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高齢者のヒップホップダンスで認知機能と歩行機能が維持 一方、筋量の維持には栄養も重要か

高齢者の認知機能や歩行速度の維持に、ヒップホップダンスが有用であることを示唆するデータが報告された。東京大学先端科学技術研究センター身体情報学分野の宮﨑敦子氏らが、高齢者ヒップホップダンス全国大会参加者などを対象に行った、追跡期間約2年の縦断的研究の結果であり、論文が「Frontiers in Aging」に掲載された。ただし、意外にも骨格筋量指数(SMI)については、ダンスを行っていない対照群のほうが優位という結果が示された。著者らは、「高齢期の筋肉量の維持には、適切な栄養サポートや筋トレも重要と考えられる」と述べている。

高齢者のヒップホップダンスで認知機能と歩行機能が維持 一方、筋量の維持には栄養も重要か

ヒップホップダンスの有用性を長期追跡研究で検討

世界的な寿命延伸を背景に、高齢者の身体機能・認知機能の低下を抑止し得る介入法の確立が喫緊の課題となっている。現在のところ、習慣的な身体活動がそれらの機能の維持に効果的な戦略の一つとされているが、どのような身体活動が最適かはわかっていない。また、単調な運動は継続のモチベーションの維持という点で課題が残されている。

ダンスは社会性の高い身体活動であり、またリズムに合わせて全身を動かすという感覚運動同期を要することから、認知機能と身体機能の双方の維持につながり、さらに趣味や楽しみとして長く続けやすいと考えられる。既に複数のエビデンスがあり、例えば宮﨑氏らも4週間のランダム化比較試験の結果、ヒップホップダンスによりノルディックウォーキングなどの対照条件に比べて、歩行速度と認知機能が改善したことを報告している。

しかし、先行研究の多くは介入期間が短く、ダンスを長期にわたって継続した場合にもそれらの効果が持続するのかは明らかでない。また、歩行速度がどのように向上するのかが不明であり、筋肉量への影響についてもエビデンスが不足している。宮﨑氏らは今回、エイベックス・アライアンス&パートナーズ(株)との産学連携のもと、最大3年間にわたる長期追跡研究によってこれらの点を検討した。

全国各地のダンス施設から募集された高齢者と、ダンスをしていない高齢者を比較

この研究では、高齢者対象のヒップホップ全国大会(FIDA GOLD CUP)の参加者(ダンス群)と、ダンスを行っていない地域在住高齢者(対照群)を対象に、2022年1月~2025年10月にかけて実施された。研究参加の適格条件は、年齢60歳以上で認知症と診断されておらず、自立歩行が可能なこととされていた。

ダンス群は東京、大阪、青森、大分など6都府県のダンス施設から募集された74人であり、対照群は大阪市またはさいたま市で募集された28人で、計102人。ダンス群の参加者は、FIDA GOLD CUP出場に向けて、振り付けや選曲、衣装デザインなどの活動を自主的に継続し、インストラクターの指導を受けながら年齢相応のヒップホップダンスの練習をしていた。

ダンス群、対照群ともに研究のための介入は行っておらず、実験的な検討ではなくリアルワールドでの検討であることが、本研究の特徴の一つとなっている。

FIDA GOLD CUPの様子(論文に掲載されている写真にリンクします)

評価項目について

研究参加時点(ベースライン)と、約1年後と2年後に、認知機能、身体機能、体組成、筋力、抑うつレベルなどを評価した。なお、追跡評価のタイミングは競技会のスケジュールを優先したため若干のばらつきがあり、ベースラインからの追跡期間は0.93~1.38年、1.92~2.92年の範囲に分布しており、最長は3年に近かった。

全般的認知機能の評価にはミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination;MMSE)、高次認知機能の評価にはモントリオール認知評価(Montreal Cognitive Assessment;MoCA)のサブスケールを使用した。体組成は生体インピーダンス法により測定し、骨格筋量指数(skeletal muscle mass index;SMI)などを評価。抑うつレベルは老年うつ病評価尺度(Geriatric Depression Scale;GDS)で評価し、身体機能や筋力については、歩行速度・歩行様式(歩幅や足底接地時間など)、開眼片足立ち、握力、股関節外転筋力などを評価した。

評価を担当する研究者は、参加者がどちらの群に属しているかという情報がマスクされた状態で評価した。また身体機能関連の指標については、参加者1人につき2人の理学療法士が評価し精度を確保した。

ダンス群では認知機能と歩行速度が維持される一方、SMIは対照群が優位

解析対象となった102人は、平均年齢74.2±6.2歳、女性93.1%だった。ベースラインにおいて、年齢、性別の分布、BMI、運動を習慣としている割合、生活習慣病有病率、認知機能、歩行速度、抑うつレベルなどに有意差はなかった。

ダンス群において競技会参加中止などに伴う脱落があり、1年後の追跡調査の対象は88人(86.3%)、2年後は61人(59.8%)となった。論文ではすべての評価指標について、線形混合モデルでの群×時間効果(主解析)、および、追跡前後の変化量を比較(共分散分析〈ANCOVA〉)した結果(副次的解析)が示されているが、ここではそれらのうち、有意な群間差が認められた項目を中心に紹介する。なお、解析に際しては、年齢、性別、ベースライン値、観察期間が共変量として調整されている。

