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認知症の約4割は生活習慣で予防可能 難聴・運動不足など14項目改善で20万人以上の発症を抑制 東海大学

日本の公的統計や疫学データを用いた解析により、国内の認知症の38.9%が生活習慣や健康状態の改善によって、理論的には予防可能であることが明らかにされた。東海大学などの国際共同研究の成果であり、「PLOS One」に論文が掲載された。認知症発症に関与する主要な危険因子は難聴(6.7%)や運動不足(6.0%)、高LDLコレステロール血症(4.5%)であり、これらを含む14種類の因子を一律に10%低減させると、将来的に20万人以上の認知症発症を抑制できる可能性があるという。

認知症の約4割は生活習慣で予防可能 難聴・運動不足など14項目改善で20万人以上の発症を抑制 東海大学

研究の背景:急増する認知症には予防が重要

認知症は世界的に急増している深刻な公衆衛生課題。認知症に伴う世界の経済的負担は、2019年時点で約1.3兆米ドルと推計されており、2030年には1.7兆米ドル、介護費用を含めると最大2.8兆米ドルにまで増加すると予測されている。

日本は世界で最も平均寿命が長く、急速に高齢化が進む「超高齢社会」。65歳以上人口の割合は、2010年には21%を超え、2024年には29.3%に達した。さらに2045年には、3人に1人以上が65歳以上になると見込まれている。加齢は認知症の最大の危険因子であることから、日本は世界でもとくに認知症の影響を受けやすい国の一つと言える。

厚生労働省の推計によると、2022年時点で65歳以上の約12.3%が認知症、約15.5%が軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)とされている。認知症患者数は約443万人、MCIを含めると約1,000万人にのぼり、2050年には認知症が約587万人(高齢者の15.1%)、MCIが約631万人(同16.2%)に達すると予測されている。

近年、アミロイドβを標的とした抗体医薬など、新たな治療法が登場しているが、その効果や高額な医療費や適応条件の厳しさなどから、実臨床での普及には課題が残っている。このため、「治療」だけでなく、発症そのものを遅らせる、あるいは防ぐ「予防」の重要性が増している。

こうした流れのなかで、権威ある医学誌「The Lancet」の認知症委員会(The Lancet Commission on dementia)は、生活習慣や環境要因などの介入可能な危険因子への対策により、世界全体で認知症の約45%が予防可能であると報告している。しかし、これらの推計はおもに欧米を中心とした国際データに基づくものであり、日本の社会構造や健康特性を十分に反映しているとは言えない。

そこで本研究では、国内の公的統計や疫学研究データを用いて、日本における認知症予防の潜在的可能性を定量的に評価した。これは、今後増加が確実視される認知症に対し、どの危険因子に、どの程度、優先的に介入すべきかを示す科学的根拠を提供することを目的としている。

研究の方法:14項目の修正可能な認知症危険因子の影響の程度を日本のデータで検証

本研究では、2024年のランセット認知症委員会の報告において、科学的根拠に基づき特定された以下の14の修正可能な認知症危険因子を対象に解析を行った。

修正可能な認知症危険因子

  1. 教育歴の低さ
  2. 難聴
  3. 高LDLコレステロール(LDL-C)血症
  4. うつ
  5. 外傷性脳損傷
  6. 運動不足
  7. 喫煙
  8. 糖尿病
  9. 高血圧
  10. 肥満
  11. 過剰な飲酒
  12. 社会的孤立
  13. 大気汚染への曝露
  14. 視力低下

これらの因子について、日本の国民健康・栄養調査、政府統計、疫学研究、環境データなど、信頼性の高い国内データを用いて、それぞれの有病率(該当者の割合)を推定した。さらに、集団寄与危険割合(PAF)※1および潜在的影響割合(PIF)※2を算出し、日本における認知症予防の潜在的規模を定量的に評価した。

※1 集団寄与危険割合(population attributable fraction;PAF):「もし特定の危険因子が存在しなかったと仮定した場合、全体の認知症のうち、どの程度が防げた可能性があるか」を示す指標。例えば、PAFが10%であれば、「理論的には、その因子がなければ認知症の10%は起こらなかった可能性がある」ことを意味する。本研究では、14因子それぞれのPAFを算出し、さらに因子同士の重なりを考慮したうえで、全体としてどの程度の認知症が予防可能かを評価した。
※2 潜在的影響割合(potential impact fraction;PIF):「危険因子を完全になくすのではなく、例えば10%や20%といった現実的な範囲で減らした場合に、どの程度の認知症が減少する可能性があるか」を示す指標。PAFが「理論上の最大限の予防可能性」を示すのに対し、PIFは実際の政策や介入によって達成し得る効果を見積もるための指標。本研究では、14の危険因子をそれぞれ10%または20%低減した場合に、将来的にどれだけの認知症患者数を減らせる可能性があるかを推定した。

主な結果:14因子すべてを考慮した場合、認知症の38.9%が予防可能

各危険因子のPAFについて

14因子すべてを考慮した場合、認知症の38.9%が予防可能であることが示された。とくに影響が大きい危険因子は、難聴(6.7%)、運動不足(6.0%)、高LDL-C血症(4.5%)だった。

各危険因子のPIFについて

危険因子を一律に10%低減した場合、将来的に約20.8万人の認知症を予防可能で、一律に20%低減した場合、将来的に約40.8万人の認知症を予防可能と推計された。

図1 国内データを用いて算出した認知症発症に関連する14の危険因子の寄与割合

国内データを用いて算出した認知症発症に関連する14の危険因子の寄与割合

各因子の青年期、壮年期、老年期という分類は、その時期に限定されるリスクであることを示すのではなく、「その時期以降」のリスクであることを示す。例えば最も大きな寄与度を示す難聴については、「55歳以上」と規定されていることから、壮年期に限らず老年期においても対策を行うことが重要。
(出典:東海大学)

本研究の意義:修正可能な危険因子に対する優先的な対策の立案へ

本研究は、駐日デンマーク大使館ならびにヘルスケアデンマークの連携支援のもとで実施された日本とデンマークの学術連携による認知症研究の成果。日本の実情に即したデータを用いて、どの危険因子に優先的に介入すべきかを定量的に示した点に大きな意義がある。とくに、難聴や運動不足など、適切な対策によって改善可能な要因が、認知症予防に大きく寄与することが明らかになった。

本成果は、2024年に施行された認知症基本法や、今後の認知症施策の具体化に向けた科学的根拠として活用されることが期待される。

関連情報

日本における認知症予防の可能性-認知症の約4割は「予防」可能- ~主要因子は「難聴」、次いで「運動不足」。危険因子10%の低減で20万人の発症抑制へ~(東海大学)

文献情報

原題のタイトルは、「The potential for dementia prevention in Japan: a population attributable fraction calculation for 14 modifiable risk factors and estimates of the impact of risk factor reductions」。〔Lancet Reg Health West Pac. 2026 Jan 11:66:101792〕
原文はこちら(Elsevier)

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