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FIFAワールドカップ2026で話題のピクルスジュースとメッシが愛飲するマテ茶 スポーツ栄養のエビデンスを検証

FIFAワールドカップ2026は、本大会の出場国数が従来の32から48へ拡大され、飲水タイム(hydration breaks)が導入されたほか、決勝ではハーフタイムショーが行われるなど、試合内容以外にもさまざまな話題が注目された。スポーツ栄養との関係では、飲水タイムの有効性に関する今後の科学的な評価に加え、ピクルスジュースとマテ茶も今大会の話題となった。本稿では、この二つに関するエビデンスを探ってみよう。

FIFAワールドカップ2026で話題のピクルスジュースとメッシが愛飲するマテ茶 スポーツ栄養のエビデンスを検証

米国 vs オーストラリア戦の主審を救った(?)「ピクルスジュース」

シアトルで行われたグループステージ第2節の米国対オーストラリア(米国が2-0で勝利)において、主審が試合の終盤にピッチ上に倒れこむ場面があった。報道では、下肢の痙攣が原因とされている。試合が中断し選手や副審がストレッチを補助するなか、第四審がある飲み物を届け、それを飲んだ主審は直後に立ち上がり、試合再開の笛を吹いた。

この時の飲み物が、ピクルスジュースだったという。いくつかの研究では、ピクルスジュースが電解質の補給によってではなく、口腔・咽頭への強い刺激を介した神経反射により、筋痙攣を比較的短時間で軽減する可能性が示されている。ただし、実際の競技中に自然発生した筋痙攣を対象とする研究は限られている。

参考:
何を飲んだ? アメリカ対オーストラリア戦で倒れこんだ主審を復活させた“魔法のドリンク”の正体が明らかに(サッカーダイジェストWeb)

脱水状態のヒトにおける電気刺激誘発性筋痙攣の反射的抑制

原典論文のタイトルは、Reflex inhibition of electrically induced muscle cramps in hypohydrated humans〔Med Sci Sports Exerc. 2010 May;42(5):953-61. doi: 10.1249/MSS.0b013e3181c0647e〕
原文はこちら

この研究が行われる以前から、少量のピクルス液を飲むと約35秒以内に筋痙攣が治まるという経験則はあったが、実験的な裏づけはなかった。そこで研究者らは、脱水状態の男性に電気刺激で足部の筋痙攣を誘発し、ピクルスジュースと脱イオン水を摂取した場合の痙攣持続時間を比較した。

脱水状態の男性を対象に、1週間の間隔を空けた2日間に試験を実施した。体重を約3%減少させた脱水状態で、経皮的脛骨神経刺激により足部の筋痙攣を誘発し、直ちに体重1kgあたり1mLの脱イオン水、またはピクルスジュース(73.9±2.8mL)を摂取させた。痙攣の持続時間は、脱イオン水摂取時よりもピクルスジュース摂取時のほうが49.1±14.6秒短かった(それぞれ84.6±18.5 vs 133.7±15.9秒)。

著者らは、「この効果は体液や電解質の急速な回復では説明できない。電気刺激誘発性痙攣の急速な抑制は口腔咽頭領域に由来し、痙攣を起こしている筋肉の運動ニューロン発火を抑制する神経介在性反射を反映していると考えられる」としている。ただし、これは実際の競技中に自然発生した筋痙攣ではなく、実験室で電気刺激によって誘発した足部の痙攣を対象とする小規模な研究である。

水分補給が十分なヒトにおけるピクルスジュース摂取後の胃内容排出

Gastric emptying after pickle-juice ingestion in rested, euhydrated humans〔J Athl Train. 2010 Nov-Dec;45(6):601-8. doi: 10.4085/1062-6050-45.6.601〕
原文はこちら

前述の研究では、ピクルスジュースの摂取後、比較的短時間で筋痙攣が軽減された。この作用が電解質の吸収によるものかを検討するため、本研究では、摂取後の胃内容排出や血漿中の変化が調べられた。

男性10人(25.4±0.7歳)を対象とするクロスオーバー試験で、ピクルスジュースと脱イオン水摂取後の胃排出と血漿変数を比較した。安静、水分充足状態で、別の日に7mL/kgを摂取し、胃内容量と血漿量および血漿ナトリウム濃度の変化を摂取前から摂取30分後まで観察した。血漿ナトリウム濃度の変化に有意差はなかったが、血漿量の変化に有意差が認められ、これは胃の膨張に起因する心血管反射によるものと考えられた。

