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米国では学校給食の無償化により子どもたちの高血圧が減少 栄養バランスの改善とBMI低下が関与

学校給食の無償化が、子どもたちの高血圧を減らす可能性を示唆するデータが米国から報告された。無償化を導入した学校では、血圧高値に該当する生徒が5年間で11%近く減ったと推算されるという。ワシントン大学などの研究者らの研究結果で、米国医師会のジャーナル「JAMA Network Open」に論文が掲載された。

米国では学校給食の無償化により子どもたちの高血圧が減少 栄養バランスの改善とBMI低下が関与

米国では学校給食の無償化が進められ、献立もDASH食に近づいた

小児期の血圧高値は成人後の高血圧リスクとなり、心血管疾患・腎疾患リスクを生涯にわたって押し上げる可能性がある。血圧管理に推奨される非薬物療法として、減塩を中心とする食習慣の改善が重要であり、米国など海外では、果物、野菜、低脂肪乳製品を多く摂取し、ナトリウム、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸を控えるという「DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)」食のエビデンスが蓄積されてきている。ただし、このDASH食を広く普及させるための公衆衛生対策は定着していない。

一方、米国では2010年に学校給食に対する栄養要件が強化され、米農務省および保健福祉省の「米国人のための食生活指針」に則した給食を提供することが義務付けられた。また、低所得世帯の子どもが多くを占める学校の給食を無償化する政策も推し進められ、公立学校の多くが無償化プログラムを導入してきている。

今回取り上げる論文の著者らは、このような背景から、給食無償化プログラムを導入した学校の生徒は高血圧リスクが低下しているのではないかと考え、以下の検討を行った。

学校給食無償化で、血圧高値の生徒の割合が有意に低下

この研究では、2013~19年にかけて、米国12州の低所得層の公立学校およびチャータースクール(公設民営学校)を対象として、生徒の血圧の変化を縦断的に観察した。血圧値については、全米の地域医療機関の電子カルテの非営利共有ネットワーク(OCHIN)のデータを利用。このデータの4~18歳の患者の医療記録を基に、自宅住所から通学している学校を特定し、その学校が給食無償化プログラムを導入済か否かを判断した。12州(63.7%はカリフォルニア州またはオレゴン州)で計1,052校のデータが解析対象となり、児童・生徒数は合計15万5,778人だった。

統計解析は、まず、給食無償化プログラムを導入した学校において、導入前から導入後の高血圧の子どもの割合の差(difference)を求め、無償化プログラム未導入の学校での同時期の高血圧の子どもの割合の差と比較して、その差分の差(difference in differences;DD)を検討するという手法で行われた。主要評価項目は、収縮期血圧または拡張期血圧が、年齢・性別・身長に基づく90パーセンタイル以上の子どもの割合とし、副次的に、血圧が同95パーセンタイル以上の子どもの割合を検討した。

給食無償化プログラム導入から5年で、血圧高値に該当する生徒が約11%減少

解析の結果、主要評価項目の血圧高値(90パーセンタイル以上)の子どもの割合が、給食無償化プログラム導入校において-2.71パーセントポイント(PP)となり、プログラム未導入校よりも減少するという、有意な差(DD)が生じていた(95%CI;-5.10~-0.31PP、p=0.03〕)。このDDを基とする推算により、給食無償化によって、高血圧の子どもの割合が5年間で約11%減少すると考えられた(-10.8%〈95%CI;-20.4~-1.2〉)。

副次評価項目として設定されていた、より血圧の高い(95パーセンタイル以上)子どもの割合についても同様に、DDは-2.48PP(-4.69~-0.27、p=0.03)と、該当する生徒の割合が有意に大きく減少していることがわかった。

無償化プログラム導入後の時間経過との関連の解析からは、プログラム導入の4年後から、血圧高値に該当する生徒の割合の減少が有意になることが示された。

無償化による好ましい影響は、低学年ほど強く現れる

二次的な解析として行われた、小学校、中学校、高校という三つのカテゴリーに分類したうえでの解析結果をみると、三つの学校カテゴリーすべてで給食無償化により血圧高値の生徒が減少していた。ただし、統計的に有意差が認められたのは、小学校のみだった。詳しくは、小学校(707校)ではDDが-3.00PP(-4.84~-1.16)、中学校(168校)は-0.16PP(-4.08~3.76)、高校(157校)は-1.01PP(-4.40~2.39)。

小学校でのみ有意という点について著者らは、「給食無償化プログラムが導入された小学校の生徒は、同様の中学校や高校の生徒に比較して、より長い間、無償化された給食の影響を受けたためではないか」との考察を加えている。

給食無償化政策の意思決定に援用し得る知見

この研究発表に関して、ワシントン大学のサイトにニュースリリースが公開されている。その中で論文の著者らは、給食無償化は栄養バランスの改善およびBMIの適正化という二つのメカニズムを介して、子どもたちの血圧上昇リスクを押し下げると考えられると述べている。

他方、最近になって米国で給食無償化政策のための予算を削減することが議論になっていることを念頭に、「我々の研究結果は、給食無償化についての議論が続けられている各州において、議会の意思決定に役立つのではないか。学校給食への資金を削減することは、子どもたちの健康増進にはならない」とも付言している。

文献情報

原題のタイトルは、「School Provision of Universal Free Meals and Blood Pressure Outcomes Among Youths」。〔JAMA Netw Open. 2025 Sep 2;8(9):e2533186〕
原文はこちら(American Medical Association)

関連情報

After schools instituted universal free meals, fewer students had high blood pressure, UW study finds(ワシントン大学)

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