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持久系アスリートは競技中の炭水化物摂取量を過大評価? 睡眠や不安との関連も明らかに

マラソンランナーやサイクリストはレース中に自身が摂取している炭水化物の量を、実際の摂取量よりも多く見積もっているようだ。トルコ開催の国際大会に参加したTier2のアスリートを対象とする研究で明らかにされた結果であり、レース前の睡眠や不安とレース中の炭水化物摂取量との関連も報告されている。

持久系アスリートは競技中の炭水化物摂取量を過大評価? 睡眠や不安との関連も明らかに

持久系アスリートの競技中の炭水化物摂取量を正確に測定

スポーツ栄養に関するガイドライン等では、持久系競技において、主要なエネルギー基質である炭水化物の摂取量がパフォーマンスを発揮するために重要であることが強調されてきている。しかしその一方で、多くの持久系アスリートがその推奨を満たしていないこともしばしば報告されている。これには、炭水化物の摂取量を増やすことに伴い、消化器症状が現れやすくなることも一因と考えられており、レース中の炭水化物摂取量や摂取タイミング、炭水化物の形態(種類)などを最適化する戦略の模索が続けられている。

その戦略を確立するための研究では、レース中にアスリートが摂取した炭水化物の量を把握することが欠かせない。しかし、その摂取量が正確に評価されていないと指摘する報告もみられる。具体的には、レース前に計画した量やアスリート本人の主観的な摂取量のみを評価していて、残食量を測定することにより摂取量を正確に評価している研究は少ないと報告されている。

これを背景として今回紹介する論文の著者らは、マラソンと自転車という2種類の持久系競技において、選手が競技中に摂取した食品の種類と量を詳細に把握し、実際の摂取量と事前に計画されていた量、および選手自身の主観的な判断に基づく摂取量が、どの程度の乖離があるのかを検討した。また、既報研究により、競技中の炭水化物摂取量に影響を及ぼす可能性が指摘されている、睡眠や不安との関連も検討した。

トルコ開催のマラソンまたは101kmロードレース参加者を対象に検討

解析に用いたデータは、トルコ国内で実施されたマラソンおよび自転車の国際大会参加者から得た。マラソンは2024年12月に、気温12~17°Cの穏やかな天候で実施された国際メルシンマラソンで、38人の選手のデータが収集された。自転車は同年11月、14~20°Cで強風と雨という天候で実施された101kmのロードレース(UCIニルヴァーナ・グランフォンド・ワールドシリーズ・アンタルヤ)で、22人の選手のデータが収集された。

競技中の実際の炭水化物摂取量は、競技の前の補食の計量と競技後の補食の残食量の差に基づき、客観的に割り出した。このほかに、各選手から、事前に計画した摂取量と、主観的な摂取量を報告してもらった。また、アスリートの睡眠行動質問票(Athlete Sleep Behavior Questionnaire;ASBQ)、競技状態不安尺度(Competitive State Anxiety Inventory-2 Revised;CSAI-2R)、消化器症状評価尺度(Gastrointestinal Symptom Rating Scale;GSRS)を用いて、睡眠、不安、消化器症状を把握し、加えて競技前日と競技当日の朝の食事記録を報告してもらった。

研究参加者の特徴

研究参加者は大半が男性で女性は3人(マラソン1人、自転車2人)であり、年齢は41.8±9.4歳でマラソン選手のほうが高齢であり(同順に44.8±7.7、36.9±10.1歳〈p=0.001〉)、競技歴は10.1±8.5年で有意差はなかった。ベストタイムはマラソン選手が3時間19分±36分、自転車が3時間5分±43分だった。

競技前日のエネルギー摂取量、炭水化物摂取量は、マラソンが2,299±756kcal、3.40±1.62g/kg、自転車が3,216±1,067kcal、4.95±1.73g/kgで、ともに自転車競技選手のほうが高値だった。レース当日の朝の食事についても、マラソンが539±414kcal、1.0±0.7g/kg、自転車が810±320kcal、1.4±0.7g/kgで、やはり自転車競技のほうが高値だった。

競技中の炭水化物摂取量は事前計画より少ない

レース中の炭水化物摂取量は、マラソンでは事前の計画の値が25.9±18.2g/時であったのに対して、実測値は21.7±15.7g/時、自転車では同順に58.9±28.2g/時、49.1±25.2g/時であり、自転車競技のほうがいずれも高値だった。

レース中に摂取された炭水化物の形態は、大半(マラソンでは97.4%、自転車では90.9%)がジェルであり、そのほかに、カフェイン入り炭水化物ジェル(マラソンでは23.7%、自転車では40.9%)、炭水化物ドリンクパウダー(5.3%、27.3%)、バナナ(0%、9.0%)などが報告された。

マラソン選手は競技中の炭水化物摂取量を実際より過大に認識している

マラソン選手の事前の炭水化物摂取計画と実際の摂取量には4.2g/時という有意差が観察された(p<0.001)。さらに、マラソン選手の主観的な摂取量も、事前の計画より少なく、実際の摂取量との比較では過大に評価していた。それに対して自転車選手では、事前計画よりも実際の摂取量が有意に少ない点はマラソン選手と同様だが、主観的な摂取量は実際の摂取量とほぼ一致していた。

競技前の睡眠と不安が競技中の炭水化物摂取量と関連

次に、競技中の炭水化物摂取量の予測因子を回帰分析により検討した。

まず、競技の種類のみを変数とする解析で、競技中の炭水化物摂取量の分散の31%が説明され、サイクリストはマラソン選手よりも多くの炭水化物を摂取していたが、予測モデルとしては有意でなかった。次に競技前の睡眠を変数として追加すると、炭水化物摂取量の分散の37%を説明でき有意な予測能を示した。さらに競技前の不安レベルを追加すると分散の41%を説明し得た。

競技中の炭水化物摂取戦略の策定には、睡眠や不安も考慮する必要がある

論文では、炭水化物のタイプと摂取量との関連や、炭水化物摂取量と消化器症状との関連などの解析結果も示されている。それら一連の結果に基づき結論には、以下のように記されている。

「確立されたガイドラインがあるにもかかわらず、ほとんどのアスリートはレース当日に炭水化物を十分摂取していない。とくにジェル状の食品に頼る場合は、摂取量を過大評価する傾向が強かった。つまり、ジェル状の食品は残食率が最も高かった。

サイクリストは、睡眠行動の改善および認知される不安レベルの低さが関連して、事前計画により近い摂取量を遵守する傾向がみられた。そして、消化器症状の発現状況はサイクリストとマラソン選手で同程度であった。このことは、両グループ間で観察された競技中の炭水化物摂取量の違い(マラソン選手でより少ない)は、消化管の不調によるものではないことを示唆している。

これらの知見は、レース中の栄養戦略において、心理・行動上の側面、および実践的な考慮事項を統合することの重要性を強調するものと言える」。

文献情報

原題のタイトルは、「Under Consumed and Overestimated: Discrepancies in Race-Day Carbohydrate Intake Among Endurance Athletes」。〔Eur J Sport Sci. 2025 Nov;25(11):e70055〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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