ベジタリアン食で筋力が低下することはない? ランダム化比較試験のメタ解析の結果
古くから健康的な食事スタイルとして位置付けられているベジタリアン食は、近年ではアスリートの間でも関心が高まっている。しかし、アスリートは通常、筋肉量や筋力が高いほうが有利であり、ベジタリアン食はその点で不利なのではないかという懸念が付きまとう。この懸念に対する答を、過去の研究のデータを統合して検討する、システマティックレビューとメタ解析によって探った研究結果が報告された。
ベジタリアンアスリートは有利なのか不利なのか?
ベジタリアンアスリートは非ベジタリアン(雑食)のアスリートよりも炭水化物の摂取量が多い傾向のあることが報告されている。炭水化物は高強度運動時の主要なエネルギー源であり、その点ではパフォーマンス上有利に働く可能性がある。また、植物性食品には抗酸化作用・抗炎症作用を有する物質が多く含まれており、スポーツに伴う酸化ストレスや炎症の軽減に資する可能性もある。
反対に、植物性食品は鉄が少ないこと、そしてタンパク質が少ないことが、アスリートにとって問題となる可能性がある。鉄の摂取量が少ないことは貧血傾向を介して持久力パフォーマンスに負の影響を及ぼし、タンパク質の摂取量が少ないことは筋量や筋力の維持・向上に不利と言える。また植物性食品のタンパク質はアミノ酸スコアが低く、筋肉の合成刺激となる必須アミノ酸のロイシンも少ないという点も、より負の影響を強める可能性がある。
植物性食品中心の食事(PBD)が筋力に及ぼす影響を検討したRCTを抽出してメタ解析
これまで、植物性食品中心の食事スタイル(plant-based diets;PBD)と筋力の関連については複数の研究が行われてきており、それらの研究を対象としたメタ解析も行われている。ただし、筋力トレーニングとPBDを並行した場合に、PBDがトレーニング効果を減弱させてしまうのかという疑問に対する答はまだ得られていない。そのような視点で行われたメタ解析の報告も既に存在するが、解析対象に観察研究や複数の介入条件が設定された多群比較研究のデータが含まれていて、PBDの影響のみの解釈が妨げられている。
これを背景に今回紹介する論文の著者らは、PBDの筋力に及ぼす影響を無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)で検討した研究のみを抽出したうえで、メタ解析を行った。
8件のRCTを特定し解析
システマティックレビューとメタ解析に関するガイドライン(PRISMA)に準拠して、MEDLINE、コクランライブラリ、Web of Science、Scopusという4種類の文献データベースに、それぞれの開始から2024年9月2日までに収載された論文を対象として、上半身の筋力、下半身の筋力、または全身の筋力に対するPBDの影響を検討した研究報告を検索。ヒットした8,079報から重複削除後の6,669報を2名の研究者が独立して、タイトルと要約に基づきスクリーニングを実施し19報に絞り込み、全文精査により8件の研究の報告を適格と判断した。なお、抽出された論文の参考文献をハンドサーチで検索したが、その中に包括条件を満たすものはなかった。
抽出された8件の研究は2003~23年の間に、米国から4件、英国、カナダ、ポーランド、韓国から各1件が報告され、試験デザインは1件のクロスオーバー試験を除き並行群間比較試験だった。研究参加者数は11~42人の範囲で合計188人(女性46%)であり、平均年齢は20~65歳だった。8件中3件はアスリート対象研究、1件はクロスフィットによる筋力トレーニングを行っている人を対象とし、他の4件は習慣的な運動を行っていない人を対象としていた。
介入に用いた食事スタイルは、5件がベジタリアン食、3件はビーガン食であり、摂取エネルギー量に関しては、5件は標準的な量を設定、1件は高ボリュームとなるように設定し、2件は自由摂食としていた。
運動介入は6件が筋力トレーニングで、1件が高強度機能トレーニング、他の1件は複合トレーニングだった。
介入期間は10日から12週間であり、8件すべてが下半身の筋力と全身の筋力への影響を検討し、上半身の筋力への影響を検討した研究は7件だった。
植物性食品中心の食事(PBD)は筋トレ効果に影響を及ぼさない
メタ解析の結果、上半身の筋力については標準化平均差(standardized mean difference;SMD)が-0.12(95%CI;-0.50~0.27)、上半身の筋力についてはSMD0.18(-0.31~0.67)、全身の筋力についてはSMD0.21(-0.16~0.58)であり、いずれも、植物性食品中心の食事(PBD)にしたことによる筋力への有意な影響は観察されなかった。
感度分析として、8件の研究のデータを1件ずつ除外した解析を行ったが、いずれも主解析の結果と統計的に有意な変化は生じなかった。また、メタ回帰分析から、研究参加者の平均年齢、介入期間、タンパク質摂取量、および介入に用いた運動の種類は、いずれも主解析の結果に有意な影響を与えていないことが示された。
論文の結論は、「動物性食品の摂取制限がスポーツパフォーマンスを低下させるかどうかについて議論が続いているものの、本メタ解析の結果は、ビーガン食を含むPBDが筋力に悪影響を与えないことを示す説得力のあるエビデンスを示している」と総括されている。ただ、このトピックに関する今後の研究の方向性として、エネルギー需要が高いエリートアスリートでの研究や性差の考察などの必要性も指摘している。
文献情報
原題のタイトルは、「Are Plant-Based Diets Detrimental to Muscular Strength? A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials」。〔Sports Med Open. 2025 Jun 2;11(1):62〕
原文はこちら(Springer Nature)