下肢切断パラアスリートの栄養はどう考える? 脊髄損傷アスリートとの比較研究が示す個別化の重要性
脊髄損傷または下肢切断後のパラアスリートの栄養戦略を比較検討した論文を紹介する。どちらのパラアスリートも個別化された戦略が重要ではあるが、全体としては、エネルギーの摂取量と消費量、心肺運動負荷検査(CPET)の反応は類似しているという。イタリアからの報告。

脊髄損傷アスリートに比べ下肢切断アスリートの栄養は不明点が多く残されている
脊髄損傷と下肢切断はいずれも下半身に障害が生じ、その障害が永続的と診断されたアスリートはパラアスリートとして活動可能。パラアスリートには健常者アスリートとは異なる栄養戦略が必要とされ、まだエビデンスは少ないながらも、脊髄損傷によるパラアスリートの栄養戦略に関する知見は比較的充実しつつある。それに対して下肢切断によるパラアスリートの栄養戦略に関する知見は少ない。
例えば脊髄損傷によるパラアスリートでは、VO2maxが健常者アスリートより低いこと、グリコーゲン貯蔵量が少ない可能性のあることなどが報告されているが、下肢切断によるパラアスリートにもそのような変化や傾向が認められるのかは十分検討されていない。今回取り上げる論文の著者らは、このギャップを埋めるために以下の検討を行った。
下肢切断パラ選手の栄養戦略は脊損パラ選手に適用される戦略をベースに個別化すべき
この研究では、イタリアで2022年の5月と9月に実施されたトレーニングキャンプへの参加者から被験者を募集した。39人(脊髄損傷19人、下肢切断20人)のパラアスリートが適格条件を満たし、そのうち25人(同順に13人、12人)が研究参加に同意した。なお、研究参加者全員で、2022年の同国ベテラン全国大会において、6競技、20個のメダルを獲得した。
調査項目は、自記式質問票によるものとして、アスリート向けアレルギー質問票(allergy questionnaire for athletes;AQUA)、北欧筋骨格質問票(Nordic Musculoskeletal Questionnaire;NMQ)、飢餓症状質問票(Starvation Symptom Inventory;SSI)、アルコール使用障害同定テスト(alcohol use disorders identification test;AUDIT)、地中海食遵守度(Mediterranean diet adherence;MDS)を用い、また、神経性腸機能障害(neurogenic bowel dysfunction;NBD)、および、摂食障害傾向を表すと考えられているオルトレキシア(score for orthorexia;ORTO-15/ORTO-7)の程度を評価した。
測定項目としては、食事性酸素ラジカル吸収能(oxygen radical absorbance capacity;ORAC)、エネルギー摂取量、基礎エネルギー消費量(basal energy expenditure;BEE)、体組成、握力、最大酸素摂取量(VO2peak)、最大パワー、最大心拍数、運動後のケトーシス、心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise test;CPET)後の抗酸化反応などを含めた。
研究参加者の特徴と両群の比較
研究参加者のうち、脊髄損傷のパラアスリートは全員、下肢切断のパラアスリートは23%が車椅子を使用していた。その他の主な特徴は以下のとおり。いずれも、脊髄損傷群、下肢切断群の順。
年齢45.2±3.4、45.2±3.0歳、障害発生からの経過14.7±3.3、15.7±3.3年、競技歴8.0±1.6、8.2±1.7年、トレーニング時間5.9±0.8、5.5±0.7時間/週、睡眠時間は中央値8.0(四分位範囲7.2~8.0)、同7.0(6.0~8.0)時間。
行っている競技は、脊髄損傷群が陸上、アーチェリー、ハンドバイク、車椅子バレーボール、水泳、パワーサッカー。下肢切断群が陸上、バスケットボール、自転車、車椅子バレーボール、水泳、車椅子テニス。
上記の他、アスリート向けアレルギー質問票(AQUA)や飢餓症状質問票(SSI)のスコアなどは両群間に有意差がなかった。ただし、神経性腸機能障害(NBD)のスコアは、下肢切断群は中央値0.0(四分位範囲0.0~0.0)点であるのに対して、脊髄損傷群は同8.0(4.5~11.7)点であり有意に高かった。
体重、BMI、ウエスト周囲長に有意差はなく、体脂肪率(脊髄損傷群、下肢切断群の順に28.8±2.8、25.3±2.5%)、握力(33.8±4.6、42.3±2.9kg)についてはやや差がみられたが統計学的には非有意だった。そのほか、エネルギー摂取量、基礎エネルギー消費量、主要/微量栄養素摂取量には有意差がなかった。
位相角とオルトレキシアの評価指標に有意差
体組成関連のパラメーターの中では唯一、利き足の位相角(PhA)に有意差が認められ、脊髄損傷群は3.9±0.4°と下肢切断群の6.7±0.6より低値だった。なお、PhAの低さは栄養状態や細胞機能などが最適でない可能性を示唆している。
また、摂食障害傾向を表すとされるオルトレキシアの評価指標であるORTO15にも有意差が認められ、同順に34.3±1.0、37.8±0.9であった。ORTO15のスコアの低さはオルトレキシアリスクの高さを表すとされており、脊髄損傷群のほうがそのリスクが高い可能性が示唆された。
CPET後の抗酸化反応、グルコース、ケトン体レベルには有意差がなかった。
著者らはこれらの結果を総括して、「本研究により、脊髄損傷パラアスリートと下肢切断パラアスリートは、ライフスタイル、エネルギー摂取量、基礎エネルギー消費量、CPETに対する代謝反応に関して同様の特徴が示された。両群の類似性を考慮すると、下肢切断パラアスリートの栄養戦略は健常者アスリートの典型的な栄養戦略に基づくものではなく、脊髄損傷パラアスリートの戦略を利用し、個別化したアドバイスが必要と考えられる」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「A Comparative Study of Paralympic Veterans with Either a Spinal Cord Injury or an Amputation: Implications for Personalized Nutritional Advice」。〔J Funct Morphol Kinesiol. 2025 Aug 6;10(3):305〕
原文はこちら(MDPI)







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