栄養知識だけでは食行動は変わらない? 健康的な食品、非健康的な食品を選択する心理・環境・社会要因
食事の摂り方が健康を大きく左右することは、ほとんどの人が頭で理解している。しかし、食事の摂り方は人によって大きく異なる。なにがそのような差を生むのだろうか? レビュー論文を対象とするシステマティックレビューによりこの疑問の答を探った研究結果を紹介する。健康的な食品の選択と非健康的な食品の選択に異なる要因が特定されるとともに、意外なことに、共通の要因も見いだされたようだ。

レビュー論文対象のシステマティックレビューによる検討
世界中で増加している肥満や2型糖尿病などの非感染性疾患(non-communicable diseases;NCD)、あるいはメンタルヘルス関連疾患のリスクに、修正可能なライフスタイルである食習慣が関与している。そのため、人々の食習慣を、健康にとってより好ましいものにするものとする介入のために、世界各国で膨大な努力が続けられている。それにもかかわらず、その効果は限定的であり、人々の食生活を変えることの困難さが示されてきている。人々はいったい、どのようにして食べるものを決めているのだろうか。
このような疑問に基づく研究はこれまでにも行われ報告されてきている。例えば、果物や野菜を選択するという行動を規定する要因は栄養と安全性であり、スナックを選択する行動は味が左右するとする報告がある。また、栄養に関する知識の多寡、性別や年齢による違いなどを報告した研究もある。ただし、それらはそれぞれ個別の要因を検討しており、食品選択の全体像を把握するには、多くの要因の類似点と相違点を検証することが必要になる。
今回紹介する論文の研究はこのような背景から、このトピックに関する既報レビュー論文を対象にシステマティックレビューを実施して、現在の知見を統合することを試みたもの。
文献検索の手法について
システマティックレビューとメタ解析のための優先報告項目(PRISMA)のガイダンスに準拠し、2022年10月にEmbase、MEDLINE、Scopusなどの文献データベースを用いた検索を実施。2024年3月に新たな報告を検索して追加した。
包括基準は、食事制限がなく摂取する食品を自身で選択可能な高所得国に居住する成人を対象とする、過去10年以内に英語で報告された研究とした。小児やアスリート対象の研究、低~中所得国での研究、カフェテリアなどの食品選択範囲が限られた環境での研究、食品選択の変更を意図した介入研究、2012年以前に報告された研究、英語以外の論文などは除外した。
一次検索で4,887報がヒットし、重複削除後の2,265報を2名の研究者がタイトルと要約に基づき独立してスクリーニングを実施。採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。102報を全文精査の対象として30報を抽出。それらの論文の引用文献から11報を追加。同様に2024年3月に行った再検索により18報を特定。最終的に59報のレビュー論文を適格と判断した。
これらの報告の大半(55報)はナラティブレビューとして報告されており、少数(4報)のみメタ解析も行われていた。
健康的/非健康的な食品選択要因と、健康的な食品選択を阻害する要因
59報の研究報告の分析の結果、食品選択に影響を及ぼし得る因子として、人口動態要因、環境要因、家庭と生活習慣、知識とスキル、身体的特徴、製品特性、心理的要因、社会的要因というカテゴリーが設定され、かつ、それぞれについて、健康的な食品選択要因、非健康的な食品選択要因、および健康的な食品選択の阻害要因という三つに分類された。ここではその一部を抜粋して紹介する。
なお、非健康的な食品選択を阻害する要因もわずかに抽出されたが、件数が少ないとの理由で結果は示されていない。また、分析対象とした各レビューがこのような分類を念頭に置いて検討されたものではないことを、著者らは解釈上の留意点として付言している。
人口動態要因
- 健康的な食品選択要因:女性、高等教育、高収入、高い社会経済的地位、高齢
- 非健康的な食品選択要因:低所得
- 健康的な食品選択の阻害要因:高等教育、低所得、低い社会経済的地位、若年
環境要因
- 健康的な食品選択要因:入手しやすさ、在庫状況、マーケティング
- 非健康的な食品選択要因:入手しやすさ、在庫状況、価格/手頃さ
- 健康的な食品選択の阻害要因:入手しやすさ、在庫状況、価格/手頃さ
家庭と生活習慣
- 健康的な食品選択要因:身体活動、新奇性を求める習慣、家族との同居、交通利便性、配偶者との同居
- 非健康的な食品選択要因:両親と同居していない、時間と利便性、労働時間、独居/孤独
- 健康的な食品選択の阻害要因:家族の好み、時間と利便性、労働時間、変化への抵抗
知識とスキル
- 健康的な食品選択要因:料理スキル、機能性食品に関する知識、栄養知識
- 健康的な食品選択の阻害要因:料理スキルの欠如
身体的特徴
- 健康的な食品選択要因:身体的な健康状態が良好、健康上の問題を有する、体重やBMIが過剰、朝型のクロノタイプ
- 非健康的な食品選択要因:歯科治療状態の不良、夕型のクロノタイプ、感覚/知覚の低下
- 健康的な食品選択の阻害要因:身体的な健康状態が不良
製品特性
- 健康的な食品選択要因:ナチュラルな食品、栄養成分、信号ラベル(栄養成分のわかりやすい表示)
- 健康的な食品選択の阻害要因:賞味期限
心理的要因
- 健康的な食品選択要因:食事制限、健康と栄養への関心、健康上の懸念、ポジティブな感情、自己規制
- 非健康的な食品選択要因:覚醒/エネルギー補給目的での摂取、感情的な摂食、否定的な感情、ストレス
- 健康的な食品選択の阻害要因:モチベーションの欠如、ストレス、自制心や規律の欠如、自己効力感と自信の欠如、否定的な認識と信念
社会的要因
- 健康的な食品選択要因:地域社会・家族・仲間からのサポート
- 健康的な食品選択の阻害要因:他者からの否定的な影響
文献情報
原題のタイトルは、「Do the Drivers of Food Choice Differ Between Healthier and Less Healthy Foods? A Systematic Review of Reviews」。〔Nutr Rev. 2025 Nov 10:nuaf202〕
原文はこちら(Oxford University Press)







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