アスリートの位相角(PhA)と関連のある栄養素が明らかに タンパク質や肉・卵の摂取量と有意な関連
アスリートの食事・栄養素摂取状況と位相角との関連を横断的に検討した結果が報告された。複数の交絡因子を調整後、タンパク質の摂取量が有意な正の関連を示したという。ブラジルからの報告。
アスリートの位相角(PhA)は食事・栄養と関連があるのか?
位相角(phase angle;PhA)は生体電気インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis;BIA)で測定でき、筋肉の質や細胞の栄養状態などの指標とされており、アスリートの体組成の評価指標としても注目されている。これまでに、アスリートのPhAは一般人口よりも高いこと、筋力トレーニングは持久力トレーニングよりもPhA上昇につながりやすいこと、位相角が競技レベルと関連がある可能性のあることなどが報告されてきている。また、疾患有病者では、位相角が肉類の摂取量と相関することも示されている。
これらの知見が蓄積されてきているにもかかわらず、アスリートの食習慣や栄養素摂取量とPhAとの関連は、これまで十分に調査されていない。今回紹介する論文の著者によると、本研究はアスリートのPhAと食事摂取量との関連を調査した初の研究だという。
ブラジルのアスリート153人を対象にPhAと食習慣を調査
この研究は、ブラジルのアスリート153人を対象とする横断研究として実施された。適格基準として、週に6時間、6日以上トレーニングを行っていること、地域大会以上の競技会への参加歴があることで、除外条件としてパラアスリート、体内にペースメーカー等が埋め込まれているアスリートなどが設定されていた。
対象者の年齢は21.3±6.9歳(範囲14~48歳)、男性80.4%、BMI23.0±3.0、体脂肪率13.9±6.9%であり、位相角(PhA)は6.4±0.7°だった。行っている競技は、陸上、トライアスロン、バレーボール、フットボール、サッカー、自転車、テニス、水泳、ビーチバレー、ボディービル、ブラジリアン柔術、総合格闘技など17種類だった。
性別で比較した場合、女性のほうが若年(22.1±7.3 vs 18.1±4.45歳)で、BMIは男性(23.4±3.0 vs 20.8±1.9)、体脂肪率は女性(12.2±5.8 vs 21.7±6.1%)のほうが高いという有意差があった。位相角も、男性が6.6±0.6°、女性は5.5±0.6°で、男性のほうが高いという有意差がみられた。
なお、PhAは48時間前からカフェイン、アルコールの摂取を禁止し、4時間前から飲食を禁止した状態で測定した。
交絡因子調整後にもタンパク質摂取量や肉・卵の摂取量が有意な関連
非連続の2日(水曜日と土曜日)の食事内容を、対面式の24時間回想インタビューで評価。摂取エネルギー量、主要栄養素摂取量は以下のように推定された。
摂取エネルギー量は39.5±19.2kcal/kg/日、炭水化物50.6±11.1%、タンパク質18.6±6.8%、脂質30.2±9.2%。主要栄養素の体重あたり摂取量を性別で比較すると、タンパク質は男性アスリートのほうが有意に高値だった(1.8±1.0 vs 1.5±0.6g/kg/日、p<0.01)。炭水化物と脂質は有意差がなかった。
また、食品群については、穀物、果物、肉・卵、乳製品、添加糖の摂取量に有意差があり、いずれも男性のほうが多かった。野菜、豆・種実、油脂については有意差がなかった。
タンパク質摂取量が多いアスリートはPhAが高値
位相角(PhA)と栄養素および食品群の摂取量との関連は、調整する交絡因子のパターンによって5種類のモデルで解析された。
まず、栄養素摂取量との関連をみると、交絡因子未調整のモデル1では、タンパク質の摂取量はPhAと正の関連(β=0.42)、脂質の摂取量はPhAと負の関連(β=-0.27)が認められた。年齢を調整したモデル2、性別も調整したモデル3でも同様の関連が認められた。
ただし、交絡因子として年齢、性別に除脂肪体重を加えたモデル4では脂質との有意な関連が消失した。一方、さらに摂取エネルギー量も交絡因子として調整したモデル5においても、タンパク質の摂取量とPhAとの正の関連は、引き続き有意だった(β=0.25、p=0.02)。
肉・卵の摂取量が多いアスリートはPhAが高値
次に、食品群の摂取量との関連をみると、交絡因子未調整のモデル1では、肉・卵の摂取量(β=0.33)、および、果物の摂取量(β=0.16)が、PhAと正の関連を有していた。ただし、交絡因子として年齢を調整したモデル2では、果物との有意な関連が消失した。
一方、すべての交絡因子を調整したモデル5においても、肉・卵の摂取量とPhAとの正の関連は、引き続き有意だった(β=0.26、p<0.01)。この点について著者らは、「肉と卵は主要なタンパク源であり必須アミノ酸の生物学的利用能が高いため、筋肉量に好ましい影響を与え、それがPhAにも反映されるのではないか」と考察している。
結論は、「この横断研究で観察されたタンパク質摂取量とPhAの正の関連は、位相角の測定が、アスリートの栄養状態の変化をモニタリングするためのアプローチとして利用できる可能性を示唆している。ただし、この知見を検証し、アスリートのPhAを向上させるための栄養介入方法を確立するために、さらなる研究が必要」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Association between phase angle from bioelectrical impedance and dietary intake in athletes: a cross-sectional study」。〔J Nutr Sci. 2025 Jun 10:14:e38〕
原文はこちら(Cambridge University Press)