著者らは、「得られたデータは、ピクルスジュースが代謝メカニズムを介して痙攣を緩和するわけではないという我々の理論を裏付けている」と結論づけている。

肝硬変に伴う痙攣軽減のためのピクルス液介入:PICCLES無作為化比較試験

Pickle Juice Intervention for Cirrhotic Cramps Reduction: The PICCLES Randomized Controlled Trial〔Am J Gastroenterol. 2022 Jun 1;117(6):895-901. doi: 10.14309/ajg.0000000000001781〕
原文はこちら

また、運動関連筋痙攣とは対象が異なるものの、肝硬変患者を対象にピクルスジュースの効果を検討した研究も報告されている。肝硬変患者には筋肉の痙攣がよくみられ、QOL低下の一因となる一方、治療選択肢は限られている。そこで、過去1カ月に4回以上の筋痙攣を経験した肝硬変患者82人を、痙攣発症時にピクルスジュースを少量摂取する群と水道水を摂取する群に1:1で無作為に割り付け、ビジュアルアナログスケール(VAS)を主要評価項目として28日間観察した。

74人の患者が試験を完了した。年齢56.6±11.5歳、男性54%、腹水41%、脳症38%であり、多くの患者はベースラインで他の痙攣治療を受けていた。試験完了時、ピクルスジュース群のVASは-2.25±3.61低下し、水道水の-0.36±2.87と比較して有意に低下幅が大きかった。VASが5未満の日の割合や睡眠の質、QOLには差はみられなかった。

著者らは、「本無作為化試験において、痙攣が始まったときにピクルスジュースを少量摂取すると、有害事象なく痙攣の重症度が軽減されることが示された」としている。ただし、この試験の対象は肝硬変患者であり、運動中に生じる筋痙攣とは背景や発生機序が異なる可能性がある。この結果をアスリートの足のつりにそのまま当てはめることはできない。

運動能力向上と回復のためのジュースベースのサプリメント戦略:系統的レビュー

Juice-Based Supplementation Strategies for Athletic Performance and Recovery: A Systematic Review〔Sports (Basel). 2025 Aug 14;13(8):269. doi: 10.3390/sports13080269〕
原文はこちら

さらに、ピクルスジュースを含むジュースベースのサプリメントについて、運動能力や回復への効果を整理した系統的レビューも報告されている。このレビューでは、関連研究の結果をナラティブシンセシスの手法で統合し、ピクルスジュースの有効性や課題が検討された。

ピクルスジュースについては、「筋肉の痙攣の予防や電解質の補充に効果があるとされ注目を集めている。報告を統合すると現在のところ、ピクルスジュースサプリメントが運動能力向上や体温調節に効果があるというエビデンスは得られていない。痙攣緩和に効果があるという逸話的な報告はあるものの、この主張を科学的に検証したエビデンスは限られている。ピクルスジュースサプリメントの作用機序と、とくに実際の運動環境におけるその有効性を明らかにするためには、さらなる研究が必要である」と述べられている。

以上から、ピクルスジュースには、すでに起きた筋痙攣を短時間で軽減する可能性はあるものの、実際のスポーツ現場でのエビデンスはまだ限られている。運動関連筋痙攣が起きた際は、まず運動を中止し、痙攣した筋を無理のない範囲で静的にストレッチすることが基本となる。ピクルスジュースは、こうした標準的な対処に代わるものではなく、補助的な選択肢と考えるのが妥当だろう。

メッシが飲んでいる南米のハーブ「マテ茶」

アルゼンチン代表のメッシは、史上初となる6大会目のワールドカップに出場し、大会終了時点で通算21得点の歴代トップとなった。39歳で迎えた今大会でも8得点を挙げ、アルゼンチンの決勝進出に貢献した。

そのメッシをはじめ、南米のサッカー選手がマテ茶を愛飲していることが国内で報道され、需要が急拡大しているという。マテ茶は、南米原産のモチノキ科の植物「イェルバ・マテ(Ilex paraguariensis)」の葉や枝を乾燥させ、湯や水で抽出して飲む伝統的な飲料である。

参考:
メッシが愛飲のマテ茶 注目集まってます!問い合わせ増に日本マテ茶協会会長喜び(スポニチアネックス)

