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長期的な暑熱適応を考慮しても国内の熱中症死亡者数は増加 21世紀半ばには1.6倍に増加と予測

国内の熱中症による死亡者数は、長期的な暑熱適応の効果を見込んだとしても、21世紀半ばにかけて増加していくとの予測が発表された。国立環境研究所と東京大学の研究チームの研究によるもので、「Environmental Research」に論文が掲載された。

長期的な暑熱適応を考慮しても国内の熱中症死亡者数は増加 21世紀半ばには1.6倍に増加と予測

研究の概要

国立研究開発法人 国立環境研究所と東京大学からなる研究チームは、今後、数十年にわたる長期的な暑熱適応※1の効果を考慮して、熱中症死亡者数を予測することが可能な手法を開発し、気候変動および人口動態も考慮したうえで、47都道府県の将来予測に取り組んだ。

※1 暑熱適応:生理学的および非生理学的な要因(行動変容、技術対策の導入、規制の導入など)により、今後、数十年という長期にわたって暑熱に対する適応が高まる現象のこと。なお、各要因ごとの熱中症死亡リスク低減にもたらす効果が十分に明らかになっていないため、それらの効果を個々には考慮していないことに留意。

その結果、熱中症死亡数は、暑熱適応を考慮したとしても、基準期間(1995~2014年)と比べて21世紀半ば(2031~50年)に、1.6倍に増加することを明らかにした。気候変動や超高齢社会の進行により、熱中症死亡数は21世紀半ばに向けて増加すると予測され、さらなる熱中症対策の必要性が示唆された。

研究の背景と目的:熱中症死亡者数の変化を、暑熱適応を考慮して予測

気候変動による気温上昇に伴い、熱中症による健康影響が我が国で深刻となっている。夏期平均気温をみると、統計を開始した1898年以降、2023年と並び2024年においても1位タイを記録するとともに、熱中症死亡者数も過去最多の2,160人となった。気候変動が今後も進行すれば、熱中症死亡者数のさらなる増加が懸念される。

国は、熱中症による健康影響の軽減を目指して2023年に閣議決定された「熱中症対策実行計画」において、熱中症死亡者数を2030年までに現状※2から半減させる目標を掲げている。気候変動が進行し、また、超高齢社会を迎えている我が国において、将来の熱中症死亡者数を推定することは、今後追加的に必要となる熱中症対策を検討するうえで重要。

※2 「熱中症対策実行計画」では現状の死亡者数は1,295名(2022年までの5年移動平均死亡者数)と記載されている。

気候変動が進行するなか、生理学的および非生理学的な要因(行動変容、技術対策の導入、規制の導入など)により、今後、数十年という長期にわたって暑熱適応が進むことも予想される。その結果、同じ暑さでも、現在に比べて将来では熱中症リスクが低くなることも期待される。このような効果を「長期的な暑熱適応」と呼ぶ。

そこで、研究チームは、気候変動および人口動態に加え、長期的な暑熱適応の効果も考慮したうえで、熱中症死亡者数の将来予測に取り組んだ。

研究手法:都道府県ごとに暑熱適応を考慮し、複数のシナリオで検討

本研究では以下の研究手法により、65歳未満および65歳以上という2世代を対象に、熱中症死亡者数の将来予測に取り組んだ。

将来予測の方法について、日最高WBGT※3と熱中症死亡数の関係は指数関数で示すことができる(図1-①)。そこでまず、この指数関数を世代別に47都道府県ごとに作成のうえ、熱中症死亡率が増加し始める日最高WBGT(WBGT閾値)を算定した。続いて、47都道府県ごとにその地域の暑さ(5~9月の日最高WBGTの平均値)とWBGT閾値との関係を調べると、正の相関があることが明らかになった(図1-②)。具体的には、暑い地域ほどWBGT閾値が高くなる傾向があり、この相関は暑熱適応レベルの地域差を示すと考えられる。気候変動により地域の暑さが増す際に、この相関を用いてWBGT閾値およびリスク関数を日最高WBGT側にシフトさせることで、暑熱適応を考慮した(図1-③※4

※3 WBGT:湿球黒球温度のこと。黒球温度、湿球温度、乾球温度の三つの指標から計算される。熱中症リスクを判断する数値として用いられる。
※4 図1-②の分析より、夏期平均日最高WBGTが1℃上昇すると、いずれの世代においてもWBGT閾値が0.5℃程度上昇することが分かった。本研究では、この関係にもとづき、今後の長期的な暑熱適応を考慮した。なお、将来の暑熱適応の進み具合によって、WBGT閾値の高温側へのシフトするタイミングが遅れたり、あるいはそのタイミングが早まったりするなどの不確実性も存在し、これに伴う熱中症死亡者数の予測にも不確実性があることに留意。

図1 気候変動により地域の暑さが増した場合の暑熱適応を考慮する方法

気候変動により地域の暑さが増した場合の暑熱適応を考慮する方法

日最高WBGTと熱中症死亡率の関係を指数関数で示すことができる(①)。地域の暑さとWBGT閾値には正の相関がある(②)。気候変動により地域の暑さが増した際に、この相関を用いWBGT閾値とリスク関数を日最高WBGT側に平行にシフトさせることで暑熱適応を考慮した(③)。
(出典:国立環境研究所)

上記手法に基づき暑熱適応を考慮のうえ、各予測期間における日々の日最高WBGTを入力することにより、47都道府県の将来の熱中症死亡率および死亡者数を世代別に予測した。なお、予測期間は、基準期間(1995~2014年)、21世紀半ば(2031~50年)、21世紀末(2081~2100年)とした。入力する日最高WBGTは、三つの社会経済シナリオ(SSP)※5および代表的濃度経路シナリオ(RCP)※6の組み合わせと、五つの気候モデル※7を基に設定した。

