暑い日が多いと翌年以降の認知症発症と全死亡が増える 国内の高齢者6万人対象研究で明らかに
地球の温暖化が認知症リスクを増大させている可能性を示唆するデータが報告された。5~9月の間に例年以上に暑い日が30日あると、翌年の認知症発症リスクが約40%増え、さらに認知症診断前に死亡した可能性のあるケースも考慮すると、認知症発症リスクは最大150%増加する可能性があるという。東京科学大学公衆衛生学分野准教授兼ウェルビーイング創成センター研究員の森田彩子氏らの研究によるもので、「Alzheimer's & Dementia」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが発表された。

暑い日の増加は「熱中症」だけでなく「認知症」も増やす
近年、夏季を中心に「観測史上最高気温を更新」または「熱中症の疑いで死亡」といったニュースが繰り返し報道され、地球の温暖化は人々の健康にとって脅威となっており、とくに熱中症対策の重要性が強調されるようになった。さらに暑熱環境による健康への悪影響は熱中症のリスク増大だけでなく、貧困層の住民の認知機能低下を加速させる可能性が、これまでの研究で示唆されてきている。ただし、暑い日の増加が認知症発症に及ぼす長期的な影響については、まだ十分に明らかにされていない。
また、世界的な高齢者人口の増大を背景に、認知症の修正可能なリスク因子を特定し、それらに対する予防的な介入を進めることが、各国の公衆衛生施策において喫緊の課題となっている。日本は世界の中で最も急速に高齢化が進行中の国であり、とくに対策の緊急性が高い。これらを背景として森田氏らは、国内の公的介護保険制度のデータ等を用いて以下の検討を行った。
なお、認知障害のある高齢者は、心臓や血圧の安定、食欲や水分補給の調整が難しいため、暑熱によるストレスで死亡リスクが高まることが知られている。そのため、仮に暑熱環境が認知症発症リスクを高めるとしても、認知症と診断されるよりも先に死亡に至ることもあると考えられる。つまり、認知症に伴う死亡が競合リスクとなって、暑熱負荷と認知症発症との関連を過小評価してしまう可能性がある。
一方、日本では、全国民が加入している公的介護保険制度のデータなどを用いることで、認知機能低下に伴う要介護状態の発生と死亡を一つのデータベースで追跡できる。そのため、死亡という競合リスクを考慮した精微な解析が可能であり、森田氏らはこの点も、このトピックに関する検討を日本で行う重要な意義の一つとして挙げている。
日本老年学的評価研究と気象庁のデータを用いて、暑熱負荷との関連を検討
解析対象は、全国各地の高齢者を対象とする長期観察研究「日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study;JAGES)」の2016年度調査参加者のうち、認知症の既往歴や機能障害がなく(介護保険を利用せず)自立した生活を送っていて、同じ地域に30年以上居住している5万7,178人(74.6±6.3歳、女性54.1%)。
認知症の発症は、介護保険制度のデータから把握した。「認知症高齢者の日常生活自立度」の判定基準においてIIランク以上と判定され、要介護認定を受けた場合を認知症の発症と定義したところ、2019年度までの3年間の追跡期間中に2,454人(4.3%)がこれに該当した。また同期間の全死因死亡は2,375人(4.2%)だった。
暑熱負荷の評価方法
気象庁のデータを用いて、解析対象者の居住している市町村の過去30年間の5~9月の日平均気温を把握し、日平均気温が上位10%以内の日を相対的な猛暑日と定義。その総数を7で除して、週単位に換算した相対的猛暑日数を算出して、2017~19年における認知症発症と全死亡との関連を検討した。また、同期間の上位1%以内の日を相対的な酷暑日と定義し、その総数と2017~19年における認知症発症と全死亡との関連も検討した。
それらの関連の検討は、以下の2通りの方法で行った。
1)直近1~3年間の累積暑熱負荷との関連の検討
一つ目の方法では、ある年のイベント(認知症発症または全死亡)と、過去1~3年間の暑熱負荷の累積との関連を検討した。例えば2017年に発生したイベントについて、過去3年間の暑熱負荷との関連を検討する場合、2014~16年の相対的な猛暑日・酷暑日の累積日数(前者については週単位に換算した日数の累積)との関連を検討した。
2)直近1~3年の各年の暑熱負荷との関連の検討
