人生最初の1000日の糖制限が生涯にわたる心血管代謝疾患のリスク低下と関連 英国の大規模研究
受胎から2歳ごろまで、いわゆる「人生の最初の1000日」の栄養の重要性を示唆する新たなエビデンスが報告された。英国において砂糖や菓子の配給制が行われていた時期に生まれた人と、その制度が廃止された後に生まれた人の健康状態を比較した自然実験の結果であり、前者の群で心血管疾患のリスクが有意に低いことが示されたという。

人生の最初の1000日の栄養
受胎から2歳ごろまでの1000日間は生物学的感受性が最も高い時期であり、この時期の母親および乳幼児の食生活、病原体への曝露、社会経済的環境が、その後の健康状態に永続的な影響を及ぼすという理解が広がっている。とくに心血管代謝疾患のリスクとの関連が強固であることが示唆されており、この時期への介入は成人後の疾患管理よりも費用対効果が高いことも示されている。
世界保健機関(WHO)は乳児の栄養について、6カ月までは母乳育児とし、その後、適切な離乳食をもちいながら、2歳まで母乳育児を継続することを推奨している。母乳中の糖の含有量は母親の食事の影響を受けないが、離乳食の開始とともに母親の食生活の影響を受け始める。また、胎児期には母親の栄養次第で過剰な糖摂取に伴う血管内皮機能低下などが生じることが、動物実験では明らかになっている。
このように人生の最初の1000日の栄養の重要性に関する知見が蓄積されてきている一方で、現代では多くの先進諸国の母親および乳幼児が添加糖を多量に摂取している。
英国では1942年から1953年まで砂糖と菓子が配給制だった
ところで、英国では第二次世界大戦中の1942年7月に、砂糖と菓子の配給制が実施された。これにより、成人1人あたりの砂糖摂取量は40g未満、5歳未満の幼児は15g未満となり、現在の食事ガイドラインの推奨に一致する程度となっていた。さらに注目すべきこととして、2歳未満の子どもは砂糖や菓子の配給の対象に含まれていなかった。
この配給制度は戦後の1953年9月に終了。その後、英国民の砂糖摂取量は急増した。ただし、砂糖以外の摂取量には大きな変化がなかった。これにより、胎児期から乳幼児期に砂糖摂取が制限されていた人とそうでない人のその後の健康状態を比較するという、絶好の自然実験が可能となった。
砂糖配給制度下で育った人は、心血管疾患の発症や心血管死のリスクが低い
以上を背景として実施されたこの研究は、英国の一般住民対象の大規模疫学研究である「UKバイオバング」のデータを用いて行われた。解析対象は、UKバイオバング参加者のうち、1951年10月~1956年3月に生まれ、研究参加時点で心血管疾患の既往、多胎出産、養子縁組、英国外での出産に該当しない6万3,433人(平均年齢54.6±1.6歳、女性56.9%)。このうち4万63人は配給制度のある時代に人生最初の1000日を過ごし、2万3,370人は同制度廃止後に育っていた。
主要評価項目は、リンクされた医療記録を用いて確認された、心血管疾患、心筋梗塞、心不全、心房細動、脳卒中の発症、および心血管死とし、その他、心臓MRI検査のデータがある対象者については左室駆出率などについても比較した。
すべての主要評価項目について砂糖供給制度下で育った群が低リスク
解析に際しては、年齢と性別を調整した「モデル1」、さらに人種、出生地、出生月、食品の価格(消費者物価指数で調整)、家族歴(両親の心血管疾患、糖尿病、高血圧)、各アウトカムの遺伝的リスクスコア、出産前後の母親の喫煙、乳児期の母乳育児、調査年を調整した「モデル2」、モデル2と同様の交絡因子を調整し、ゴンペルツ分布に基づくパラメトリックハザードモデル(時間推移によるリスクの指数関数的な変化を仮定したモデル)である「モデル3」という3通りの解析が行われた。
その結果、主要評価項目の多くについて、配給制度下で人生の最初の1000日を過ごした群のほうが有意に低リスクであることが示された。とくにモデル3では以下に記すように、すべてが有意に低リスクだった。心血管疾患はハザード比(HR)0.80(95%CI;0.73~0.90)、心筋梗塞はHR0.75(0.63~0.90)、心不全HR0.74(0.59~0.95)、心房細動HR0.76(0.66~0.92)、脳卒中HR0.69(0.53~0.89)、心血管死HR0.73(0.54~0.98)。
副次的に評価された心臓MRI検査データについては、左室駆出率(54.9±6.8 vs 54.6±6.2%、p<0.001)、左心室一回拍出量係数(46.7±11.4 vs 46.1±11.3mL/m2、p=0.03)が、わずかながら砂糖供給制度下で育った群のほうが良好だった。
媒介分析からは、砂糖制限が心血管疾患に及ぼす影響のうち、2型糖尿病の発症が23.9%を媒介し、高血圧の発症が19.9%を媒介していて、糖尿病と高血圧の発症で31.1%を媒介することが示された。それに対して、出生体重の寄与はわずかに2.2%にとどまっていた。
人生最初の1000日間の糖分制限は心臓に良い
論文の結論は、「人生最初の1000日間に糖分制限を受けた人は、成人期の心血管疾患リスクが低く、心臓指標もわずかに良好であったことから、幼少期の糖分制限は長期的な心血管疾患予防に有益であることが示唆された」と総括されている。
本論文に関連してジャーナル発行元のBMJからプレスリリースが出ている。そのなかで、本研究が観察研究であるため因果関係について確固たる結論を出すことはできないこと、また論文著者らが詳細な個々の食事データが不足していることや結果に影響を与えた可能性のある想起バイアスなど、いくつかの限界を認めていることを指摘している。
しかし同時に論文著者らは、この大規模で綿密に設計された研究により、異なる曝露期間の影響を個別に評価し、砂糖の制限と心血管疾患の転帰を結びつける可能性のある経路を探ることができたと述べているという。
プレスリリース
Early life sugar restriction linked to lasting heart benefits in adulthood(BMJ)
文献情報
原典論文のタイトルは、「Exposure to sugar rationing in first 1000 days after conception and long term cardiovascular outcomes: natural experiment study」。〔BMJ. 2025 Oct 22:391:e083890〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group)







熱中症予防情報
SNDJユニフォーム注文受付中!

