日本のスポーツ栄養学の発展の鍵は、栄養士の英語力? エビデンスに基づく実践のためのリテラシーと英語力が相関
国内の公認スポーツ栄養士を対象として、エビデンスに基づく実践(EBP)と、教育歴や語学力との関連を調査した結果が報告された。自己評価による英語読解力が高いスポーツ栄養士ほど、EBPに必要なリテラシースコアが高いという関連などが明らかにされている。大阪樟蔭女子大学大学院人間科学研究科人間栄養学専攻の角谷雄哉氏らの研究によるもので、論文が「Nutrition and Health」に掲載された。

急速に進歩している学問領域では、英語での情報集めが重要
栄養士・管理栄養士を含む医療従事者にとって、科学的エビデンスに基づく行動(evidence-based practice;EBP)の重要性が、より強く認識されるようになってきている。学術的な進歩の速い領域ではとくに、常に最新のエビデンスに接し、知識をブラッシュアップし続ける必要が生じる。そして、最新のエビデンスは一般的に、英語で発表されている。母語が英語でない人にとって、これはEBP実践のハードルとなり得る。
スポーツ栄養学も急速な発展を続けている学問領域であり、やはり最新のエビデンスやそれに基づくガイドラインは英語で発表される。しかし、日本国内で管理栄養士が公認スポーツ栄養士の資格を目指す際に求められる2年間の講習プログラムには、日本語のテキストが用いられている。
また、国内の管理栄養士の養成過程において、EBPに関する教育がいまだ不足している傾向もみられる。さらに、日本は国際的に、国民の平均的な英語力があまり高くない国と認識されている。
これらを考慮すると、日本国内のスポーツ栄養士は英語力が不足していて、それがEBP実践の妨げとなっているのではないかという疑問が浮かび上がる。角谷氏らは、公認スポーツ栄養士を対象とする横断調査により、その可能性を検証した。
日本のスポーツ栄養士の英語力や教育歴などとEBP実践スキルを横断的に調査
この調査は2023年11月~24年2月にかけて、オンラインで実施された。回答者はスノーボール方式で増やしていき、最終的に78人の公認スポーツ栄養士が回答。そのうち1人は回答内容が不自然であったため除外され、77人を解析対象とした。
なお、2023年10月時点の国内の公認スポーツ栄養士認定者数は464人であるため、本研究の対象者数はその約17%に相当する。
解析対象者の特徴
解析対象者は女性が92%、年齢は40~50歳代が58%、20~30歳代が36%であり、74%が公認スポーツ栄養士として5年以上の経験を有していた。
また、77人中30人(39.0%)は研究・教育機関に所属していた。最終学歴/学位は、短期大学卒が18%、学士が27%、修士が36%、博士が18%であって、74%は論文発表の経験を有しており、38%は筆頭著者として発表していた。論文のH-index(被引用回数に基づく指標)は、‘該当なし’が90%、1~5が8%、6以上が3%だった。
英語力
英語力については、TOEICのスコアとしてみると、‘該当なし’が84%で、500点未満と500点以上がいずれも8%であり、英検の級については‘該当なし’が39%で、準2級以下が55%、2級以上が6%であった。
また、「英語論文を読むか?」という質問に64%が「はい」と回答。そのうち英語のまま読むのは10%、一部を翻訳しながら読むという人が6%で、84%は翻訳されたものを読むと回答していた。
英語の読解力の主観的な評価を、1点(全くできない)~5点(とても自信がある)の範囲で答えてもらったところ、1が44%、2が39%、3が12%で、4、5が各1%だった。
エビデンスに基づく行動(EBP)のスキル評価
EBPのスキルの評価には、妥当性が検証済みの日本語版質問票(Health Science Evidence-Based Practice Questionnaire;HS-EBP質問票)を用いた。
HS-EBP質問票は、意識(12問)、リテラシー(14問)、活用(10問)、振り返り(12問)、実践環境(12問)という5領域について、60項目の質問(各1~10点の整数評価)で評価する。本調査での平均スコアはそれぞれ、97、86、69、73、66点だった。
英語力や学位が高いほど、リテラシーの評価スコアが高い
英語読解力の主観的評価とEBPスコアの関連
英語読解力の主観的評価が1(最低)の群を基準として、HS-EBP質問票で評価したエビデンスに基づく行動(EBP)の領域ごとのスコアを比較。すると、英語力の主観的スコアが高い群ほどHS-EBPスコアが高い傾向がみられ、リテラシー、振り返り、実践環境については以下のように、群間にスコアの有意差が認められた。
リテラシーのスコアは、英語読解力の主観的評価が1の群は中央値が73点であったのに対して、2の群は90点、3~5の群は106点であり、いずれも1の群より有意に高かった。また、振り返りのスコアについては、英語読解力の主観的評価が1の群は66.5点であったのに対して、2の群は80.5点で有意差があり、実践環境については、読解力1の群が60点、3~5の群は85点で有意差があった。重回帰分析により、自己評価での英語読解力はリテラシースコアの有意な要因であった。
学位とEBPスコアの関連
同様に、高い学位を有しているほどHS-EBPスコアが高い傾向がみられた。
リテラシーのスコアは、学士未満では67.5点、学士は81点、修士は96.5点、博士は102点であり、修士と博士は学士未満より有意に高かった。活用スコアは、学士未満は50点、修士は72点で有意差があり、振り返りのスコアについても学士未満64.5点、修士84点で有意差があった。また実践環境については、学士未満が45.5点に対して、修士72点、博士89点で有意差が認められた。重回帰分析により、学位もリテラシースコアの有意な要因であった。
科学論文を読み、英語への抵抗感を軽減する取り組みが必要
これら一連の結果に基づき、著者らは「日本人公認スポーツ栄養士を対象とした本横断調査から、リテラシーとエビデンスに基づく行動(EBP)の活用に強い相関関係がみられ、英語読解力への自信のなさ、栄養学に関する教育歴の短さ、振り返りスキルの不足などがEBPの実践を阻害する可能性が示された」と総括している。また、「本研究は栄養士・管理栄養士養成課程や公認スポーツ栄養士認定プログラムにおいて、科学論文を読む機会を設けるなどの働きかけが必要であることを示唆している。さらに、日本のような英語力が全般的に低い国では、英語への抵抗感を軽減する取り組みも必要だろう」と付け加えている。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Japanese sports dietitians' evidence-based practice implementation is associated with academic degree and English reading ability: A cross-sectional survey」。〔Nutr Health. 2026 Apr 16:2601060261423056〕
原文はこちら(SAGE Publications)







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