日本人アスリートの安静時代謝量の性差は身体組成の違いで説明できるだろうか
日本人アスリートの安静時代謝量にみられる性差は、除脂肪量や骨格筋量によって部分的に説明できるのではないかとする、早稲田大学スポーツ科学学術院の田口素子氏らの論文が、「Frontiers in Sports and Active Living」に掲載された。

アスリートのRMRの性差に、身体組成はどのくらい関連があるのか?
アスリートの最適な栄養戦略の立案には、総エネルギー消費量の最も多くを占める安静時代謝量(resting metabolic rate;RMR)の評価が欠かせない。RMRの評測定が難しい場合には推定式を用いて評価するが、それらの多くに性別が予測変数の一つとして組み入れられている。
RMRが性別によって異なる背景の一つとして、体組成の違いが考えられている。一般に男性は除脂肪量(fat-free mass;FFM)や骨格筋量(skeletal muscle mass;SMM)が大きいが、女性は体脂肪量(fat mass;FM)およびその割合が大きく、これらの傾向はアスリートも同様である。しかし、アスリートのRMRの性差の根底にある生理学的要因には不明点が残されている。また、RMRに関する先行研究の多くが、女性の月経周期を十分考慮せずに性差を検討してきている。
これらを背景として田口氏らは、日本人の男性と女性アスリート計121人を対象とし、女性については卵胞期にRMRを測定し、身体組成との関連を解析した。
性別にかかわらず除脂肪量や骨格筋量がRMRの予測因子であった
研究参加の選択基準は、競技レベルがTier3のアスリートであり、喫煙および代謝や生殖ホルモン分泌に影響を及ぼし得る薬剤を使用していないこと、甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン〈T3〉)が基準範囲内であることなどであり、これらを満たす男性74人(20±1歳)、女性47人(21±2歳)が解析対象とされた。
行っている競技は、男性は団体競技が41.9%、持久系が41.9%、スピード/パワー系が10.8%、女性はそれぞれ40.4%、42.6%、8.5%であった。なお、女性は全員、無月経ではなく、ホルモン避妊薬を使用していなかった。
身体組成
体組成は二重エネルギーX線吸収(DXA)法で測定し、骨量(bone mass;BM)やSMMは既報研究の予測モデルを用いて算出した。
解析対象者の各身体組成成分の体重に対する割合は、男性はFMが11.3%、BMが7.5%、SMMが45.9%、その他は35.3%であった。女性はそれぞれ19.3%、7.4%、38.8%、34.6%であり、BM以外は有意差が認められた(p<0.001)。
RMR
RMRは呼気ガス分析による間接熱量測定で評価した。24時間前からカフェインとアルコールの摂取と激しい運動を控えるよう指示し、一晩絶食後の早朝空腹時に測定した。女性については産婦人科医が判断した卵胞期初期に測定した。
RMRは、男性1,625±265kcal、女性1,135±112kcalと有意差が認められたが(p<0.001)、FFMで調整後は男性は27.5±2.0kcal/kg FFM、女性は26.7±2.6kcal/kg FFMであり、群間差は認められなかった(p=0.060)。
FFM, SMMとRMRとの関連の検討
RMRとFFM、SMMの関連を検討すると、性別にかかわらず有意な正の相関関係が認められた(いずれもp<0.001)。
相関係数(r)は、男性のRMRとFFMは0.894(95%CI: 0.836~0.932)、RMRとSMMは0.894(0.836~0.932)、女性のRMRとFFMは0.614(0.397~0.766)、RMRとSMMは0.592(0.367~0.751)であった。
RMRの説明因子の検討
次に、FFMとFMを独立変数、RMRを従属変数とする重回帰分析(モデル1)を実施。その結果、性別にかかわらずFFMはRMRの有意な説明因子であり(男性は偏回帰係数〈B〉=27.17〈22.2~32.1〉、女性はB=14.14〈6.7~21.5〉)、FMは有意な説明因子でなかった。また、このモデルによって男性のRMRの分散の79.4%、女性の分散の41.6%を説明できることが明らかになった。
独立変数のFFMをSMMとその他成分の2項目に分割した重回帰分析(モデル2)では、SMMがRMRの有意な説明因子であり(男性はB=34.76〈20.4~49.1〉、女性はB=22.41〈3.1~41.7〉)、FMおよびその他成分は有意な説明因子でなかった。また、このモデルによって男性のRMRの分散の80.0%、女性の分散の42.1%を説明できることが示された。
なお、信頼区間は上記のように、男性に比較して女性は広かった。つまり、女性では、FFMやSMMによるRMRの予測精度が男性よりも低いと考えられた。
また、女性においてはFMが有意ではないもののRMRを予測する傾向が認められた(標準化回帰係数〈β〉値がモデル1で0.23、p=0.093、モデル2で0.26、p=0.070)。それに対して男性のFMはRMRを予測しなかった(β値がモデル1で-0.01、p=0.936、モデル2で-0.03、p=0.731)。
日本人アスリートのRMRは身体組成により説明されるが、女性は他の因子の影響が大きい
本研究から得られた知見をまとめると、まず、日本人アスリートにおいて、性別にかかわらず除脂肪量(FFM)、特にFFM内の骨格筋量(SMM)が安静時代謝量(RMR)と関連していたことが挙げられる。また、RMRの性差は身体組成の違いなどによって部分的に説明できる可能性が示された。ただし回帰モデルの説明力には大きな性差が見られ、女性では男性に比べて説明可能性が低かった。
著者らは、本研究の限界点として、SMMを実測ではなく推定式により求めていること、RMRに影響しうる性ホルモンやカテコールアミンを測定していないことなどを挙げたうえで、「FFMとSMMは日本人の男性・女性アスリートの双方でRMRと有意に関連していたが、その寄与度は男女間で異なっていた。性別によるRMRの有意差はFFMの調整で消失したが、FFMのみでは男性アスリートと女性アスリートの身体組成と代謝の関連の生理学的差異を、完全には説明できない可能性がある。また、予測モデルは女性アスリートよりも男性アスリートにおいて頑健であり、女性アスリートのRMRの分散には、本研究で評価していない生理学的または内分泌学的因子が関与していることが示唆される」と結論づけている。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Body composition components associated with sex differences in resting metabolic rate among Japanese athletes」。〔Front Sports Act Living. 2026 Jul 2:8:1816324〕
原文はこちら(Frontiers Media)








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