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筋肉機能の回復は口呼吸より鼻呼吸のほうが早い可能性

運動中に、鼻で呼吸するのと口で呼吸するのとでは、どちらが有利なのだろうか? 筋肉の機能に的を絞って比較検討した研究が発表された。運動負荷終了とともに各人が楽な方法で呼吸してよいという条件での比較にもかかわらず、運動中に鼻呼吸をしていたほうが、筋肉機能の回復が早いという結果が示されている。また、血流依存性血管拡張反応(FMD)も、鼻呼吸の場合においてのみ、運動後に有意に上昇したという。

筋肉機能の回復は口呼吸より鼻呼吸のほうが早い可能性

筋肉の機能に重要なNOは鼻呼吸のほうが多く産生される

一酸化窒素(NO)は、血管平滑筋を弛緩させて血管拡張と血流増加を促す。この作用は運動中の筋肉への酸素供給にとって重要な役割を果たす。またNOはミトコンドリア内での酸素消費や、エネルギーの通貨であるアデノシン三リン酸(ATP)生成の調節などにも関与し、それらもアスリートのパフォーマンスに影響を及ぼし得る。

体内でのNO産生は一酸化窒素合成酵素(NOS)によって刺激される。NOSには、神経型(nNOS)、血管内皮型(eNOS)、誘導型(iNOS)の3タイプがあるが、このうちiNOSは定常状態ではほとんど検出されず、酸化や炎症のストレスが加わった時に発生する。そして、鼻腔粘膜ではそれらのストレス負荷時にiNOSの刺激を受けてNO産生が増加することが報告されており、一方で口呼吸は循環NOが低下するという報告がある。

これらより、鼻呼吸は口呼吸よりも筋肉への血流と酸素の供給という点で有利な可能性がある。今回取り上げる論文では、その可能性を、ウィンゲートテストでの運動負荷中および負荷後の筋肉の酸素飽和度(TSI)を近赤外分光法(NIRS)で連続測定し、呼吸法により差があるのかを検討した。

クロスオーバー法でウィンゲートテスト中の酸素飽和度やFMDの変化などを比較

研究参加者は、体育・スポーツの教育を受けている49人(女性24人、男性25人)の健康な非喫煙者で、プロ・エリートレベルのアスリートは除外されている。平均年齢は女性22.3±2.8、男性23.4±4.0歳、BMIは同順に22.0±2.6、23.3±3.0、身体活動量3.5±3.4、3.4±2.3時間/週で、いずれも性別による有意差はなかった。

研究デザインはカウンターバランス・クロスオーバー法で、2日間の間隔をあけて、鼻呼吸条件と口呼吸条件の計2回、ウィンゲートテスト(30秒)を行った。試行の8時間前からは、カフェインやアルコールの摂取と運動を禁止した。

ウィンゲートテストは、鼻呼吸条件では口をテープで塞ぎ、口呼吸条件では鼻をクリップで塞いだ。負荷開始20秒前にその状態として、負荷終了とともに外した。負荷中は5秒ごとにパワーを測定したほか、パルスオキシメーターにより動脈血酸素飽和度(SpO2)、NIRSにより外側広筋の酸素飽和度(TSI)を測定。また、ボルグスケールにより自覚的運動強度を評価した。さらに、テストの前後に前腕で血流依存性血管拡張反応(FMD)を測定した。

自覚的運動強度は口呼吸で強くなるが、ピークパワーやSpO2、TSIには有意差なし

運動負荷中の5秒ごとに測定されたパワーから求めた、参加者ごとの最大値の全体平均(mean peak power output;mPPO)と、参加者ごとの平均値の全体平均(average peak power output;aPPO)は、いずれも性別にかかわらず、1回目より2回目のほうが有意に高かった。また、性別の比較では男性のほうがより大きく上昇していた。

口呼吸条件と鼻呼吸条件での比較では、ボルグスケールで評価した自覚的運動強度に関しては口呼吸条件のほうか有意に高値を示した(9.0±1.1 vs. 8.0±1.3、p=0.04)。しかし一方で、パワーの指標としたmPPOやaPPOについてはいずれも有意差が認められなかった。また、動脈血酸素飽和度(SpO₂)についても、呼吸条件による差はみられなかった。さらに、30秒間の負荷中に生じた外側広筋酸素飽和度(TSI)の変動幅(ΔTSI)、30秒間でのTSI変動の曲線下面積(AUC)についても、条件間に有意差がなかった。

回復中のTSIは鼻呼吸条件が有意に速く上昇し、FMDにも有意差

次に、回復中の外側広筋のTSIに着目すると、TSIの最大値は口呼吸が73.1±3.6%なのに対して、鼻呼吸では75.2±4.0%と有意に高かった(p=0.04)。また、回復中のTSIの上昇幅をそれに要した時間で除してTSIの回復速度を比較すると、口呼吸では0.23±0.12%/秒、鼻呼吸では0.45±0.4%/秒であり、鼻呼吸のほうが有意に高値であり(p=0.02)、鼻呼吸では筋肉機能がより迅速に回復することが示唆された。

ほかにも、運動負荷前後での血流依存性血管拡張反応(FMD)は、口呼吸条件では負荷前が105.9±3.6%、負荷後が106.1±3.6%で有意な変化がないのに対して(p=0.81)、鼻呼吸条件では107.4±3.0%、110.3±3.6%と負荷後に有意に上昇し(p<0.001)、負荷後の値に条件間の有意差が認められた(p<0.0001)。

アスリートだけでなく高齢者にも鼻呼吸が大切?

著者らは本研究で示された結果のうち、一つのポイントは、初回よりも2回目のセッションで運動パフォーマンスが向上し、男性の方が女性よりも有意に高く、男性のmPPOとaPPOは女性をそれぞれ36%と31%上回ったことであるとしている。

そして、本研究の主題である呼吸方法の違いについては、「ウィンゲートテストという高強度の無酸素運動負荷では、口呼吸と鼻呼吸の違いはパワーには影響を与えないことが示された。ただし、回復過程においてはNO産生経路が有意な差となって現れる可能性も示されており、鼻呼吸の重要性を浮き彫りにしている」と総括。また、「本研究の知見から、アスリートのみでなく、高齢者の筋力の維持という視点でも、鼻呼吸によりNOの生物学的利用能を最適化することに焦点を当てるべきではないか」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of Oral Versus Nasal Breathing on Muscular Performance, Muscle Oxygenation, and Post-Exercise Recovery」。〔Sports (Basel). 2025 Oct 20;13(10):368〕
原文はこちら(MDPI)

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