RED-S(スポーツにおける相対的なエネルギー不足)既往のある女性は、早産リスクが有意に高い
RED-Sによる妊娠転帰への影響を調査した結果が報告された。RED-S既往のある女性は切迫早産や早産のオッズ比が有意に高いことが示されている。
RED-Sの既往は、妊娠中の健康状態や妊娠転帰とどのような関連があるか?
スポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;RED-S)は、さまざまな健康障害を来し得る。RED-Sの主要な原因は利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)であり、RED-Sの予防や治療には摂取エネルギー量を増やし、トレーニング等による消費エネルギー量を抑制する必要がある。そのような治療によってエネルギー出納が正の状態を維持することで、RED-Sの症状の改善が期待されるが、女性アスリートの場合、RED-Sによる二次性無月経が治療またはスポーツからの引退後にも回復せず、妊孕性(にんようせい)が永続的に失われることもある。
ただ、妊娠が成立した後の転帰に、RED-Sの既往がどのような影響を及ぼすのかという点は、まだ十分明らかになっていない。これを背景として、今回紹介する論文の著者らは、RED-Sや二次性無月経の既往と妊娠転帰、新生児転帰との関連を、ソーシャルメディア等を用いたアンケート調査により検討した。
千人超の女性を対象にネットアンケート調査
この研究は、英国とカナダの研究者によって行われた。Instagramなどのソーシャルメディアや口コミ、研究者の個人的なネットワークを通じ、オンラインアンケートに1,075人が回答した。回答のための適格条件は、18歳以上で1回以上の出産歴があることとされた。
アンケートの内容は、英国・カナダのスポーツ医学専門家、運動生理学者などによって、妊娠前の健康状態や妊娠転帰および新生児転帰を網羅的に問う設問が設定された。標準的な回答時間は15~20分だった。なお、RED-Sおよび続発性無月経の有無については、それぞれ、過去にその診断を受けたことがあるかとの質問で判断した。
RED-Sの既往ありでは早産が有意に多く新生児の体重が有意に軽い
回答内容に不備があるものを除外し、1,025人(95.3%)を解析対象とした。33カ国から回答が寄せられ、英国(44.1%)、カナダ(20.1%)、米国(17.9%)が多くを占めていた。出産年齢は33.10±3.43歳であり、流産歴のある女性は30.2%だった。
全体の6.1%(63人)がRED-Sの既往があり、20.5%(210人)が続発性無月経の既往を有していた。それらの既往のない女性は73.4%(752人)だった。なお、1.6%が双胎妊娠、0.8%が前置胎盤だった。
妊娠中の健康状態
妊娠中にみられたトラブルとして最も回答が多かったのは腰痛・骨盤帯痛であり、36.8%が経験していた。そのほかには腹直筋離開が19.9%、不安が14.8%、鉄欠乏14.5%、腹圧性尿失禁10.5%などであり、代謝関連では、妊娠糖尿病が4.8%、妊娠高血圧腎症(preeclampsia)3.0%、妊娠高血圧(gestational hypertension)2.6%などが報告された。
これらの頻度に、RED-Sおよび続発性無月経の既往の有無で、有意差はみられなかった。
切迫早産・早産の割合
切迫早産は4.0%が経験していた。RED-Sの既往のある女性では7.9%が経験し、その一方、続発性無月経の既往のある女性でのその割合は2.3%であって、続発性無月経の既往のない女性と同じ割合だった。
早産(37週未満での出産)は6.2%が経験していた。RED-Sの既往のある女性では9.5%が経験し、その一方、続発性無月経の既往のある女性でのその割合は3.9%であって、続発性無月経の既往のない女性と同じ割合だった。
なお、分娩様式については、経腟分娩が73.2%、帝王切開が26.8%(選択的帝王切開12.1%、緊急帝王切開12.2%)であり、いずれもRED-Sや続発性無月経の既往の有無で有意差はなかった。
新生児の状態
新生児の出生体重は3,440.67±561.65gで、低出生体重児が4.1%、巨大児が13.8%、NICU入室が7.7%であった。
出生体重に関しては、RED-Sの既往あり群では3,237.082±599.69gであり、他の2群の新生児よりも軽いという有意差が認められた(p=0.002)。
RED-Sは早産、続発性無月経は妊娠時の貧血と有意な関連
ロジスティック回帰分析の結果、RED-Sの既往があることは、切迫早産(OR3.52〈1.26~9.81〉)、早産(OR2.62〈1.05~6.58〉)が多いことと有意に関連していた。また、妊娠中の不正出血(全体で4.2%、RED-S既往ありで9.5%)は、RED-S既往あり群で有意に多かった(OR3.06〈1.21~7.77〉)。
一方、続発性無月経の既往があることは、妊娠中の貧血が多いことと有意に関連していた(OR2.40〈1.37~4.18〉)。
そのほかの妊娠転帰および新生児転帰は、RED-Sや続発性無月経の既往の有無と有意な関連がなかった。なお、妊娠糖尿病や妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧に関してはイベント数が少なく、有意差の検定には検出力が不足していた。
臨床医と妊婦は、RED-Sの既往により早産リスクが上昇する可能性の認識を
著者らは、RED-Sの認知度が近年になるまで臨床医の間でも高いとは言えない状況にあったため、見逃されていた元アスリートが回答者の中に存在している可能性のあること、および想起バイアスの影響といった、本研究の限界点を挙げている。そのうえで、「得られた結果は、RED-Sの既往が早産および妊娠中の不正出血のリスクを高めることを示唆している。臨床医および妊婦は、RED-Sの既往がある場合、切迫早産や早産のリスクが高まる可能性があることを認識し、それに応じたモニタリングと判断を行う必要がある」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「The lasting impacts of relative energy deficiency in sport imposed on pregnancy health outcomes: A survey-based investigation」。〔J Sport Health Sci. 2025 Jun 27:101072〕
原文はこちら(Elsevier)