低栄養診断基準「GLIM基準」の低栄養が死亡率上昇と関連 17万例解析でGLIM評価の重要性を示唆 三重大学
国際標準の低栄養診断枠組みであるGLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準で定義された低栄養が、短期死亡リスクと関連していることを示すデータが報告された。三重大学の研究グループが、国内のDPC(包括医療費支払い制度)のデータを解析した結果であり、「Clinical Nutrition」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。GLIM評価が行われていない患者の死亡リスクも高いという。

研究成果のポイント
- 全国規模のDPC※1病院の成人入院患者17万4,439例のデータを用い、GLIM基準※2で定義された低栄養が30日・60日死亡と有意に関連することを明らかにした。
- GLIM評価が未実施・未記録の患者も死亡リスクが高く、栄養評価プロセス自体の質がアウトカムに影響する可能性が示唆された。
- GLIMサブ項目の「食事摂取量低下」と「筋量低下」の未評価が多く(各約2~3%)、現場実装のボトルネックになっていることを特定した。
※1 DPC(包括医療費支払い制度):急性期病院の包括払い制度。入院基本料等は包括、手術等は出来高。
※2 GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準:低栄養の診断基準。体重減少・低BMI・筋量低下の“表現型”と、摂取/吸収低下・炎症の“病因”からなる国際標準の低栄養診断枠組み。
研究の概要:GLIM評価結果および評価の有無で短期死亡率を比較
三重大学の研究グループは、GLIM基準で定義された低栄養が30日・60日死亡と有意に関連することを明らかにした。
本研究は、2024年6月に日本の急性期包括払い制度(DPC)でGLIM基準の栄養評価が推奨されたことを受け、その日常診療下での実装状況と短期予後との関連を全国規模データで検証したもの。2024年6~8月に入院し、8月末までに退院した成人17万4,439例を対象に、30日・60日死亡を主要アウトカムとして、Cox回帰で多変量調整した結果、GLIM低栄養は、30日死亡(HR1.46〈95%CI;1.33~1.60〉)、60日死亡(HR1.46〈1.34~1.59〉)のリスク上昇と関連していた。
評価未実施・未記録も、非低栄養より高リスクだった。また、評価完了者9万321例では、「食事摂取量低下」、「筋量低下」が最も未評価だった。
図1 30日の院内死亡率(174,439例)

研究の背景:2024年6月にDPC制度でGLIM評価の実施を推奨
入院患者の低栄養は機能回復遅延や死亡率上昇に関連し、早期スクリーニングと介入が推奨されている。GLIM基準は国際的な低栄養診断の標準化枠組みだが、現場での実装状況や予後予測の有用性の大規模検証データは限られていた。
2024年6月、DPC制度でGLIM評価の実施が推奨されたことは、実装可能性と予後との関連の評価の妥当性を検証する好機となった。
研究内容:感度分析で主解析の堅牢性を確認
日本全国のDPC請求データ(JMDC提供)による後向きコホートを実施した。18歳以上の成人を対象とし、主要アウトカムは30日・60日死亡を設定した。共変量として診断群、年齢、性別、病床規模、入院経路等を調整した。
GLIM基準で評価に基づいて「低栄養」「非低栄養」「未実施」「未記載(入力データなし)」に分類し、Cox比例ハザード回帰分析でハザード比と95%信頼区間を推定した。感度分析として(1)6月入院コホートでの最大92日追跡、(2)修正ポアソン回帰による院内死亡のリスク比も算出し、主解析の結果と同様であることが確認された。
今後の展望:栄養ケアの質指標としてGLIM評価の“確実な実施”を
研究グループでは、「栄養ケアの質指標としてGLIM評価の“確実な実施”を位置づけること、筋量評価の簡便化(ふくらはぎ周囲長など)、摂取量把握の標準化が実装促進に有用と考えられる。政策面では、DPC下でのインセンティブ設計や、多職種連携・情報入力の省力化が鍵となる」としている。
プレスリリース
GLIM基準による低栄養は短期死亡の増加と関連 -DPCの日常診療174,439例データベースで実証-(三重大学)
文献情報
原題のタイトルは、「GLIM Criteria-defined malnutrition and short-term mortality in acute care hospitals: A nationwide claims-based historical cohort study」。〔Clin Nutr. 2025 Nov:54:83-90〕
原文はこちら(Elsevier)







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