摂食症の便秘にマグネシウムは安全? 高マグネシウム血症リスク因子の検討とeGFRcr偽高値対策の提案
日本人摂食症(摂食障害)患者の2割に高マグネシウム血症が見られることや、若年、BMI低値、腎機能低下が高マグネシウム血症のリスクと関連していることが報告された。名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学講座・精神医学講座および池下やすらぎクリニック(名古屋市)の上松万里子氏、国立病院機構東尾張病院の田中聡氏らの研究の結果であり、「Eating and weight disorders」に論文が掲載された。摂食症患者は低体重であることが多いため、腎機能の評価には一般的な血清クレアチニンに基づく推算ではなく、体表面積を加味した計算式、または古典的なCockcroft-Gault式のほうが適していることも示唆されている。

摂食症患者へのマグネシウム製剤投与の安全性を検証する必要性
摂食症は若年女性での罹患率が高く、極端な食事制限、自己誘発嘔吐、過剰な身体活動などによって低栄養を来し、種々の身体的機能低下を起こすことがある。腎機能障害も摂食症患者に多い併発疾患の一つであり、これには摂取量が少ないことによる脱水の関与や、嘔吐または利尿薬・緩下薬の不適切な使用により生じる低カリウム血症の影響が考えられる。
また、摂食症は便秘を伴いやすい。便秘に対して国内では酸化マグネシウム製剤(magnesium oxide;MgO)が広く用いられており、摂食症患者にも頻用されている。MgOは安全性の高い薬剤ではあるものの、長期間の連用によって高マグネシウム血症(高Mg血症)を来すことがあり、とくに高齢者などに対する処方に関しては、厚生労働省から注意喚起が行われている。摂食症に伴う便秘も慢性的な経過をとりやすいため、MgOが連用されて高齢患者と同様に高Mg血症のリスクが高まる可能性があるが、その実態は明らかにされていない。
さらに、摂食症患者は筋肉量の少ない低体重者が多い。そのため、腎機能の評価法として一般的に用いられている血清クレアチニン(Cr)値に基づく推算糸球体濾過量(eGFRcr)は、Cr値が筋肉量の多寡の影響を受けることから偽高値となりやすい。よって、腎機能障害が生じていても、eGFRcrではその検出が遅れる可能性が考えられるが、この点も十分検討されていない。
以上を背景として上松氏らは、摂食症患者における高Mg血症の頻度、MgO処方との関連、高Mg血症のリスク因子、および摂食症患者のeGFRcrの信頼性を評価するとともに、より信頼性の高いeGFR推算方法の探索を行った。
名大病院の摂食症患者データを後方視的に解析
この研究は、2018~22年に名古屋大学医学部附属病院で入院・外来治療を受けた、女性摂食症患者の医療記録を用いた後方視的コホート研究として行われた。摂食症の診断は、米国精神医学会の精神疾患の診断分類第5版改訂版(DSM-5-TR)に基づいて行い、DSM-5-TRが刊行される2022年以前の症例については再評価した。透析導入患者とデータ欠落のある患者を除外し、194人(延べ3,828回の医療記録)を解析対象とした。
高Mg血症は同院の基準値(1.8~2.4mg/dL)に基づき2.5mg/dL以上と定義し、腎機能障害はeGFR 60mL/分/1.73m2未満と定義した。また、DSM-5-TRに基づきBMI 15未満を最重度の低体重と分類し、サブグループ解析を行った。
摂食症患者の2割強に高Mg血症を認め、Mg製剤処方量はリスクに関連していない
患者ごとに入手可能な最初の記録から追跡を開始し、最後の記録もしくは解析対象期間終了まで追跡。その結果、194人のうち70人(36.1%)に酸化マグネシウム製剤(MgO)が処方され、高Mg血症は42人(21.6%)に認められた。高Mg血症を呈していた患者のうち20人(47.6%)に、MgOが処方されていた。
赤池情報量基準に基づく最適モデル(ランダム切片・ランダム傾きモデル)での検討により、高Mg血症に関連のある因子として、若年(β=-0.0044〈95%CI;-0.0067~-0.0020〉)、BMI低値(β=-0.014〈-0.021~-0.0063〉)、eGFRcr低値(β=-0.0038〈-0.0047~-0.0027〉)という3項目が特定された。MgOの処方は、その用量(750mg/日未満または以上)にかかわらず関連が非有意だった。
