高齢者のフレイル、サルコペニア、抑うつのリスクは、低栄養・食習慣・食事の質に関連している可能性
栄養不良や食習慣・食事の質の低下が、高齢者のフレイルやサルコペニア、身体機能の低下、うつ状態に影響を及ぼしているとする研究結果がトルコから報告された。いずれも有意な関連が認められるという。

加齢が関係している身体機能の低下やメンタルヘルスの悪化には、食事が関与してるのか
加齢に伴い、フレイルやサルコペニア、身体機能の低下といった要介護リスクの上昇に関連する状態が増える。また、老年期うつなどのメンタルヘルス関連疾患も増加する。それら個々の状態については、食習慣や栄養素摂取状況が影響を与える可能性が示唆されてきているが、それらを総合的に調査した研究は少ない。これを背景として行われた、今回取り上げる論文の研究では、トルコ国内のさまざまな州に居住する65歳以上の高齢者を対象に対面インタビュー方式の詳細なアンケート調査を行い、それぞれの因子の関連性が解析された。
事前の統計学的検討により、このトピックの検証に必要なサンプル数は692人と計算され、695人が調査に組み込まれた。適格条件は研究参加への同意と健康であることとされ、がん、認知症(アルツハイマー病)、認知機能または精神機能の障害、うつ病、コミュニケーション障害、嚥下障害の既往歴のある人、食事制限を要する人は除外された。
評価項目と評価指標について
身体機能やメンタルヘルスの評価
フレイルの評価にはエドモントン虚弱尺度(Edmonton Frailty Scale;EFS)を用い、スコア0〜4点は非フレイル、5〜6点はプレフレイル、7〜8点は軽度フレイル、9〜10点は中等度フレイル、11点以上は重度フレイルと判定した。サルコペニアの評価にはサルコペニア迅速スクリーニングテスト(Sarcopenia Rapid Screening Test;SARC-F)を用い、スコア3点以下は健康、4点以上は有症状と判定した。
日常生活動作の評価にはKatz日常生活動作尺度(Katz Activities of Daily Living Scale for the Elderly;KATZ)を用い、スコアが6点は機能に支障なし、4点は中等度の機能低下、2点以下は重度の機能障害と判定した。
うつ状態の評価には老年うつ病評価尺度(Geriatric Depression Scale;GDS)を用い、スコアが0~10点はうつ病なし、11~13点はうつ病の疑い、14点以上はうつ病と判定した。
食習慣・食事の質・栄養状態の評価
食習慣の評価には地中海食遵守尺度(Mediterranean Diet Adherence Scales;MEDAS)を用い、スコアが7以上は地中海食の中程度の遵守、9点以上は高度な遵守と判定した。食事の質の評価には、潜在性腎臓酸負荷(potential renal acid load;PRAL)、および、正味内因性酸産生(net endogenous acid production;NEAP)を用いた。
栄養状態の評価には簡易栄養狀態評価表(Mini Nutritional Assessment-Short Form;MNA-SF)を用い、スコアが0~7点は栄養不良、8~11点は栄養不良のリスク状態、12~14点は正常な栄養状態と判定した。
食習慣・食事の質・栄養状態は身体機能やメンタルヘルスと有意に関連
解析対象695人は年齢70.7±5.4歳、女性49.4%、BMI 27.8±4.4だった。
フレイル評価のエドモントン虚弱尺度(EFS)は4.3±2.9であり、女性の46.4%、男性の53.6%がフレイルに該当した。サルコペニア迅速スクリーニングテスト(SARC-F)は2.2±2.2であって、女性の67.9%、男性の32.1%がサルコペニアに該当した。
そのほかの評価指標については、Katz日常生活動作尺度(KATZ)は5.7±0.84、老年うつ病評価尺度(GDS)は9.4±5.6であり、地中海食遵守尺度(MEDAS)は7.5±2.1であって、食事の質の評価指標とした潜在性腎臓酸負荷(PRAL)は8.6±21.1、正味内因性酸産生(NEAP)は54.4±20.8だった。また簡易栄養状態評価表(MNA-SFMNA-SF)は11.2±2.01だった。
各指標の相関について
上記の評価結果の相関を検討すると、食習慣・食事の質・栄養状態は身体機能やメンタルヘルスとさまざまな有意な関連のあることが明らかになった。詳細は以下のとおり。
地中海食遵守尺度(MEDAS)のスコアが高いほど、フレイル、サルコペニア、うつのレベルが有意に低かった(EFS、SARC-F、GDSとのrが-0.084、-0.126、-0.243とすべて負の相関)。MEDASとKatz日常生活動作尺度の関連は非有意だった。
簡易栄養状態評価表(MNA-SF)のスコアが高いほど、身体機能やメンタルヘルス関連の指標がすべて良好だった(EFS、SARC-F、GDSとのrが-0.508、-0.358、-0.397とすべて負の相関であり、スコアが高いほど日常生活の支障が少ないことを意味するKATZとのrは0.439と正の相関)。
潜在性腎臓酸負荷(PRAL)のスコアが低いほど、フレイル、サルコペニア、うつのレベルが有意に低かった(EFS、SARC-F、GDSとのrが-0.119、-0.087、-0.082とすべて負の相関)。PRALとKATZの関連は非有意だった。また、正味内因性酸産生(NEAP)に関しては、身体機能やメンタルヘルスとの関連が非有意だった。
このほか、摂取エネルギー量が多いほど、サルコペニアやうつレベルが低く日常生活動作が良好であり、タンパク質や脂質の摂取量が多いほどサルコペニアのレベルが低く日常生活動作が良好で、炭水化物摂取量が多いほどフレイルやうつレベルが低く日常生活動作が良好という関連も認められた。
高齢者の包括的な健康管理では栄養が要となる
著者らは本研究について、横断研究のため因果関係の解釈が制限されること、評価指標の多くが自己申告に基づく変数であること、食事調査は1回の24時間想起法のみであったことなどの限界点を挙げている。
そのうえで、「我々の研究結果は、高齢者の食事と栄養状態が、フレイル、サルコペニア、身体機能、およびうつ状態に関連していることを示している。これらは、高齢者の包括的な評価とケア計画において、栄養に焦点を当てることの重要性を明らかにしたものと言える」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Can malnutrition, dietary habits, and diet quality be determinant factors in frailty, sarcopenia, low physical function, and depression in older adults?」。〔BMC Geriatr. 2025 Oct 17;25(1):785〕
原文はこちら(Springer Nature)







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