豚肉が米陸軍兵の運動後の回復を促進、ベジタリアンの場合は必須アミノ酸とクレアチンで補充
必須アミノ酸とクレアチンが豊富なため良質なタンパク源とされている豚肉が、米陸軍の士官候補生等の運動後の回復を促進することが報告された。主要栄養素量が等しくなるように調整した植物性食品中心の食事と比べる無作為化二重盲検クロスオーバー試験の結果であり、著者らは、「植物性食品を優先する食事スタイル、とくにベジタリアン食を行っている兵士は、回復促進のため1日に6~10gの必須アミノ酸と2~3gのクレアチンを摂取する必要がある」と述べている。
豚肉のタンパク質は必須アミノ酸とクレアチンの含有量が高い‘complete protein’
高強度トレーニングを行っているアスリートや軍人には、回復と筋タンパク質の合成促進のため、1.4~2.0g/kg/日のタンパク質の摂取が推奨され、理想的にはそれに6gの必須アミノ酸(essential amino acid;EAA)、2~3gのロイシンを含むことが勧められている。また、筋肉や脳内のクレアチンレベルを維持するため、2~3g/日の食事由来クレアチンの摂取も必要とされる。これらのタンパク質を植物性のタンパク源のみで摂取することは困難なことが多い。
一方、アミノ酸スコアが高いことの多い動物性タンパク源の中でも、赤身の豚肉はこれら栄養素を多く含んでおり、推奨を満たすうえで適した食材の可能性がある。しかし、高強度運動を行っている人において、赤身の豚肉が植物性食品に比較し、どの程度のメリットを期待できるのかという定量的な検討はあまり行われていない。これを背景にこの論文の研究者らは、米国陸軍の士官候補生等を対象として3日間にわたる戦闘適合試験(army combat fitness test;ACFT)を用いた無作為化二重盲検クロスオーバー試験を行った。
米国の兵士の食事について
米国で兵士に提供される調理済みの戦闘糧食(military-style meals ready-to-eat;MRE)は1食あたり1,300kcalで、炭水化物50%、タンパク質15%、脂質35%とされている。2023年のMRE食事プランでは、主に動物性タンパク質(牛肉、鶏肉、ソーセージ、豚肉、マグロ、チーズなど)を含む14種類のメニューと、主に植物性タンパク質(豆、米、ナッツなど)を含む9種類のメニューがあるが、タンパク源として豚肉を使用しているメニューは1種類のみ。
豚の赤身肉のタンパク質は、MREに使用されている他の大半のタンパク質食品と比べてアミノ酸スコアが高く、EAA、ロイシン、クレアチンの含有量も高い「complete protein(完全タンパク質)」と言える。理論的には、軍事訓練のような激しい運動の前後に、豚肉を主要なタンパク源とするメニューを摂取することで、EAAとクレアチンの可用性が高まり、異化や炎症・酸化ストレスの抑制、免疫、疲労感、筋肉痛などの面に好ましい影響を与えると考えられる。一方で、植物性食品のタンパク質のメニューでは、逆の影響が生じる懸念がある。
3日間の戦闘適合試験(ACFT)とその後の回復等の変化を2条件で比較
この研究の参加者は、米国陸軍士官候補生や退役軍人などから募集された。適格条件と除外基準は以下のとおり。
適格条件
- 年齢18~40歳
- 過去に士官候補生または現役軍人としての訓練を受けた経験があること
- 戦闘適合試験への参加を制限する医学的状態がないこと
- プロトコル(研究期間中の鎮痛薬の使用禁止など)を遵守可能なこと
除外基準
- 妊娠中、授乳中または妊娠の予定があること
- 過去2週間以内のサプリメントや薬剤の使用
- 食物アレルギー
50人が応募し40人がスクリーニングを受け35人が適格と判定され、30人からインフォームドコンセントを得られた。研究中の脱落を除き、解析対象は23人(女性6人)となった。無作為に分けた2群のうち1群には、3日間の戦闘適合試験(ACFT)の間、豚肉ベースの戦闘糧食(MRE)を1日3食支給され、他の1群には植物性タンパク質を中心とするMREが1日3食支給された。そしてACFTの最中と終了72時間後まで、計5日間にわたり、採血・採尿検査、筋肉痛や睡眠・食欲・回復状態、認知機能などを評価。14~21日間のウォッシュアウト期間をおいて割り付けを切り替え、再度同様の試験を実施した。
