生体インピーダンスの位相角が低値の日本人高齢男性は、栄養不良の可能性
高齢日本人を対象とする研究から、生体インピーダンスの位相角が体組成や栄養素摂取量と有意な関連のあることや、コリンエステラーゼ値が男性・女性ともに位相角と正相関することが明らかになった。京都府立医科大学内分泌・代謝内科の梶山真太郎氏、中西尚子氏、濵口真英氏、福井道明氏らの研究であり、「Nutrients」に論文が掲載された。男性では、摂取エネルギー量が少ないことが位相角低値の独立した関連因子であることも示されている。
位相角で高齢者の栄養状態を評価できるか?
生体電気インピーダンス分析によって測定される位相角(phase angle;PhA)は非侵襲的に測定が可能な指標であり、健康状態や死亡リスクなどとの相関が報告され近年注目されている。一般にPhAが高いことは細胞の状態が良好であることを意味し、加齢とともにPhAは低下する。また、体内水分量や栄養状態によっても変化することが知られている。
生体インピーダンスとは?
体組成計の原理(株式会社タニタ)高齢者の低位相角(低PhA)が死亡リスクのほかに、サルコペニアやフレイルなどのリスクと関連のあること、反対にレジスタンストレーニングはPhAを上昇させる可能性のあることなどが報告されている。ただし、高齢者の食習慣や栄養状態とPhAとの関連は十分検討されていない。これらを背景として著者らは、健診受診者のPhAと他の検査指標との関連を検討するとともに、低PhA高齢者の食習慣や栄養状態が高PhA高齢者と異なるか否かを調査した。
人間ドック受診者を性別に解析
この研究には、2018年1月~2021年3月に亀岡市立病院の人間ドックを受診した65歳以上の高齢者212人(男性130人〈61.3%〉)のデータが用いられた。食習慣や栄養状態は、簡易型自記式食事歴法質問票(brief self-administered diet history questionnaire;BDHQ)により評価された。
PhAの値に有意な性差を認めたため(男性5.28±0.59°vs 女性4.69±0.46°、p<0.0001)、すべての解析は性別に行った。また、既報研究に基づき、男性は4.95°以下、女性は4.35°以下を「低PhA」と定義した。
男性の低PhAと関連のある因子
男性は平均年齢72.6±5.0歳で、BMI23.1±3.1であり、低PhA該当者は39人(30.0%)だった。
低PhA群は高PhA群より高齢で(75.3±5.2 vs 71.2±4.4歳)、検査指標の中では、BMI、骨格筋量指数(skeletal muscle mass index;SMI)、拡張期血圧、コリンエステラーゼ(cholinesterase;ChE)が低PhA群で有意に低値だった。なお、コリンエステラーゼ(ChE)は肝臓のタンパク質合成能を反映するため肝機能の指標となるほか、栄養状態を評価するマーカーとしても利用される。
栄養関連指標
次に、栄養指標との関連に着目すると、低PhA群は総摂取エネルギー量(1,826.0±545.0 vs 2,057.1±568.9kcal/日、p=0.0487)、理想体重(BMI22)あたりの摂取エネルギー量(30.2±9.8 vs 34.5±9.3kcal/kg/日、p=0.0307)、炭水化物摂取量(918.4±286.8 vs 1,081.1±348.3kcal/日、p=0.0189)、理想体重あたりの炭水化物摂取量(15.2±4.9 vs 18.0±5.8kcal/kg/日、p=0.0157)が有意に少ないことがわかった、タンパク質や脂質、食物繊維、およびアルコール摂取量は有意差がなかった。
女性の低PhAと関連のある検査値や栄養指標
女性は平均年齢71.3±4.9歳で、BMI22.4±3.9であり、低PhA該当者は23人(28.0%)だった。
低PhA群と高PhA群を比較すると、低PhA群はより高齢だったが(74.5±6.4 vs 69.9±3.6歳)、男性の場合と異なりBMIには有意差がなかった。女性では、低PhA群は血清クレアチニンが低く、eGFRが高いという有意差が認められた。これは骨格筋量が低いと血清クレアチニンが低くなることに起因すると考えられる。また、男性と同様に骨格筋量指数(SMI)やコリンエステラーゼ(ChE)などにも有意差が認められ、低PhA群のほうが低値だった。
なお、栄養指標について、前述のように男性では低PhA群で摂取エネルギー量や炭水化物摂取量が少ないという有意差が存在していたが、女性に関しては摂取量に有意差のある栄養素はみられなかった。
男性・女性ともに年齢、SMI、ChEがPhAと有意に相関
次に、低PhA群/高PhA群に二分せずに、男性、女性をそれぞれ1群として、検査値や栄養指標とPhAの関連を検討した。
その結果、男性・女性ともに年齢はPhAと有意な逆相関(高齢であるほどPhAが低値)であり、骨格筋量指数(SMI)やコリンエステラーゼ(ChE)は有意な正相関(SMIやChEが低値であるほどPhAも低値)が認められた。なお、ChEとの相関係数(r)は、男性が0.3313(p=0.0004)、女性は0.3221(p=0.007)だった。
そのほかに男性では、BMIと肝逸脱酵素のALT、女性では血清アルブミンが、PhAと正相関していた。
年齢以外に男性では摂取エネルギー量が低PhAに独立して関連
続いて、低PhAを従属変数、年齢や生活習慣因子と栄養指標を独立変数として関連を検討。
男性では単変量解析の結果、正の関連因子として年齢、負の関連因子として理想体重あたりの総摂取エネルギー量および運動習慣が特定された。ただし、多変量解析では運動習慣は非有意となり、年齢(1歳高齢であるごとにOR1.22〈95%CI;1.09~1.37〉)と理想体重あたりの総摂取エネルギー量(1kcal/kg/日多いごとにOR0.94〈0.89~1.00〉)が、独立した関連因子として抽出された。
女性の低PhAに生活習慣や栄養指標の関連がないとは断定できない
一方、女性では単変量解析の時点で有意な関連が示されたのは年齢のみであり、多変量解析でも年齢が唯一の独立した関連因子であることが示された(OR1.22〈1.07~1.39〉)。
以上の総括として著者らは、「人間ドックを受診した高齢者では、栄養指標という側面のあるコリンエステラーゼ値がPhAと有意な相関があること、および男性では炭水化物量が少ないことと総摂取エネルギー量が少ないことが低PhAに独立した関連のあることが示された」と結論づけている。そのうえで、「高齢男性では炭水化物の不足を防ぎ、摂取エネルギーを確保することがPhAを高め、健康に寄与する可能性があるのではないか」との考察が述べられている。
なお、女性では低PhAに独立した関連のある生活習慣因子や栄養指標が特定されなかった点について、「男性よりもサンプルサイズが小さかったために非有意となった可能性を否定できない」と付言されている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Impact of Nutritional Markers and Dietary Habits on the Bioimpedance Phase Angle in Older Individuals」。〔Nutrients. 2023 Aug 17;15(16):3599〕
原文はこちら(MDPI)