短距離走が1カ月、筋力が2カ月、持久力が5カ月...新型コロナの影響でドイツの小学3年生の体力発達に遅れ
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に子どもたちの体力の発達が遅延していたことが、ドイツから報告された。その程度は、スプリント(短距離走)では1カ月、上肢の筋力では2カ月、持久力では5カ月の遅延に相当するという。
ドイツのブランデンブルク州のすべての小学3年生を対象に調査
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは世界中の人々の生活を一変させたが、とりわけ厳格なロックダウンが行われた国々では、市民の身体活動量への影響が大きかったことが、複数の国から報告されてきている。ただ、そのような身体活動の減少が子どもたちの発育にも影響を及ぼしたのか否か、影響が及んでいたとしたら、ロックダウン解除後に発育はキャッチアップできているのか否かという点は、十分に明らかになっていない。
今回紹介する論文の研究は、ドイツのブランデンブルク州のすべての小学3年生を対象に、毎年実施されている体力調査「EMOTIKONプロジェクト」という調査のデータが解析に用いられた。同州にある515校から、2016~22年にわたる7年間の同一年齢のコホート、計12万5,893人が対象。このうち9万8,510人は通常どおりに入学・進学した学童で、小学3年生時点で8~9歳だった(以下ではkeyage学童と省略)。他の2万7,383人は何らかの理由で通常よりも進級が遅かった学童(Older-than-keyage;OTK)であり、小学3年生時点で9~10歳だった(以下ではOTK学童と省略)。
keyage学童は51%が女児、OTK学童は42%が女児だった。解析では、2016~19年の調査に参加した学童をパンデミック前の小学3年生、2020~22年の調査に参加した学童をパンデミック中の小学3年生と定義して比較した。
体力は以下の6種類のテストで評価されていた。心肺持久力を6分間ランニング、敏捷性・協調性(coordination)をスターラインテスト(総距離51mの星形のルートをできるだけ速く走行する)を評価、そのほかに、20mスプリント、下肢筋力、上記筋力、および閉眼片足立ちテストを行った。
keyage学童では、四つの指標に対して負の影響が観察される
2016~22年の7年間、各年の体力テスト成績をzスコアとしてプロットすると、以下のように6種類の評価項目のうち4種類ではパンデミック中に有意な低下が認められた。
心肺持久力、敏捷性・協調性、20mスプリント、上肢筋力
心肺持久力、敏捷性・協調性、上肢筋力という3種類は、2020~2022年の3年間すべて、zスコアが有意なマイナスとなり、パンデミックの影響が3年間続いていて、キャッチアップもできていなかった。20mスプリントについては、2020年はパンデミック前と有意な変化がなかったが、2021~22年は有意に低値だった。
下肢筋力、閉眼片足立ち
一方、閉眼片足立ちは、2020~22の3年間いずれもパンデミック前よりも有意に高値となっていた。下肢筋力は2020年のZスコアが有意なプラスを示したが、2021~22年はパンデミック前と有意差がなかった。
パンデミック中のほうがむしろ成績が向上していたというこの結果について、論文に考察として述べられているところによると、体力テストで評価された項目の多くは屋外での運動によって発達が促されるが、閉眼片足立ちで評価されるバランス力などは、屋内で可能な運動でも発達することから、パンデミック中に屋内で行われた身体活動がこの結果に影響を及ぼした可能性があるとのことだ。
持久力は5カ月の発達遅延、バランス力は7カ月の発達促進
次に、パンデミック前の4年間で観察された学童の体力の経年的な変化を勘案したうえで、パンデミック中にどの程度の影響が生じていたかが推計された。その結果。負の影響は持久力に対して最も強く現れており、5カ月分に相当する発達の遅延が認められた。また、敏捷性・協調性は3カ月、上肢筋力は2カ月、20mスプリントについては1カ月分に相当する発達が遅延していた。
反対に、閉眼片足立ちで評価されたバランス能力は7カ月分に相当する発達の促進が観察され、下肢筋力は1カ月分の促進が観察された。
OTK学童での評価結果
通常よりも進級が遅かった学童(OTK)に特有の、パンデミックの負の影響も観察された。すなわち、keyage学童では正の影響が観察されていたバランス能力(閉眼片足立ち)に対してもマイナスに働いていた。
2022年時点でも低下が持続していた評価指標に対する介入が必要
以上の結果も含めて、論文にキーポイントとしてまとめられている内容を抜粋すると、以下のようになる。
- パンデミック中のコホートでは、パンデミック以前のコホートと比較して、小学3年生の心肺持久力、敏捷性・協調性、スピード、上肢の筋力が低下していた。下肢筋力と静的バランスは、パンデミック中のコホートのほうが優れていた。
- パンデミックによる子どもの体力への影響は、全体的に大きなものではないものの、心肺持久力で約5カ月、敏捷性・協調性は3カ月、上肢筋力は2カ月、20mスプリントは1カ月に相当する発達遅延が認められた。下肢筋力は1カ月、静的バランスは7カ月の発達促進が認められた。ただし、これらの結果は部分的に、経年的な変化の影響によって説明可能。
- 進級が遅かった子どもたちは、パンデミック前の段階で既に、年齢に対して体力が低下している状態にあり、パンデミックの数年の間に体力の低下幅がより増加していた。
論文の結論には、「パンデミックの影響は2022年時点でも認められた。とくに、心肺持久力、敏捷性・協調性、スピードをターゲットとしたキャッチアップのための介入が必要と考えられる」。
文献情報
原題のタイトルは、「Covid Pandemic Effects on the Physical Fitness of Primary School Children: Results of the German EMOTIKON Project」。〔Sports Med Open. 2023 Aug 14;9(1):77〕
原文はこちら(Springer Nature)