※5 社会経済シナリオ(SSP):将来の社会経済の発展の傾向を仮定したシナリオ。社会経済の多様な発展の可能性を気候変動に対する緩和と適応の困難度に基づきSSP1からSSP5の五つに区分する。本研究では、SSPが提供する将来人口を熱中症死亡者数の計算に用いている。また、RCPと親和性のあるSSPの組み合わせを採用している(SSP1-RCP2.6、SSP2-RCP4.5、SSP5-RCP85)。
※6 代表的濃度経路シナリオ(RCP):人間活動に伴う温室効果ガス等の大気中の濃度が将来どう変化するかを想定したシナリオ。温室効果ガスの濃度変化には不確実性があるため、いくつかの濃度変化パターンが想定されている。代表的なものにRCP2.6、RCP4.5、RCP8.5があり、数字が大きいシナリオほど高い温室効果ガス濃度を想定している。
※6 気候モデル:将来の気候をシミュレーションするモデル。本研究ではACCESS-CM2、IPSL-CM6A-LR、MIROC6、MPI-ESM1-2-HR、MRI-ESM2-0の五つの気候モデルを採用した。

研究成果:暑熱適応を考慮しても熱中症死亡率が21世紀末には最大で倍近くに上昇

熱中症死亡率

暑熱適応を考慮しない場合、熱中症死亡率(以下「死亡率」という)は、いずれのSSP-RCPシナリオにおいても基準期間と比べて、21世紀半ばに65歳未満で1.8倍、65歳以上で1.7倍に増加すると予測された(図2)。一方、暑熱適応を考慮した場合、それぞれ1.3倍、1.2倍に増加すると予測された※8

※8 65歳未満に比べて、65歳以上のほうが暑さに脆弱であり、死亡率も高いものの、現状において65歳以上の死亡率が既に高いこと、また気温上昇に伴う死亡率の増加が65歳未満のほうが大きい県が存在することも相まって、現状からの増加率でみると65歳以上のほうが小さくなっている。

図2 熱中症死亡率の予測結果

熱中症死亡率の予測結果

基準期間の熱中症死亡率を1としている。暑熱適応を考慮しない場合の結果と考慮した場合の結果を示す。本研究では、三つの社会経済シナリオ(SSP)および代表的濃度経路シナリオ(RCP)の組み合わせを利用(SSP1-RCP2.6、SSP2-RCP4.5、SSP5-RCP 8.5)。図は五つの気候モデルによる結果の平均値を示す。
(出典:国立環境研究所)

また、21世紀末には、暑熱適応を考慮しない場合、全SSP-RCPシナリオにおいて、65歳未満で1.8~6.9倍、65歳以上で1.7~5.8倍に、暑熱適応を考慮した場合、それぞれ1.3~2.4倍、1.2~1.8倍に増加すると予測された(図2)。

熱中症死亡者数

暑熱適応を考慮しない場合、熱中症死亡者数(以下「死亡者数」という)※9は、いずれのSSP-RCPシナリオにおいても基準期間と比べて、21世紀半ばに65歳未満で1.3倍、65歳以上で2.5倍に増加すると予測された(図3)。一方、暑熱適応を考慮した場合、それぞれ0.97倍、1.8倍に変化すると予測された。

※9 死亡率に人口を掛けることで熱中症死亡数を算定。

図3 熱中症死亡者数の予測結果

熱中症死亡者数の予測結果

(出典:国立環境研究所)

また、21世紀末には、暑熱適応を考慮しない場合、全SSP-RCPシナリオにおいて、65歳未満で0.91~3.7倍、65歳以上で1.8~6.6倍に、暑熱適応を考慮した場合、それぞれ0.64~1.3倍、1.2~2.1倍に変化すると予測された。

全世代の死亡者数でみると、暑熱適応を考慮しない場合、いずれのSSP-RCPシナリオにおいても基準期間と比べて21世紀半ばに2.2倍に、暑熱適応を考慮した場合、1.6倍に増加すると予測された。また、21世紀末には、暑熱適応を考慮しない場合、全SSP-RCPシナリオにおいて、1.5~5.8倍に、暑熱適応を考慮した場合、1.1~1.9倍に増加すると予測された。

暑熱適応を考慮しても、現在よりも死亡者数の増加が予測され、さらなる熱中症対策の必要性が示唆された。

今後の展望

研究チームは、本研究の限界点として、「暑熱適応に寄与する生理学的および非生理学的な各要因が、熱中症死亡リスク低減にもたらす効果が十分に明らかになっていないこともあり、本研究では各要因の効果まで考慮できていない」とし、「今後は各要因がもたらす効果、例えば熱中症警戒アラートが熱中症死亡リスク低減にもたらす効果を明らかにし、その効果を考慮して熱中症死亡者数の将来予測に取り組む予定」としている。また、「熱中症リスク低減を目指すべく、関連機関との連携のもと、熱中症対策の社会実装に向けた活動にも取り組む予定」という。

関連情報

長期的な暑熱適応の効果を見込んでも気候変動と超高齢社会により21世紀半ばに向けて熱中症死亡者数が増加する(国立研究開発法人 国立環境研究所)

文献情報

原題のタイトルは、「Future heatstroke mortality in Japan: Impacts of climate, demographic changes, and long-term heat adaptation」。〔Environ Res. 2025 Dec 15:287:123012〕
原文はこちら(Elsevier)

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