マラソン後に低下することのある睡眠の質をプロバイオティクスが改善する プラセボ対照RCT
マラソンのような長時間の高強度運動の後にはしばしば睡眠の質が低下するが、プロバイオティクスによってそれを抑制できる可能性を示すデータが報告された。プラセボ対照RCTで自己申告による睡眠の質に有意差が認められたという。著者らは、運動負荷によって生じる腸管バリア機能の低下に伴う炎症や神経内分泌経路の活性化を、プロバイオティクスが抑制したのではないかと考察している。ブラジルにおける研究。

トレーニングを日課としているマラソンランナー対象のRCTによる検討
長時間の高強度運動では、筋肉への血流が増加するために腸管への血流は相対的に低下し、それに熱ストレスが加わることなどで腸管のバリア機能が低下して、腸内細菌の細胞成分であるリポ多糖(lipopolysaccharide;LPS)が血中に侵入することによって、炎症や神経内分泌経路の活性化が生じることが示唆されている。それらの変化が、睡眠の質に影響を及ぼす可能性があるとの指摘もある。実際、マラソンを走り終えた後に、睡眠の質が低下しやすいことが報告されている。
近年、腸内細菌叢の組成と全身の身体的・精神的健康との間にさまざまな関連のあることが明らかにされてきており、プロバイオティクス等により腸内細菌叢へ働きかけることを、疾患の治療や予防に生かす試みがなされ、有効とする報告もある。ただし、運動後の睡眠に対する有用性のエビデンスはこれまで報告されていない。
これらを背景として、今回紹介する論文の研究では、日常的にマラソンのトレーニングを行っているランナーに対して、プラセボ摂取を対照とする無作為化二重盲検試験(randomized controlled trial;RCT)を実施した。
介入方法について
研究参加者は、マラソン参加の経験があり週に5日以上トレーニングを行っていて、精神的・身体的な疾患がなく、習慣的飲酒者および喫煙者でない男性ランナーを適格条件として募集された。事前の統計学的検討から、この検討に必要なサンプルサイズは各群10人と計算され、脱落等を予測し各群14人を目標として募集した。
無作為にプロバイオティクス群とプラセボ群の2群に分け、マラソン大会の30日前から介入を開始した。プロバイオティクス群には乳酸菌とビフィズス菌(Lactobacillus acidophilus、Bifidobacterium lactisをいずれも1×1010コロニー形成単位〈colony forming unit;CFU〉)とマルトデキストリン(5g)を含む粉末、プラセボ群にマルトデキストリン(5g)を含む粉末を支給し、30日間にわたり朝夕の2回、50mLの水に溶解して摂取してもらった。支給した粉末は、色や形、匂い、量、味などでは区別できない状態とし、対象者の割り付けは介入の結果を判定する研究者にも知らせない二重盲検法をとった。
30日間の介入期間中、トレーニングとして両群ともに週あたり50kmの走行を課した。
評価項目について
睡眠の質をピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh sleep quality index;PSQI)、日中の眠気をエプワース眠気尺度(Epworth sleepiness Scale;ESS)、および炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNFα)、リポ多糖(lipopolysaccharide;LPS)で評価した。また、食物摂取頻度調査票(ELSA-BRAZIL food frequency questionnaire)、および3日間の食事記録により、栄養素等の摂取状況を把握した。
採血検査は、介入前、介入後(介入開始から30日後でマラソン参加の前日)、マラソン参加の60分後、同24時間後の4時点で行い、睡眠関連指標の評価と食事関連の調査は、介入前とマラソン24時間後に行った。
プロバイオティクス介入でマラソン参加による睡眠への悪影響が抑制される
介入中の消化器症状発現、マラソン当日の不参加、途中棄権などにより、解析対象は27人(プロバイオティクス群14人、プラセボ群13人)となった。この両群間に、年齢、身長、体重、日常の摂取エネルギー・栄養素量、マラソン走行中の補給量は、いずれも有意差がなかった。また、マラソン走行中の消化器症状は全体で61.9%から報告され、その内訳はプロバイオティクス群が23.8%、プラセボ群が38.1%であり、有意差がなかった。
プロバイオティクス群はマラソンによる睡眠への影響が軽微で、プラセボ群と有意差
睡眠関連指標についても、介入前には両群間に有意差がなかった。しかし、マラソン終了24時間後には、複数の指標に有意差が認められた。
例えば、プラセボ群では、日中の眠気と入眠潜時が有意に増大し、睡眠スコアの合計点が有意に上昇(睡眠の質の低下を意味する)しており、総睡眠時間と睡眠効率は有意に減少していた。それに対してプロバイオティクス群では、介入前からの有意な変化が少なく、プラセボ群との比較においても、日中の眠気、入眠潜時、睡眠スコアの合計点、総睡眠時間、睡眠効率について有意差があり、いずれもプロバイオティクス群の睡眠の質が良好であることが示された。
マラソン参加後のLPSはプロバイオティクス群のみ、介入前より有意に低下
炎症性サイトカインについては評価した3項目すべて、両群でほぼ同じように変化し、群間の有意差はなかった。リポ多糖(LPS)も同様の変化を示したが、プロバイオティクス群はマラソン参加後と24時間後の値がより低値であり、介入前の値との差が有意であった。
腸内細菌叢に働きかけることで持久系アスリートの睡眠を改善できる可能性
これらの結果の解釈として著者らは、食事調査の結果が両群に有意差がなく、介入前の睡眠の質にも有意差がなかったにもかかわらず、マラソン参加後の睡眠の質はプロバイオティクス群で良好だったことから、「睡眠の質に差が生じた理由は、プロバイオティクスによる介入によるものである可能性が高い」と記している。その一方、炎症性サイトカインは両群ともに同様に変化していた。この点については、炎症性サイトカインの日内変動が観察されたのではないかと推測している。
研究の限界点として、睡眠の質を主観的な評価手法のみで評価し、アクティグラフィーなどの客観的手法で把握していないこと、糞便検体を用いた解析を行っていないことなどを挙げたうえで、「プロバイオティクスを用いた腸内細菌叢の調整により、持久系アスリートの睡眠の質を改善できる可能性がある。この作用は、おそらくLPSの減少と炎症経路の抑制によるものではないか」と結論づけている。
文献情報
原題のタイトルは、「Probiotic Supplementation Can Alter Inflammation Parameters and Self-Reported Sleep After a Marathon: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study」。〔Nutrients. 2025 Nov 29;17(23):3762〕
原文はこちら(MDPI)







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