なお、ACFT参加の48時間前からカフェインやアルコールの摂取と激しい運動を禁止した。研究期間中の起床から就寝までのスケジュールは、食事の摂取タイミングも含めて規定されていた。また、支給したもの以外の食品の摂取を禁止した。
支給した戦闘糧食(MRE)について
戦闘糧食(MRE)のメニュー開発には、管理栄養士、および栄養トレーニングを受けた研究者とシェフがあたった。植物性タンパク質中心のMREのタンパク源は、大豆、テンペ、レンズ豆、エンドウ豆、小麦ベースのタンパク質などを用いて、豚肉を用いたMREとエネルギー量や主要栄養素量が等しく、味や外観、食感から区別がつかないように調理された。それらをシェフがラベル付けしたうえで、研究参加者と研究者の双方がどちらのMREか区別できない状態として支給された。
2種類のMREの1日分のエネルギー量は、豚肉の場合3,772kcal、植物性タンパク質の場合3,763kcalで、主な栄養素は以下のとおり。豚肉を使ったMRE/植物性タンパク質のMREの順に、炭水化物は490/510g、タンパク質126/128g、脂質159/155g、必須アミノ酸22.9/15.2g、ロイシン4.3/2.6g、イソロイシン2.3/1.4g、バリン2.8/1.7g、クレアチン1.817/0.215g。
筋肉痛や炎症、睡眠、食欲などは豚肉を使ったMREで良好な結果
解析対象者23人は、年齢が20.0±2.1歳、BMI24.9±2.6、安静時心拍数63.3±11.5bpmだった。論文では評価したさまざまな指標の時間効果や食事条件間の差の検討結果が示されており、それらの中から主要なポイントのみをピックアップして紹介する。
戦闘適合試験(ACFT)後のパフォーマンスの回復は、食事条件にかかわらず3日で十分
戦闘適合試験(ACFT)に含まれているハンドリリースプッシュアップ、プランクテスト、2マイル走は、ACFTの実施により有意に低下した。ただし、72時間後にはベースライン値よりも有意に良好な結果を示し、食事条件による差も認められなかった。
これにより、本研究の参加者のような若年で高強度トレーニングを行っている集団では、ACFTという高い運動負荷を課しても、それによるパフォーマンスの低下は3日後に回復可能であると考えられた。
植物性食品中心の食事スタイルなら、EAAとクレアチンの追加摂取が必要
上記のように、パフォーマンス指標に関しては回復の程度に条件間の差がなかったものの、筋肉痛や炎症マーカー、抑うつレベル、食欲、睡眠の質などの点では有意差が認められ、豚肉を使ったMREのほうが好ましい結果が示された。
一方、血清脂質に関しては、植物性タンパク質ベースのMREのほうが健康的な変化を示した。例えば総コレステロールやLDL-コレステロール、non-HDL-コレステロールが有意に低下し、条件間に有意差が認められた。
これらの結果に基づき論文の結論には、「植物性食品中心の食事を摂取している人は、必須アミノ酸(EAA)やクレアチン含有量が多い豚肉ベースのタンパク質源を摂取する人に比べて、たとえタンパク質の摂取推奨量を満たしていたとしても、軍隊で行われるような激しい運動の後の回復が遅延する可能性がある。そのような食事スタイルの場合、EAAを6~10g/日、およびクレアチン一水和物を2~3g/日の追加摂取を考慮すべきではないか」と記されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of Pork Protein Ingestion Prior to and Following Performing the Army Combat Fitness Test on Markers of Catabolism, Inflammation, and Recovery」。〔Nutrients. 2025 Jun 13;17(12):1995〕
原文はこちら(MDPI)