリスクを高めることが知られている。しかし、問題はそれだけでなく、怪我のリスク因子として捉えるべきであるとする論文が発表された。米国のエリートアスリートを対象に、縦断的デザインで行われた研究の結果として報告された。

アスリートの乱れた食行動は、摂食障害だけでなくパフォーマンス低下や怪我のリスクを高める

アスリートの乱れた食行動(DE)と摂食障害(ED)とパフォーマンスと怪我のリスク

エリートレベルでスポーツを行っているアスリートに、乱れた食行動(disordered eating;DE)が多いことがしばしば報告されている。そしてDEはやがて摂食障害(eating disorder;ED)へとつながり得ると理解されている。

エリートアスリートにDEが多い理由として、体重が軽いほうがパフォーマンス上は有利であるとする、過度に単純化された考え方があり、これはアスリート本人のみでなく、コーチなどのサポートスタッフの間にも根強く残っている。そのため、アスリートのDEを無視または言外に推奨するスタッフも存在する。

しかし、DEがパフォーマンス上有利に働くという報告はなく、むしろ反対ではないかとする研究が複数みられる。とは言えそれらの研究の多くは女性アスリートのみ、あるいは非エリートレベルを対象に調査しており、さらに横断的または後方視的研究が大半でありエビデンスレベルは高くない。

これらを背景として、今回紹介する論文の研究では、男性も含むエリートアスリートのEDを評価したうえで、6カ月後、12月後に追跡調査を行い、パフォーマンスや怪我の発生状況との関連が検討された。

パリ五輪参加選手も含むエリートアスリートを1年間追跡

この研究は、米国のアスリートのボディーイメージに対するプレッシャーと食事や運動との関係を検討した「ASPIRE研究(Addressing Sporting Pressures on athletes’ body Image and Relationships with Eating and exercise study)」のデータを解析して行われた。ASPIRE研究の参加者は、スポーツ競技団体、ソーシャルメディア、スノーボール方式で募集され、当初、2,960人が参加に同意。適格基準に満たないアスリートや参加登録時のスパム回答を除外し、178人の現役アスリートが、web調査への回答を開始した。

回答者の主な特徴は、年齢23.9±7.0歳、女性72.4%、およびパラアスリート8.1%で、行っている競技は持久系の27.0%と体重別階級競技の15.5%が多く、そのほかに審美系が10%未満含まれていた。ベースラインと6カ月後、および12カ月後に後述のweb調査への回答を得て、乱れた食行動(DE)の程度、パフォーマンス、怪我の状況などを把握した。なお、12カ月時点の調査は2024年パリオリンピックの開催期間と重複していたため、オリンピックに参加した12人については回答期限をオリンピック終了後まで延長した。

乱れた食行動(DE)、パフォーマンス、怪我の発生の評価方法について

乱れた食行動(DE)は、アスリートのDEの評価指標(Athletic Disordered Eating;ADE)で評価した。ADEは17項目の質問に対して0~4点のリッカートスコアで回答を得て、合計スコアの範囲は0~68点。スコアが高いほど、食行動がより乱れていることを意味する。ベースラインにおける平均スコアは33.0±12.3だった。

パフォーマンスの評価には、「現在の自分のパフォーマンスはどの程度優れていると思うか」、「現在の自分のパフォーマンスにどの程度満足しているか」などの四つの質問に対する主観的な回答のスコアを用いた。スコア範囲は0~100点で、スコアが高いほどパフォーマンスが高いと判定した。べースラインにおける平均スコアは65.8±19.1だった。

怪我の発生状況については、女性の利用可能エネルギー不足質問票(Low Energy Availability in Females Questionnaire;LEAF-Q)の怪我に関する項目を援用し、過去6カ月以内に怪我のためにトレーニングまたは競技会出場を断念したことの有無を質問。回答が「ない」は0点、「ある」の場合はその期間に応じて1~4点にスコア化した。べースラインにおいて、0点が46.0%であり、4点(22日以上)が14.9%だった。

それでは解析結果をみていこう。

乱れた食行動(DE)スコアがパフォーマンスの低さや怪我のリスクと関連

3時点すべてで、DEスコアが高いほどパフォーマンスが有意に低い

まず、ベースライン、6カ月時点、12カ月時点の各評価項目のスコアの相関をみると、一部を除いて大多数の関連が有意であった。例えば、ベースラインにおいて、乱れた食行動(DE)のスコアが高いほどパフォーマンスのスコアは低く(r=-0.29)、過去6カ月以内の怪我による離脱が多かった(rs=0.28)。

全体として、どの時点においてもDEスコアが高いほどパフォーマンスが有意に低く、過去6カ月以内の怪我による離脱が少ないほどパフォーマンスが有意に高いという関連が認められた。

DEスコアの高さは怪我による離脱とも有意に関連

次に、ベースラインのDEスコアとパフォーマンススコアを独立変数、性別を調整変数、6カ月時点のパフォーマンススコアを従属変数とする重回帰分析を実施した。なお、追跡時点でのデータ欠落は多重代入法により補完した。解析の結果、ベースラインのパフォーマンススコアのみ有意な関連がみられ(B=0.37〈95%CI;0.14~0.60〉)、ベースラインのDEスコアとの関連は非有意だった。

続いて、ベースラインのDEスコアと怪我による離脱を独立変数、性別を調整変数、12カ月時点の怪我による離脱を従属変数とする解析を実施。その結果、ベースラインのDEスコアは12カ月時点の怪我による離脱と有意な関連があり(B=0.04〈0.01~0.07〉)、またベースラインの怪我による離脱も12カ月時点の怪我による離脱と有意な関連があった(B=0.31〈0.04~0.58〉)。

乱れた食行動は怪我のリスクを高めるという視点が重要

このほかの解析から、ベースラインのDEスコアは、6カ月および12カ月時点のパフォーマンスとの有意な関連はみられなかった。論文では一連の結果を総括し、以下の3項目を要点として掲げている。

  • エリートアスリートでは性別によらずベースラインでの食行動がより乱れているほど、その後の怪我による離脱が増えると予測される。
  • 乱れた食行動はその時点でのパフォーマンスが低いことと関連があるが、6カ月後または12カ月後のパフォーマンスを予測しない。
  • 乱れた食行動をパフォーマンスの向上に必要なものと考えるべきではなく、むしろ、怪我のリスクやそれによるトレーニングからの離脱、および競技会参加機会の喪失につながる潜在的な原因であると考えられる。

文献情報

原題のタイトルは、「A longitudinal investigation of performance and injury outcomes associated with disordered eating in elite athletes」。〔Sports Med Open. 2025 Oct 29;11(1):122〕
原文はこちら(Springer Nature)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2025後期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