IOCのRED-S重症度評価ツール「CAT2」が実用性を示す カナダのエリート選手200人超で妥当性確認
国際オリンピック委員会(IOC)が2023年に策定した、スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)の重症度/リスク分類ツール(CAT2)の精度を検証した結果が報告された。カナダのエリートアスリート200人以上を対象とする研究により、重症度分類が妥当であり、より重症と判定されるほど、その後の骨ストレス傷害発生が多いことが明らかになった。
2023年に策定されたIOCによるRED-S評価ツールの妥当性を検証
国際オリンピック委員会(International Olympic Committee;IOC)は2015年に、それまで「女性アスリートのトライアド(エネルギー不足、無月経、骨粗鬆症の三主徴)」と呼ばれていたアスリートに好発する状態を、より病態メカニズムに則した症候群として男性アスリートも含め、「Relative Energy Deficiency in Sport;RED-S(スポーツにおける相対的エネルギー不足)」と定義。それに合わせ、臨床評価ツール(Clinical Assessment Tool;CAT)も策定していた。ただ、そのCATはエビデンスベースでなく、評価指標も限られていて、実用性が限られていた。
その後、2023年になりIOCは、CATに代わる評価ツールの第2版(CAT2)を策定。これは、180報以上の研究報告のエビデンスに基づくものであり、重症度カテゴリーが3種類から4種類と細分化され、実用性の高いものとなった。しかし、CAT2策定時点では、大規模集団での精度検証はなされていなかった。これを背景として、今回紹介する論文の著者らは、カナダ国内のエリートアスリートを対象として、CAT2の精度検証を行った。
解析対象アスリートの特徴
この研究には、カナダのオリンピック・パラリンピックの代表チーム、コーチ、スタッフを通じて募集された248人(女性67%)が参加した。適格基準は、年齢15歳以上、調査時点でオリンピック・パラリンピック競技のトレーニングを行っていること、カナダに居住していることであり、除外基準は、妊娠中、内分泌疾患の存在だった。調査時点ではエリートレベルでないと判断されたアスリート、後述の評価項目のデータ欠落、年齢的に閉経期に近づいていると判断された女性、およびパラアスリート(11人)などを除外し、213人を解析対象とした。
解析対象アスリートは、女性が143人(23.3±4.3歳)、男性70人(23.1±3.7歳)であり、パフォーマンスレベルは、Tier 3(準エリート)が52%、Tier 4(国内トップクラス)が36%で、Tier 5(トップアスリート)が12%だった。行っている競技は、陸上69人、ボート60人、自転車17人、水泳16人、トライアスロン16人、スピードスケート11人、ラグビー8人、柔道8人などだった。
評価項目
本研究の評価項目は、CAT2の判定、骨密度、自己申告に基づく骨ストレス傷害(bone stress injury;BSI)の発生状況、血液検査値(甲状腺ホルモン〈トリヨードサイロニン/tri-iodothyronine;T3〉、男性ホルモン〈テストステロン〉、血清脂質〈コレステロール〉など)、摂食障害診断質問表(Eating Disorder Examination-Questionnaire;EDE-Q)のスコア、および、RED-Sに関する知識。
骨密度は二重エネルギーX線吸収測定(DXA)法で測定した。骨ストレス傷害(BSI)については、ベースラインでの横断的評価に加えて6~24カ月追跡して発生状況を把握し、CAT2の判定区分などとBSI発生リスクの関連を検討するという探索的評価にも用いた。
RED-Sに関する知識は、「RED-Sの概念をどの程度認識しているか?」という単一の質問で評価した。選択肢は、「1. 知らない。初めて聞いた」、「2. 多少知っている。以前に聞いたことがある」、「3. ある程度認識している。概念を聞いたことがあり、基本を知っている」、「4. 概念と基礎理論を理解している」、「5. 概念をよく理解しており、資料を読んだり勉強したりしたことがある」の五つ。
CAT2の判定結果と多くの指標が有意に関連
CAT2の判定結果は、女性アスリートはリスクなし(緑)53%、低リスク(黄色)36%、中リスク(オレンジ)6%、高リスク(赤)6%であり、男性アスリートは緑60%、黄色34%、オレンジ4%、赤1%だった(以下ではCAT2の判定結果を色の名称のみで記載)。
全体として、CAT2の判定結果(RED-Sリスク)は除脂肪体重の低さと有意な関連があり(p<0.001)、女性ではオレンジと赤は体重とBMIが有意に低く、RED-Sに関する知識レベルはRED-Sリスクが高いほど(CAT2が緑寄りでなく赤寄りなほど)高かった。
その他、論文ではCAT2の判定区分とさまざまな評価指標との関連が詳細に述べられている。以下にその一部を紹介する。
CAT2の判定区分別の該当者数や検査値の比較
骨ストレス傷害(BSI)を有する割合は、緑は118人中0人(0%)、黄色は75人中15人(20%)、オレンジは11人中3人(27%)、赤は9人中3人(33%)。緑に比較して他の3群はすべて有意に多い。
T3低値の割合は、緑は118人中0人(0%)、黄色は75人中9人(12%)、オレンジは11人中4人(36%)、赤は9人中6人(67%)。緑に比較して他の3群はすべて有意に多く、かつ黄色に比較して赤は有意に多い。
摂食障害診断質問表(EDE-Q)のスコア高値の割合は、緑は118人中0人(0%)、黄色は75人中17人(23%)、オレンジは11人中5人(45%)、赤は9人中4人(44%)。緑に比較して他の3群はすべて有意に多い。
女性アスリートの無月経の割合は、緑は34人中0人(0%)、黄色は27人中9人(33%)、オレンジは7人中7人(100%)、赤は8人中8人(100%)。緑に比較して他の3群はすべて有意差に多い。
男性アスリートの低テストステロン血症の割合は、緑は42人中0人(0%)、黄色は24人中1人(4%)、オレンジは3人中3人(100%)、赤は1人中1人(100%)。赤は緑および黄色に比較して有意に多い。
脊椎骨密度のZスコアは、緑に比較し他の3群はすべて有意に低い。大腿骨骨密度のZスコアは、緑に比較し黄色と赤の2群は有意に低い。
新たな骨ストレス傷害(BSI)が発生するリスク
6~24カ月の追跡期間中の、新たに骨ストレス傷害(BSI〈大半は自己申告ではなく医師により診断されたケース〉)の発生リスクは、緑よりもオレンジ(OR7.71〈95%CI;1.26~39.83〉)、性欲減退のある男性(OR16.0〈4.79~1038.87〉)、摂食障害(EDE-Q)スコアが高い場合(OR1.45〈0.97~1.97〉)で有意に高く、無月経の女性(OR4.6〈0.98~17.85〉)も高い傾向が認められた。
以上一連の結果に基づき著者らは、「CAT2はRED-Sの重症度を評価するうえでの高い妥当性があり、より重度のカテゴリーに判定されたアスリートは、将来のBSI発生リスクが高い」と総括。ただし、「さまざまな人種、年齢、競技レベルのコホートでの検証が必要であり、さらに、今後のRED-S指標の開発も求められる」と付け加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Application of the IOC Relative Energy Deficiency in Sport (REDs) Clinical Assessment Tool version 2 (CAT2) across 200+ elite athletes」。〔Br J Sports Med. 2024 Dec 23;59(1):24-35〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)