認知機能:ダンス群で全般的認知機能と視空間認知機能が良好に維持される

全般的認知機能(MMSE)は、ダンス群ではベースライン28.0±1.8、1年後27.8±1.9、2年後28.1±1.6、対照群は同順に28.3±1.6、28.0±1.8、27.2±2.2であり、1年あたりの群×時間効果はβ=0.584(p=0.007)で、ダンス群の認知機能のほうが良好に維持されており、有意差が認められた(図1)。追跡前後の変化量(Δ)にも有意差が認められた(F=7.55〈p=0.022〉)。

高次認知機能(MoCAの視空間認知機能)も、群×時間効果がβ=0.266(p=0.023)で、変化量の差はF=6.80(p=0.030)と、ダンス群において有意に良好な状態が維持されていた。

図1 ヒップホップダンス継続群と対照群における認知機能の変化

ヒップホップダンス継続群と対照群における認知機能の変化

全般的認知機能(MMSE、左)と視空間認知機能(MoCA、右)の3時点の推移。ダンス群(赤)は維持・改善し、対照群(青)は低下した。各パネルのβは年あたりの変化量、pは群×時間交互作用の有意確率。*p<0.05、**p<0.01。
(宮﨑氏提供)

歩行速度:ダンス群で歩行速度が維持され、足底接地時間の短さが寄与

歩行速度は、ダンス群ではベースライン1.9±0.4、2年後2.0±0.4m/秒、対照群は1.8±0.3、1.7±0.3m/秒であり、β=0.0647(p=0.031)、F=3.07(p=0.018)と、ダンス群において有意に良好な状態が維持されていた(図2)。

より詳細な解析により、歩幅については両群間に有意差がなく、歩行速度の差は足底(左足)接地時間によって生じており、ダンス群は対照群より接地時間が有意に短縮していた。

筋力やバランス:股関節外転筋力はダンス群で維持

股関節外転筋力(右足)は、β=1.22(p=0.016)、F=8.75(p=0.013)と、ダンス群において有意に良好な状態が維持されていた。握力、膝伸展筋力には、有意水準の群間差はみられなかった。

開眼片足立ち(右足)については、群×時間効果は有意にダンス群が良好であることを示していたが(β=10.35〈p=0.026〉)、変化量の群間差は非有意だった(p=0.144)。

図2 ダンス継続群と対照群における歩行関連指標の推移

ダンス継続群と対照群における歩行関連指標の推移

歩行速度(左)はダンス群でより良好な変化を示した一方、歩幅(上中央)は変化しなかった。接地時間(上右)の短縮に加え、右股関節外転筋力(下中央)と右片脚立位時間(下右)の改善がみられ、歩幅の拡大ではなく、支持の安定性と足運びのタイミングの変化として歩行速度の変化が現れた可能性が示された。図中の数値は年あたりの変化量(β)を示す。*p<0.05、**p<0.01。
(宮﨑氏提供)

骨格筋量指数(SMI):群×時間効果はダンス群が好ましくないという結果

一方、骨格筋量指数(SMI)は、ダンス群ではベースライン6.1±0.6、1年後6.0±0.6、2年後6.2±0.6kg/m2、対照群は同順に6.0±0.7、6.1±0.8、6.0±0.8kg/m2であり、1年あたりの群×時間効果はβ=-0.0638(p=0.020)で、対照群のSMIのほうが良好に維持されており、有意差が認められた。ただし、追跡前後の変化量には有意差がなかった(p=0.192)。

認知機能や歩行機能に加えて筋量を維持するためには、栄養サポートも必要

著者らは、「ヒップホップダンスへの参加は、認知機能の維持と、歩幅の増加ではなく接地時間の短縮を特徴とする歩行速度の好ましい変化と関連していた。しかし、骨格筋量に関しては対照的な結果が示された」と述べている。骨格筋量に好ましい関連が認められなかったことの理由としては、「ヒップホップダンスは有酸素運動に該当し、加齢に伴う筋量低下を予防するのに十分な筋肉への負荷が、生じない可能性がある」と考察している。

研究の限界点として、対象の多くを女性が占めていたこと、食事調査を行っていないこと、日常の身体活動量を客観的な指標で評価していないことなどを挙げたうえで、論文の結論は、「ヒップホップダンスは高齢者の認知機能と歩行機能の低下抑止のための、地域社会に根付いた有効な戦略となり得ることが示唆された。とくに、共通のパフォーマンス目標を目指すグループ活動として、継続的な参加を促す場合に有効と考えられる。ただし、筋量の維持も優先課題とする場合は、ダンスの練習とともに、筋力トレーニングやタンパク質摂取の推奨などの栄養サポートを組み合わせる必要があるかもしれない」とまとめられている。

文献情報

原典論文のタイトルは、「Hip-hop dance participation and cognitive, gait, and muscle mass outcomes in community-dwelling older adults: a multi-site longitudinal study」。〔Front Aging. 2026 July 10:7:1862298〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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