カフェイン常用者はエルゴジェニック効果が薄れる可能性 事前制限なし試験が示す結果
カフェインによる持久系パフォーマンス等への影響を、事前にカフェイン摂取を制限せず、ふだんどおりにコーヒーなどを摂取している状況で検討した研究結果が報告された。そのような状況では、プラセボとの有意差が認められなかったという。著者らは、カフェインの有効性を示した研究の多くは事前に一定期間、カフェイン摂取を禁止しており、それによる離脱症状が試験時のカフェイン摂取によって解消されることが、有意性の発現に一部関与しているのではないかと述べている。
カフェインの有用性は多くの研究で支持されているが…
カフェインがスポーツパフォーマンスや知覚反応速度などを向上するとする研究報告は枚挙にいとまがない。ただし本論文の著者らは、それらの結果が、研究前に人為的または偶発的に誘発されたカフェイン離脱症状と何らかの関連があるのではないかという点は、まだあまり検証されていないとしている。そのため、研究実施前にカフェイン摂取を制限しない条件での検討が必要と指摘。また、カフェイン関連の研究の多くが男性を対象としてきていること、摂取量を3~6g/kgとすることが多く少量での影響が検討されていないことも、未解明の課題であると述べている。
これらの課題に対応するため、この研究では、研究実施前のカフェイン摂取を制限せず、研究参加者に占める女性の割合を半数程度とし、かつ6mg/kgのほかに2.5mg/kgという摂取条件も設けたプラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験を実施した。
研究は、カフェイン摂取量を2.5mg/kgとする「研究1」と、同6mg/kgとする「研究2」で構成されている。研究1からみていこう。
カフェインを2.5mg/kg摂取した場合は、プラセボ摂取条件と有意差なし
研究1は41人が参加し、6人が脱落して35人が解析対象となった。うち女性が17人(全員月経周期の異常なし)で、年齢は女性が22.2±2.0歳、男性は24.3±4.9歳で、国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire;IPAQ)で評価した高強度運動の頻度が2.7±1.9回/週(平均活動時間59.6±50.4分)、中強度運動の頻度は3.3±1.6回/週(同59.1±93.2分)、自転車エルゴメーターでのピークパワーは女性、男性の同順に268±37W、354±50W、最大心拍数は191±11bpm、199±7bpm。
ふだんのカフェイン摂取量は、カフェイン摂取量質問票の回答に基づき推測され、106±89mg(範囲0~296mg)と推測された。1人はカフェインを習慣的に摂取していなかった。
パフォーマンステストは、自転車エルゴメーターにより実施。実施の60分前に、カフェイン2.5mgまたはプラセボ(白とうもろこし粉)を、被験者、研究者ともに区別がつかないカプセルとして渡し、摂取してもらった。事前に評価されていたピークパワーの65%の強度で疲労困憊に至るまで続け、60回転/秒以上を10秒間維持できなくなった時点で打ち切りとした。
1週間のウォッシュアウト期間を挟み、割り付けを切り替えたうえで同様の試験を行った。概日リズムや生活パターンによる結果への影響を抑制するため、テストの時間帯は初回のテストに揃えた。なお、研究参加者には、研究期間中、カフェインの摂取習慣を変えないこと、食事・運動習慣をふだん通り維持すること、パフォーマンステストの48時間前からは激しい運動を控えることを求めた。また、女性参加者については、月経周期を確認し、解析の際に交絡因子として用いた。
検討の結果、疲労困憊にいたるまでの時間(time to exhaustion ;TTE)は、カフェイン摂取条件が1,154±536秒、プラセボ条件が1,279±853秒で有意差がなく(p=0.153)、心拍数も同順に182±10bpm、180±10bpm(p=0.110)、相対心拍数(事前に評価されていた最大心拍数に対する割合)も93±3%、92±4%(p=0.123)で有意差がなかった。
また、本研究では上記のパフォーマンスへの影響とは別に、疲労感、身体的負担(Borgスケール)、覚醒度、感情、モチベーション、注意力、時間感覚などへの影響も評価されたが、すべて条件間に有意差を認めなかった。性別を交絡因子として調整した解析や、性別で層別化した解析、女性の月経周期を調整した解析のいずれでも、結果は同様だった。
なお、テスト開始前の12時間以内にカフェインを摂取していた参加者(26人)でのサブグループ解析では、疲労困憊にいたるまでの時間(TTE)がカフェイン摂取条件よりもプラセボ摂取条件のほうが、有意水準未満ながら優れている傾向が観察された(1,145±510 vs 1,350±954秒、p=0.055)。
カフェインを6mg/kg摂取した場合も、プラセボ摂取条件と有意差なし
研究2には22人が参加し、1人が脱落して21人が解析対象となった。うち女性が11人(全員月経周期の異常なし)で、年齢は女性が21.5±2.5歳、男性は20.8±2.0歳で、国際標準化身体活動質問票(IPAQ)で評価した高強度運動の頻度が3.5±1.8回/週(平均活動時間85.0±34.6分)、中強度運動の頻度は3.9±1.9回/週(同118.4±197.5分)、自転車エルゴメーターでのピークパワーは女性、男性の順に249±28W、348±37W、最大心拍数は191±9bpm、190±11bpm。
カフェイン摂取量質問票の回答に基づき推測されたふだんのカフェイン摂取量は、87±64mg(範囲0~245mg)であり、1人はカフェインを習慣的に摂取していなかった。
パフォーマンステストの結果、疲労困憊にいたるまでの時間(TTE)は、カフェイン摂取条件が1,915±1,218秒、プラセボ条件が1,754±1,341秒で有意差がなく(p=0.390)、心拍数も同順に173±14bpm、174±12bpm(p=0.993)、相対心拍数は91±5%、91±3%(p=0.982)で有意差がなかった。また、疲労感やBorgスケール、覚醒度、感情、モチベーション、注意力、時間感覚など、評価された指標のすべてに条件間の有意差を認めず、性別を交絡因子として調整した解析や性別で層別化した解析、女性の月経周期を調整した解析のいずれでも結果は同様だった。
以上より著者らは、「慎重な解釈が必要ではあるが、これまでの研究で示されてきた持久力パフォーマンスに対するカフェインのエルゴジェニック効果は、このトピックに関する研究で実施されることの多い、研究前の短期間のカフェイン摂取制限が惹起する離脱症状による悪影響からの回復によって、部分的に説明できる可能性があるのではないか」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「No effects of caffeine on cycling to exhaustion and perceptual responses in non-caffeine-restricted subjects」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2534131〕
原文はこちら(Informa UK)