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ケトジェニックダイエット中のアスリートも、運動直前の糖質摂取でパフォーマンス向上

ケトジェニックダイエットを行っているアスリートが、運動直前に糖質を摂取することで、パフォーマンスか向上するという研究結果が報告された。ただし、有意な影響が観察されるのは運動の30分前という直前に摂取した場合であって、2日間にわたって摂取した場合は有意でなく、この結果には筋肉と肝臓のグリコーゲンへの影響の違いなどが関与している可能性があるという。英国からの報告。

ケトジェニックダイエット中のアスリートも、運動直前の糖質摂取でパフォーマンス向上

ケトジェニックダイエットを長期間続けているアスリートにも糖質は有効?

糖質の摂取量を極めて少量に制限することで、ケトン体の産生量を増やし、それをエネルギー基質として利用できるように代謝を変えることを意図した「ケトジェニックダイエット(ケトン産生食)」が、アスリートの間でも徐々に広がってきている。ケトジェニックダイエット(ketogenic diets;KD)によって炭水化物の酸化が抑制され、骨格筋や肝臓のグリコーゲンの貯蔵が温存され、持久力パフォーマンスに対して有利に働くという理論も提唱されている。ただしそれを実証したエビデンスは限られている。

一方、持久力にとって運動前の糖質摂取が重要であることは古くから認識されており、現在に至るまで、さまざまな糖質摂取戦略が試行錯誤されている。KDを実践しているアスリートにおいても、運動前の糖質摂取がパフォーマンスを向上させる可能性があるが、これまでのところ、ケーススタディーや短期間の糖質制限での研究の報告しかなく、長期にわたってKDを行っているアスリートでの知見はみられない。

これを背景としてこの論文の著者らは、最低1年以上KDを続けているアスリートを対象として、運動前の糖質摂取の有用性を検討した。

運動の直前に糖質を摂取するとパフォーマンスに好影響

この研究の参加者は、週に2回以上の頻度で持久系スポーツを行っているレクリエーションアスリート13人。全員が、過去1年以上ケトジェニックダイエット(KD)を継続していること、年齢が18~60歳の範囲であること、非喫煙者であること、摂食障害の既往がないこと、疾患を有していないことという適格基準を満たしていた。なお、KDは、1日あたりの炭水化物摂取量が50g未満または総摂取エネルギー量の10%未満と定義されている。

研究参加者の主な特徴は、年齢41±11歳、女性が13人中2人、BMI23.6±2.0、体脂肪率12.8±5.4%、VO2max49.8±5.4mL/kg/分であり、主要栄養素摂取量(%エネルギー)は、炭水化物5±2%、脂質67±7%、タンパク質27±6%で、安静時のケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)レベルは0.8±0.4mmol/L。

糖質摂取の有無および摂取方法を変えた4パターンで比較

試験デザインは、単盲検プラセボ対照クロスオーバー法(ラテン方格法)であり、全員に対して以下の4条件を試行した。各試行には5日以上のウォッシュアウト期間を設け、試行は同一時間帯に行った。また研究期間中はトレーニング内容を変えないように指示し、試行48時間前からは激しい運動を禁止した。

  • 条件1(Acute条件):パフォーマンステストの試行30分前に、糖質60gを含む飲料を摂取する条件(テストの前日や前々日に摂取するものとしてはプラセボを支給)。
  • 条件2(Short条件):パフォーマンステストの2日前および1日前に、糖質200gを含む飲料を摂取する条件(テスト30分前に摂取するものとしてはプラセボを支給)。
  • 条件3(COMB条件):パフォーマンステストの2日前および1日前に糖質200gを含む飲料を摂取し、かつ、テスト試行30分前に糖質60gを含む飲料を摂取する条件(すべてのタイミングでプラセボは支給されない)。
  • 条件4(PLA条件):パフォーマンステストの2日前と1日前、および、テスト試行30分前に、糖質が含まれていないプラセボ飲料を摂取する条件(すべてのタイミングにプラセボを支給)。

呼吸交換比(RER)に有意差

パフォーマンステストには自転車エルゴメーターを用い、50%Wmax(平均139±26W)で60分間の負荷をかけた後、15分間の休憩をはさんで16.1kmのタイムトライアルを行った。

60分間の負荷中に測定されたVO2、心拍数、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)に、条件間の有意差は観察されなかった。ただし、呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)については、Acute条件は負荷20分以降、PLA条件に比べて高値で推移した。またCOMB条件は60分間にわたりPLA条件に比べて高値で推移し、かつ20分まではShort条件との比較でも有意に高値だった。これは、事前に摂取した糖質がエネルギー基質として優先的に利用されたことを意味する。

タイムトライアルにも有意差

タイムトライアルの結果は、PLA条件と比較して、運動の直前に糖質の摂取を含むAcute条件およびCOMB条件という2条件では、所要時間が有意に短縮されていた。COMB条件ではさらに、Short条件との比較においても有意に短縮されていた。一方、前日までに糖質を摂取し直前には摂取しないShort条件では、PLA条件と有意差がみられなかった。

なお、ピークパワーに関しては、4条件間で有意差はなかった。

運動直前の糖質摂取は肝グリコーゲン温存、血糖低下抑止、中枢刺激を介して働く

以上の結果を基に著者らは以下のような考察を述べている。

まず、糖質を運動の直前に摂取した場合にパフォーマンス上のメリットがあり、前日までに摂取した場合にはメリットが認められないという差異については、直前の摂取により運動中の血糖低下が抑制されること、肝臓と骨格筋のグリコーゲンに対する影響が異なり、急性摂取により肝グリコーゲンが温存されることが関与している可能性があるとしている。また、糖質の洗口(マウスウォッシュ)のパフォーマンス向上効果が知られているように、直前の摂取は高次中枢を刺激することを介してメリットをもたらす可能性があるという。

結論としては、「長期にわたりケトジェニックダイエットを行っているアスリートであっても、運動の直前の糖質摂取が、持久力パフォーマンス向上に寄与し得る」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Strategic carbohydrate feeding improves performance in ketogenic trained athletes」。〔Clin Nutr. 2025 Jun 25:51:212-221〕
原文はこちら(Clinical Nutrition)

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