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日本人若年アスリートのスポーツ外傷のリスク因子とは? 半構造化面接でわかった多因子的背景

前十字靭帯損傷や関節脱臼など、アスリートのキャリアを阻害しかねないスポーツ外傷のリスク因子を、実際にそれを体験したことのある日本人選手を対象とする半構造化インタビューによって探求した研究結果が報告された。大阪大学大学院医学系研究科健康スポーツ科学講座スポーツ医学教室の肝付由希子氏、同神経情報学教室の小笠原一生氏らによるもので、「Frontiers in Sports and Active Living」に論文が掲載された。分析の結果、7項目の主要なリスク要因と14のテーマが特定され、アスリート自身の自覚の有無とはかかわりなく、それら複数の因子が関連しスポーツ外傷のリスクを高めているとみられるという。

日本人若年アスリートのスポーツ外傷のリスク因子とは? 半構造化面接でわかった多因子的背景

アスリートの可能性を制限してしまうスポーツ外傷は、どのように起こるのか

スポーツ外傷は、アスリートの健康とキャリアにとって大きな脅威であり、可及的に回避する必要がある。そのために、スポーツ外傷がどのように発生するのかという理解に基づく、予防戦略の確立が欠かせない。

スポーツ外傷の直接的な原因は、不適切な身体動作にあると言える。しかし、その背後にある生理的因子、心理的因子、社会的因子、および環境要因などの影響が大きいことも知られており、近年ではさらに多くの学問領域でスポーツ外傷のリスク因子が研究されている。とはいえ、それらのさまざまな因子がどのように作用しスポーツ外傷につながるのかという点は、依然として十分に理解されていない。

これを背景として肝付氏らは、質的研究手法を用いた検討を行った。

中等度以上のスポーツ外傷を経験した10人のアスリートを対象にインタビュー

この研究の対象は、以前に実施したスポーツ外傷関連の調査に参加していた、18~24歳のアスリートから募集された。適格条件は、スポーツ外傷のために1週間以上、トレーニングから離脱を余儀なくされた経験のあることで、これを満たす26人に連絡をとり、17人が参加に同意。急性の外傷ではなく慢性的な障害のあるアスリートや、外傷・障害の診断名が不確かなアスリートを除外し、10人に対して半構造化インタビューを実施した。なお、トレーニングからの離脱期間1週間以上という重症度は、国際オリンピック委員会の定義で中等症以上に該当する。

対象者10人は、女性が7人、行っている競技はラクロスが4人、ハンドボールが3人、体操、バスケットボール、アルティメットが各1人であり、経験したスポーツ外傷は膝前十字靱帯損傷・断裂、半月板損傷、肩関節脱臼などで、5人は2度の受傷歴があった。

半構造化インタビューの方法とデータ解析

半構造化インタビューのためのガイドとして、アスレティックトレーナー、スポーツ心理学、スポーツ医学の専門家3人により10項目の質問を作成した。これを競技レベルの異なる3人のアスリートを対象とするパイロット研究に適用し、修正を加えた後、研究参加者へメールで送信。その約1週間後に対面またはリモートでインタビューを実施した。インタビュー時間は30~40分だった。

文字起こしされたインタビュー内容は、SCAT(Steps for Coding and Theorization)という手法によって分析した。SCATは日本国内で開発された質的研究の分析手法であり、キーワードの抽出、そのキーワードに沿った文脈への置き換え、特定されたキーワードを説明する概念の導入、テーマの分類と理論的な統合という四つのステップで分析を進める。この手法は、サンプル数が比較的少ない場合に適用しやすく、複雑で相互に関連している事象の分析に適するとされている。

このSCATによる分析を3人の研究者が独立して行い、意見の相違は討議により解決し合意を形成した。なお、5~6人の分析を終了した時点で新たなトピックは抽出されなくなり、意味飽和を達成したと判断された。分析結果の参加者へのフィードバック(メンバーチェッキング)は、インタビュー後に相当の時間が経過していたこと、および参加者の負担を考慮し実施していない。

7種類に大別される14のテーマを特定

分析の結果、14のテーマが浮かび上がり、それらは7種類のリスク要因(身体的要因、教育的要因、心理的要因、認知的要因、社会的要因、状況要因、スキル・身体動作要因)として体系づけられた。一部を抜粋して紹介する。

身体的要因

主観的な身体状態と実際の身体状態の不一致:10人中7人は、負傷時の体調は良好だったと報告した。しかし、詳細な調査から、疲労、睡眠不足、不快感などが存在していたことが明らかになった。

怪我の兆候の無視:10人中6人が、コーチやスタッフから怪我のリスク因子の存在を指摘されており、選手自身も体の不調を感じていたと報告した。しかし、それらの選手は何の予防策も講じていなかった。

教育的因子

怪我とその予防に関する知識の不足:10人中10人が、スポーツ外傷の予防に関する理解が不足していることが明らかになった。さらに、アスリート、コーチ、トレーナー間で、外傷予防に関する知識や意識の欠如が観察された。

心理的要因

高ストレス状況:10人中5人が、受傷前に相当な心理的ストレスがあったと報告した。とくに、複数の受傷歴があるアスリートではこの傾向が顕著であり、競技への早期復帰のプレッシャーと同時に競技復帰に対する恐怖心も抱いていた。

モチベーションの高まり:10人中5人が、競技前と競技中にモチベーションが高まったと報告した。これは一般的に好ましい変化ではあるが、モチベーションの高まりは注意力の低下、危険なプレー選択につながり得ることが示唆され、怪我の発生リスクを高めると考えられた。

認知的要因

注意力の低下:10人中6人が、受傷した際に視野が通常よりも狭くなっていたと報告した。このような変化は、周囲の選手や状況認識能力を低下させ、意思決定力を損なうと考えられた。

過信:10人中5人が、受傷時点における自身の過信に言及していた。

社会的要因

自己中心的なチーム環境:10人中5人が、自己中心的な雰囲気のあるチームに所属していたと述べた。そのような環境では、他者を凌駕することに重きが置かれる傾向がみられた。社会的要因としてはこのほかに、試合に向けて高まるチームの興奮(10人中4人)、チームにおける責任のある立場(同4人)、コーチの不在または不十分な指導(同8人)も、受傷リスクに関係すると考えられた。

スポーツ外傷を減らすには、多因子への対応が必要

上記のほか、10人中2人が困難で不慣れな状況で受傷しており、これは未経験の挑戦という状況要因として位置づけられた。また、10人中8人がスキルの未熟さに言及し、10人中3人は自分が得意とする身体動作で受傷したと報告。これらはスキル・身体動作要因として位置づけられた。

以上の分析に基づき論文の結論は、「アスリートへのインタビューを通して、スポーツ外傷が発生する状況を明らかにし、スポーツ外傷に寄与する要因を特定し得た。分析の結果は、アスリートの知識や認識の不足、適切とは言えない認知機能状態、ストレス下でのモチベーションの高まり、そして脆弱なチーム環境が、スポーツ外傷の根底にあることを示唆している。今後、これらの多因子に対応していくことが、スポーツ外傷の防止につながるのではないか」とまとめられている。

文献情報

原典論文のタイトルは、「Multifactorial background of acute sports injuries in young Japanese athletes-a semi-structured interview study」。〔Front Sports Act Living. 2026 May 26:8:1813583〕
原文はこちら(Frontiers Media)

関連情報

大阪大学大学院医学系研究科神経情報学教室小笠原グループ

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