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少年野球コーチの投球数制限に関する認識や遵守状況 国内の反復横断研究による10年間での変化

少年野球のコーチの投球数制限に対する認識や遵守状況を調査した結果が報告された。10年前の調査結果と比較して、投球数制限の規定に関する認識は有意に向上していたが、遵守状況には変化がみられないという。京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻の谷間桃子氏らが京都府内の少年野球のチームコーチを対象に調査した結果であり、「Open Access Journal of Sports Medicine」に論文が掲載された。

少年野球コーチの投球数制限に関する認識や遵守状況 国内の反復横断研究による10年間での変化

野球少年の未来を左右することもある、投球制限に関するコーチの姿勢は変化したか?

日本では伝統的に野球の人気が高く、幼少期から野球に親しんでる子どもが多い。ただ、野球では肩や膝に疼痛や可動域制限などの障害が発生しやすいことが知られており、成人前に関節障害が発生した場合、その後の選手生活や日常生活に支障を来す可能性が懸念される。国内の少年野球選手の30.7%が肘の障害を経験しているとする報告もあり、予防対策の強化が求められている。

“野球肘(リトルリーグ肘)”と総称される少年野球選手に発生する上肢の関節機能障害のリスクを規定する因子として、理論的には、投球数、投球フォーム、球種、身長、関節の柔軟性、下半身の安定性、などが想定されている。しかし、これらの中で、野球肘罹患率との関連が明らかにされているのは、投球数のみである。そのため、少年野球選手の投球数に上限を設けて遵守することが、子どもたちの将来の可能性を狭めることを防ぐために優先すべき対策と考えられる。国内では30年前(1995年)に日本臨床スポーツ医学会が投球数の上限値を推奨し、さらに地域ごとに、より厳格な上限値の設定やスクリーニングの強化などの対策がとられてきた。

谷間氏らが研究を行った京都府においても2010年から、少年野球選手を対象とするスクリーニングが開始され、また啓発のための講習会も開催されるようになった。ただ、これらの活動によって、子どもたちの投球数に大きな影響を及ぼすと考えられるコーチの認識や態度に、どのような変化が生じているかという点は、これまで十分に検討されていない。

一方、京都大学の研究グループでは今から10年前に、少年野球コーチの投球数に関する推奨の認識を調査していた(doi:10.1177/1941738113480341)。今回、谷間氏らは再度同様の調査を行い、この10年間でコーチの認識がどのように変化したかを検討した。前後2回の調査はともに京都少年野球協会所属チームのコーチ(必ずしも同一者とは限らない)を対象に実施され、全体として反復横断研究のデザインでデータ解析が行われている。

京都府内80チーム、172人のコーチの認識・態度を分析

今回の調査は、2021年のシーズンオフにあたる11月に紙ベースの質問票を用いて、242人のコーチを対象に実施。80チームのコーチ172人(71.1%)から有効回答を得た。調査内容は10年前の調査と同様で、日本臨床スポーツ医学会の推奨(全力投球で1日50球、週に200球以下)の認識、その遵守、および講習会等への参加経験、コーチとしての経験などを質問した。なお、推奨の認識の有無、および、遵守しているか否かは、いずれも回答者本人の自己申告に基づき判定した。

解析対象コーチのおもな特徴は、年齢45.5±8.0歳、男性98.3%、コーチ歴6.5±7.0年であり、約7割(69.2%)はチームに所属している選手の保護者だった。

推奨の認識は有意に向上したが、遵守状況は依然として低調

コーチ172人のうち、投球数に関する推奨を認識していたのは90人(52.3%)と過半数を占めた。10年前の調査の結果(113人中45人〈39.8%〉)と比較すると、有意に向上していた(p=0.038)。

その一方、推奨を遵守しているとの回答は38人(22.1%)であり、10年前の調査の結果(28.3%)から有意な変化が認められなかった(p=0.23)。

推奨の認識の有無や遵守状況での比較

投球数に関する推奨を認識しているコーチと認識していないコーチを比較すると、前者はコーチの経験年数が有意に長かった(6.9±7.1 vs 5.6±6.8年、p=0.03)。

次に、投球数に関する推奨を遵守しているコーチと遵守していないコーチを比較すると、前者は若年であり(43.7±6.4 vs 49.8±9.7歳、p=0.01)、コーチ歴が短かい傾向であった(5.7±4.0 vs 10.0±10.6年、p=0.05)。

講習会等への参加経験の有無での比較

スポーツ障害に関するセミナーに参加経験があるコーチは38.3%だった。その経験の有無で比較すると、参加経験のあるコーチは高齢で(47.8±8.3 vs 44.2±7.7歳、p<0.01)、コーチ歴が長かった(9.0±7.9 vs 5.0±6.0年、p<0.01)。

コーチング技術やパフォーマンス向上に関するセミナーに参加経験があるコーチは29.3%だった。その経験の有無で比較すると、参加経験のあるコーチはコーチ歴が長かった(8.4±5.7 vs 5.8±7.4年、p<0.01)。

選手の保護者か否かでの比較

チームに所属している選手の保護者か否かで比較すると、保護者であるコーチは若年で(43.5±4.9 vs 50.1±11.2歳、p<0.01)、コーチ歴が短かった(3.7±2.9 vs 12.6±9.3年、p<0.01)。また、保護者であるコーチは、スポーツ障害に関するセミナーの参加経験(32.2 vs 51.9%、p=0.015)、および、コーチング技術やパフォーマンス向上に関するセミナーの参加経験(23.5 vs 42.3%、p=0.013)がいずれも少なかった。

推奨の認識と遵守との乖離を埋めるなどの対策が求められる

著者らは本研究が京都府のみの調査であること、推奨の認識や遵守を自己申告に基づき判定しているためバイアスリスクがあることなどを限界点として挙げている。そのうえで一連の結果に基づき、「少年野球のコーチの投球数制限に関する認識は向上しているものの、遵守状況は依然として心もとない」と結論づけている。

なお、推奨を遵守しているコーチは若年で経験年数が少なく、遵守していないコーチは高齢で経験が豊富であるという結果について、「海外からも同様の結果が報告されている。経験が豊富なコーチは高い知識をもっている一方で、伝統的信念への固執などにより、習慣の変更が困難なことがあるのではないか」と考察。「これらのギャップを埋めるため、経験豊富なコーチには事例やエビデンスに基づくトレーニングの提供、若年コーチへは講習会参加などの知識習得の促進といった、個別化されたアプローチが必要と考えられる」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Changes in Knowledge and Compliance with Pitch Count Recommendations Among Youth Baseball Coaches: A Cross-Sectional Comparison at Two Time Points」。〔Open Access J Sports Med. 2025 Jul 29:16:89-97〕
原文はこちら(Informa)

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