マテ茶はマウスの満腹感と体重減少を促進する:グルカゴン様ペプチド-1の関与

Mate tea (Ilex paraguariensis) promotes satiety and body weight lowering in mice: involvement of glucagon-like peptide-1〔Biol Pharm Bull. 2011;34(12):1849-55. doi: 10.1248/bpb.34.1849〕
原文はこちら

著者らは本研究より先に、マテ茶の水抽出物がマウスの肥満糖尿病またはメタボリックシンドロームモデルにおいて、体重と食物摂取量の有意な減少を誘発することを報告している。本研究ではその作用機序が検討された。マテ茶は対照群と比較して、GLP-1レベルとレプチンレベルを有意に増加させた。マテ茶の主要成分を急性投与すると、マウスの満腹感が高まることが観察された。論文は「これらの結果は、マテ茶が満腹感の直接的な誘導、GLP-1分泌の刺激、および血清レプチンレベルの調節によって、食欲抑制効果をもたらす可能性を示唆している」と結論づけられている。ただし、これはマウスを対象とした基礎研究であり、ヒトがマテ茶を飲むことで同様の食欲抑制や体重減少が得られることを示したものではない。

マテ茶の摂取は準最大強度での運動中の脂質酸化とエネルギー消費を増加させる

Yerba Maté (Illex Paraguariensis) ingestion augments fat oxidation and energy expenditure during exercise at various submaximal intensities〔Nutr Metab (Lond). 2014 Sep 2:11:42. doi: 10.1186/1743-7075-11-42. eCollection 2014〕
原文はこちら

マテ茶は主にその熱産生効果により、健康増進、肥満予防、体重減少のために普及している。しかし、脂質代謝がすでに数倍に増加している運動中の脂質代謝に対する効果は不明。

健康な男女14人を対象とする無作為化クロスオーバー試験で、運動の60分前にイェルバ・マテの抽出物1,000mg(500mgカプセル2個)またはプラセボを摂取させ、さまざまな強度での運動中の脂質酸化とエネルギー消費を比較した。一般的なマテ茶飲料を用いた試験ではない。その結果、イェルバ・マテの摂取により、最大運動強度の70%未満の運動中に脂質酸化と脂質由来のエネルギー消費が有意に増加した。一方、ピークパワー、ピーク呼気交換比(RER)、ピーク血中乳酸濃度には有意差はなかった。

著者らは減量やスポーツパフォーマンスへの応用可能性に言及しているが、この試験で確認されたのは主に脂質酸化と脂質由来エネルギー消費の増加であり、ピークパワーなどの運動能力が向上したわけではない。

市販のマテ茶を飲んでも運動中の代謝・心血管反応は高まらなかった

Acute Effects of Commercial Yerba Mate Products on Cardiometabolic Responses during Submaximal Cycling: Brewed to Perform?〔Curr Dev Nutr. 2026 Feb;10(2):107637. doi: 10.1016/j.cdnut.2026.107637〕
原文はこちら

2026年に公表された成人29人(男性15人、女性14人)を対象とする無作為化クロスオーバー試験では、市販の2ブランドから抽出したマテ茶、水、カフェイン135mgを加えた水を別々の日に摂取させ、段階的な自転車運動中の反応を比較した。

その結果、いずれのマテ茶も、水またはカフェインを加えた水と比較して、非常に低い強度から中強度の運動中のエネルギー消費、脂質などの基質酸化、心拍数、運動効率を有意に高めなかった。マテ茶飲料のスポーツへの効果については、現時点で一貫した結論には至っていない。

マテ茶の健康効果

Health properties of Yerba Mate〔Ann Agric Environ Med. 2020 Jun 19;27(2):310-313. doi: 10.26444/aaem/119994〕
原文はこちら

ポーランドの研究者による総説。

イェルバ・マテ(パラグアイ茶とも呼ばれる)の消費が、北米と欧州において年々高まっている。このパラグアイ茶の人気はポーランドにも波及しており、2012年から2018年にかけて、原料の輸入量が8倍に増加した。

マテ茶にはカフェインやポリフェノールなどが含まれ、さまざまな健康作用が研究されている。ただし、ヒトにおける効果やスポーツへの有用性については、十分に確立していない点も多い。

なお、国際がん研究機関(IARC)は、65℃を超える「非常に熱い飲料」の摂取を、食道がんとの関連から「おそらく発がん性がある(グループ2A)」と評価している。これはマテ茶固有の成分というより、主として高い飲用温度に関する評価であり、マテ茶以外の飲料にも共通する。

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