BMI 15未満のサブグループ(153人、78.9%)での解析結果も同様に、若年、BMI低値、eGFRcr低値の3項目が高Mg血症に関連し、MgOの処方量は関連がなかった。
摂食症患者において、BMIが低いほどeGFRcrは高い
eGFRcr 60未満/以上、BMI 15未満/以上で血清Mgを比較すると、いずれも低値群において血清Mgが高いという有意差が観察された。
次に、BMIとeGFRcrとの関連を検討すると、両者の間に弱いながらも有意な負の相関が認められた(r=-0.095、p<0.001)。つまり、より痩せている摂食症患者では、腎機能が高く見積もられることがわかった。
体表面積の補正またはCockcroft-Gault式が、摂食症患者の腎機能評価に適する可能性
前記のように、本研究から腎機能低下が摂食症患者の高Mg血症のリスク因子の一つである可能性が示唆された。よって臨床では腎機能のより正確な評価が求められるが、それにもかかわらず摂食症患者では、eGFRcrは腎機能を高く見積もることも示唆された。
そこで、eGFRcrを体表面積で補正した場合、古くから腎機能の推算に使われていて計算式に体重が含まれているCockcroft-Gault式を用いた場合、および、クレアチニンを含まない5項目の変数(アルブミンやBUNなど)を用いた場合という3種類の推算方法について、信頼性の評価を行った。
その結果、腎機能障害と判定される割合は、eGFRcrでは17.5%であるのに対して、体表面積で補正した場合は42.9%、およびCockcroft-Gault式では38.2%と高く、5項目の変数での推算では17.7%であった。つまり、eGFRcrよりも体表面積で補正した場合やCockcroft-Gault式のほうが、腎機能障害の検出力が高い可能性が考えられた。
続いて、血清Mg値を横軸(2.5mg/dLで左右に分割)、各推算式で求められた腎機能を縦軸(カットオフ値で上下に分割)にとり、4象限に全ての検査データをプロットして、分布を比較するという検討を行った。すると、臨床において最も慎重な対応が必要とされる第4象限(腎機能障害かつ高Mg血症を意味する右下の象限)に該当する割合は、eGFRcrでは4.1%であるのに対して、体表面積で補正した場合は5.2%、Cockcroft-Gault式では5.1%、5項目の変数での推算では4.3%であった。
血清Mg値や腎機能のモニタリングは必要だが、MgO処方を控える必要性は低い
著者らは本研究の限界点として、後方視的解析であること、対象が女性患者のみであること、腎機能をすべて代理マーカーにより評価しており、イヌリンクリアランスを測定していないことなどを挙げている。そのうえで、示された結果を総括し、「(1)国内の摂食症患者における高Mg血症の頻度は20%を超えていて、(2)若年、BMI低値、腎機能低下という三つの因子が高Mg血症と有意に関連している――という二つの重要な知見を得られた」と結論づけている。
また、高Mg血症の認められた患者群においても重篤な所見は記録されておらず、MgO処方と高Mg血症との関連が非有意であったことから、「慎重なモニタリングは必要ではあるものの、摂食症患者に対するMgO処方を控える必要性は高くないのではないか」との考察も付け加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Risk of hypermagnesemia in patients with eating disorders taking magnesium oxide preparations: a retrospective study」。〔Eat Weight Disord. 2025 Nov 19;30(1):88〕
原文はこちら(Springer Nature)







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