二つ目の方法では、ある年のイベントと、過去3年間の各年の暑熱負荷との関連を検討した。例えば2017年に発生したイベントについては、2014年、2015年、2016年という1年ごとの相対的な猛暑日・酷暑日の日数(前者については週単位に換算した日数)との関連を検討した。
相対的猛暑日が30日あると翌年の認知症発症が約1.43倍に増える
論文では、交絡因子未調整の粗モデルと、交絡因子として、年齢、性別、教育歴、婚姻歴、職業の影響を考慮した調整モデルの結果が示されている。ここでは調整モデルの結果のみを紹介する。
1)直近1~3年間の相対的な猛暑日・酷暑日の累積日数と認知症・全死亡との関連
まず、直近1~3年間の累積暑熱負荷との関連をみると、認知症発症、死亡率、およびそれら両者のいずれについても、ほぼすべて有意なオッズ上昇が認められた。
例えば、直近3年間の相対的な猛暑日との関連では、認知症発症はオッズ比(OR)1.092(95%CI;1.054~1.131)、全死亡はOR1.130(1.093~1.169)であり、それらいずれかではOR1.258(1.220~1.297)だった。また、過去3年間の相対的な酷暑日との関連では、認知症発症についてはOR1.009(0.998~1.019)と非有意だったが、全死亡はOR1.032(1.021~1.043)、それらいずれかではOR1.049(1.040~1.058)と有意だった。
相対的猛暑日や酷暑日は認知症発症や死亡をどのくらい増やすか
2016~18年に観測された相対的な猛暑日の年間最大値は37日だった(本来なら5~9月の150日の10%で15日)。30日(約4.28週間)分の累積曝露によるリスク増加を推定するため、上述した相対的猛暑日が1週間増加するごとの認知症発症のオッズ比1.092を4.28乗し、累積曝露に対応するオッズ比を算出した。その結果、相対的猛暑日が30日増加すると翌年の認知症発症のオッズ比が約1.43倍に上昇すると推計された(図)。同様の計算で、全死亡のオッズ比は約1.63倍、認知症発症または全死亡のオッズ比は約2.50倍に上昇すると推計された。
図 相対的猛暑日の日数と翌年の認知症発症、全死亡のオッズ比

2)直近1~3年の各年の相対的な猛暑・酷暑日の日数と認知症・全死亡との関連
次に、直近1~3年の各年の暑熱負荷との関連をみると、認知症発症、死亡率、およびそれら両者のいずれについても、1年前および3年前の暑熱負荷との関連については、ほぼすべて有意なオッズ比上昇が認められた(3年前の相対的酷暑日の日数と認知症発症との関連のみ非有意)。
その一方、2年前の暑熱負荷との関連については有意ではないか、もしくは暑熱負荷が保護的に働いているという関連が認められた。この点について論文の考察には、暑熱負荷に対してより脆弱な人が、その年のうちに死亡または認知症を発症した結果として、2年目にはハイリスク者が一時的に減ることの影響が表れているのではないかと述べられている。
熱中症警戒アラートに、認知症リスクを反映させる必要もある
著者らは、「先行研究から、極端に暑い日が増加すると、貧困地域など一部の人々の認知機能低下を加速させる可能性が示唆されていた。我々の研究結果は、この影響が特定の集団に限られず、より広い高齢者層にも認められることを示す新たなエビデンスと言える」と述べている。
そして、現在は主として熱中症予防を目的に運用されている暑熱負荷への警報システムを、死亡や認知症発症リスクという側面も考慮したものとする必要性を指摘。また、「エアコン設置への助成、街中の日陰や冷房設備を備えたパブリックスペースの拡大などを積極的に推進することが、認知症を含む暑熱負荷に伴う健康リスクの軽減につながるのではないか」と提言を加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of extreme heat on the onset of dementia and all-cause mortality: A 3-year follow-up study in a large population-based cohort in Japan」。〔Alzheimers Dement. 2026 Jan;22(1):e71057〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)
プレスリリース
暑い日の増加が高齢者の認知症発症リスクを長期的に高める可能性(東京科学大学)
シリーズ「熱中症を防ぐ」
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