食品でエルゴジェニックサプリを代替可能か? 米国スポーツ医学会「10の質問/10人のエキスパート」
米国スポーツ医学会2025年年次総会のハイライトセッションである、栄養や運動の専門団体「Professionals in Nutrition for Exercise and Sport;PINES」主催の「10Questions/10Experts(10の質問/10人のエキスパート)」のレポートが、国際スポーツ栄養学会のジャーナル「International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism」に掲載された。
今年は、この分野で長年推奨されている「食品ファースト」アプローチに焦点が当てられた。一般的に消費される日常的な食品が、一部のエルゴジェニックサプリメントやスポーツフードの代わりとなり得るかという疑問に対する、エキスパートの見解が示されている。10項目の「myth」(神話、俗説、考え方)の一部をピックアップしたうえで、エキスパートの見解の要旨を紹介する。
人々は日常の食品から十分な量のクレアチンを摂取しているか?
クレアチンは非必須栄養素で、通常1日あたり1gのクレアチンが体内で生成され、1gが食事から摂取されて必要量を満たすと推定されている。食事中のクレアチンは、主に肉や魚から摂取される。牛肉や魚に比べて、鶏肉はクレアチン含有量がはるかに低い。
ベジタリアンなどでない限り、1日あたり1gのクレアチンの摂取は容易に達成できそうに思えるが、約9万人を対象としたある研究では、食事からのクレアチン摂取量は1999年から2018年にかけて減少しており、人口の3分の2が1日あたり1g未満であることが示された。複数の研究から、食事からのクレアチン摂取量が少ないことと、認知機能の低下との関連が示唆されている。
エキスパートの回答
この考え方(myth)は否定される。クレアチンは条件付きの必須栄養素と見なすべきであり、最適な健康状態を維持するためにはクレアチンサプリメントの摂取が賢明であるという意見もある。非糖質甘味料は、アスリートのエネルギー摂取量を減らす効果的な方法か?
カロリーがほとんど/全くない非糖類甘味料(nonsugar sweeteners;NSS)は、味を損なうことなく食事中の遊離糖を置き換えるために広く使用されている。NSSに関する研究の大半は肥満や健康状態に焦点を当てているが、エネルギー摂取量と体重管理が重要な懸念となることが多いアスリート集団においても、注目を集めている。
アスリートは特定の栄養素を必要としたり、一般人口より大きなエネルギーを必要とする。砂糖を含む食品や飲料はトレーニングとパフォーマンスをサポートするための重要な炭水化物源であって、NSS利用により炭水化物の可用性、ひいてはパフォーマンスが損なわれることのないよう注意が必要となる。
またNSSが腸内細菌叢に及ぼす影響について懸念が生じている。さらにNNSが食欲調節を阻害し、空腹感をもたらし、代償的過食につながり得るという指摘もある。ただし、これらの知見が実際的な結果にどのようにつながるかは不明。
エキスパートの回答
この考え方は、判断をつけられないとすべき。NSSの体重や体組成に対する有効性を裏付けるエビデンスには一貫性がなく、潜在的なメリットを示唆する研究もあれば、懸念を抱かせるデータもある。また、これらのエビデンスの大半は一般集団または肥満者を対象とした研究から得られたものであり、アスリートに適用できるとは限らない。遊離糖の摂取量を減らすことを望まない、または減らすことができないアスリートなど、特定の状況では有用な可能性があるが、現在のエビデンスからはNSSがアスリートにとって最適な栄養戦略ではない可能性もある。ビーフジャーキー等は十分なロイシンを供給するから、BCAAサプリは不要か?
ロイシン、イソロイシン、バリンという分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acids;BCAA)は、筋タンパク質合成(muscle protein synthesis;MPS)において極めて重要な役割を果たす。BCAAサプリメントは、回復の促進、パフォーマンスの向上、筋肥大のサポートを目的として、アスリートによく使用される。ただし、食事からのタンパク質摂取が十分な場合、BCAAサプリ単独ではパフォーマンスや体組成への影響は限られていることも示されている。一方で、カロリー制限を摂取している人や習慣的なタンパク質摂取量が少ない人は、サプリメントのメリットを得られる可能性がある。
標準的なビーフジャーキー1本(28g)には約0.5~0.7gのロイシンが含まれており、若い女性のMPSを最大化するために必要な閾値(ロイシン0.6g)を得るのに十分と言える。一方で男性では十分でない。
エキスパートの回答
この考え方は、もっともらしい。ビーフジャーキースティックやチョコレートミルクは、MPS刺激を高めるうえで、女性にとって十分な量のロイシンを含む。ただし、これらの食品をMPS刺激目的で摂取した場合、エネルギー摂取量の増大が問題となる。上記以外には、「ビタミンB群や食品着色料は、水分補給状態の指標である尿色の判定に影響を与えるか?」、「運動時のエネルギー補給として、蜂蜜、アップルソース、またはその他の食品を炭水化物ジェルの代わりに使用可能か?」、「ジュースと少量の塩で作った自家製スポーツドリンクは、市販のスポーツドリンクと同等に効果的か?」、「ベジタリアンはカルノシンとカルニチンをサプリで補給する必要があるか?」、「ココナッツウォーターは電解質飲料の代替品として十分か?」、「運動前の食品由来のカルシウム摂取は、運動に対する急性骨代謝にどのような影響を与えるか?」といった質問に対する回答がまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Summary of the 2025 Professionals in Nutrition for Exercise and Sport “10 Questions/10 Experts” Session—Can Everyday Foods Replace Some Ergogenic Supplements and Commercially Available Sports Foods?」。〔Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2025 Oct 16:1-10〕
原文はこちら(Human Kinetics)







熱中症予防情報
SNDJユニフォーム注文受付中!

