大学女子長距離選手のシーズン前のエネルギー不足が、シーズン中のパフォーマンス不振と関連
やせていることがパフォーマンス上、有利と捉えられる傾向のある長距離においても、そうとは言えない可能性を示唆するデータが、米国から報告された。大学女子選手対象に行われた前向き観察研究の結果であり、シーズン前にエネルギー不足だった選手はエネルギーが充足していた選手に比べて、シーズン中のパフォーマンスが有意に低いという。著者らは、エネルギー不足は長距離ランナーのトレーニング効果を低下させてしまう可能性があるとしている。
エネルギー不足のパフォーマンスへの影響を前向き研究で検討
長距離選手はエネルギー出納が負になる傾向のあることが知られている。その理由として、(1)トレーニングによる消費を食事で満たせていない、(2)やせているほうがパフォーマンス上有利という信念、ということのほかに、(3)摂食障害を生じている場合も当てはまる。一方でアスリートのエネルギー不足は、回復の遅延、疲労の増大、トレーニング効果の低下などにつながり、とくに女性ではRED-S(relative energy deficiency in sport)を介して月経異常や妊孕性低下、疲労骨折などの健康障害が生じやすいことが報告されている。
さらに、前記の理由の(2)に関しては、エネルギー不足によってむしろパフォーマンス低下を来す可能性を示唆する研究結果もある。ただし、そのエビデンスは少なく、ことに前向き研究の知見はほとんどない。
これを背景として、全米大学体育協会(NCAA)のディビジョンI、またはエリートレベルの競技団体に所属している、大学生女子長距離選手を対象とする前向き観察研究が実施された。
NCAAディビジョンIレベルの女子大学生選手を10~12週間観察
研究参加者は、年齢が18~25歳の大学生で長距離大会に積極的に参加しており、健康な非喫煙者を適格条件として募集された42人で、このうち38人がシーズン前のテストに参加、さらに21人はシーズン後のテストにも参加し縦断的解析の対象とされた。
38人のおもな特徴は、年齢19.3±0.2歳、BMI20.2±0.3、体脂肪率22.8±0.7%で、安静時代謝率(resting metabolic rate;RMR)は1,212.5±18.1kcal/日であり、Cunningham式に基づき除脂肪体重から算出したRMRの予測値(predicted RMR;pRMR)に対するRMR実測値(measured RMR;mRMR)の割合である「mRMR/pRMR(RMR比)」は0.95±0.01だった。なお、RMR比が0.92未満の場合、エネルギー不足であるとする先行研究の報告に基づき、本研究でもこれをカットオフ値として、2群に分けて後述の検討を行っている。
このほか、VO2maxは59.7±1.2mL/分/kg、5kmタイムトライアル(5kmTT)は21.0±0.4分、トレーニング時間は409±53分/週、摂取エネルギー量は2,017±102kca/日、運動による消費エネルギー量は613±42kcal/日で、エネルギー可用性(energy availability;EA)は43.9±3.2kcal/kgLBM(除脂肪体重)だった。また、甲状腺ホルモンの総トリヨードサイロニン(total triiodothyronine;TT3)は、96.6±4.1ng/dLだった。なお、エネルギー不足状態では代謝の抑制に関連してTT3は低値となる。
月経状態は16人が正常、8人は月経異常、2人はこの質問に対して明確に回答せず、12人は経口避妊薬を使用していた。
この研究において解析は、ベースライン時点でのRMR比0.92未満/以上での2群での比較という横断的解析と、シーズン前と10~12週間のシーズンを経た後の変化をその2群間で比較するという縦断的解析が行われている。なお、観察期間中の脱落の理由は、多忙(11人)、疲労骨折(2人)などだった。
シーズン前時点のエネルギー不足がシーズン中とシーズン後のパフォーマンス不良に関連
シーズン前のベースラインにおいて、RMR比が0.92未満でありエネルギー不足と判定された選手が12人、RMR比0.92以上でエネルギー充足と判定された選手が26人だった。この2群のベースラインデータを比較すると、年齢、BMI、体脂肪率、摂取エネルギー量、運動による消費エネルギー量、VO2max、5kmTTの記録には有意差がなかった。しかし、エネルギー不足群はエネルギー可用性(EA)が有意に低く(35.9±2.0 vs 48.9±4.5kcal/kgLBM、p=0.046)、総トリヨードサイロニン(TT3)が有意に低値であり(82.69±4.51 vs 103.64±5.13ng/dL、p=0.013)、代謝の抑制が生じていることが示唆された。
縦断的解析の対象者ではシーズン前、シーズン後ともにパフォーマンスに有意差
シーズン後にもテストを受けて縦断的解析の対象となった21人に絞ると、シーズン前にRMR比が0.92未満でありエネルギー不足と判定された選手が7人、RMR比0.92以上でエネルギー充足と判定された選手が14人だった。この2群のベースラインデータを比較すると、EAは有意差がなかったが、TT3はやはりエネルギー不足群のほうが有意に低値であった。
さらに、この2群間ではパフォーマンス指標にも、シーズン前とシーズン後の両時点で、以下のような有意差が認められた。
VO2max
シーズン前は、エネルギー不足群が57.7±4.3、充足群が62.5±6.7mL/分/kgで、エネルギー不足群のほうが8.8%低値だった。シーズン後は同順に59.2±5.9、66.0±4.1mL/分/kgであり(p=0.018)、両群ともにシーズン前より有意に増加していたが群間差は11%に拡大していた。
5kmTT
シーズン前は、エネルギー不足群が22.5±0.7、充足群が20.52±0.7分で、エネルギー不足群のほうが有意に不良だった(p=0.04)。シーズン後は同順に22.2±0.7、20.3±0.7分であり(p=0.040)、両群ともに有意な変化はなく、群間差は引き続き有意だった。
シーズン前のTT3は、5kmTTのシーズン中の変化およびシーズン後の記録の予測因子
次に、シーズン後のVO2maxの群間差の影響を統計学的に調整したうえで、シーズン前のTT3とシーズン前後での5kmTTの走行速度の変化、およびシーズン後の5kmTTの走行速度との関連を線形回帰分析で検討。その結果、シーズン前のTT3はシーズン前後に生じていた5kmTTの走行速度の変化の有意な予測因子であり(R2=0.455、p=0.014)、かつ、シーズン後の5kmTTの走行速度の有意な予測因子だった(R2=0.662、p=0.001)。
つまり、シーズン前にエネルギー不足による代謝抑制が生じていると、シーズンを通してパフォーマンス向上が妨げられ、シーズン後のパフォーマンスが不良になるという関連が認められた。
著者らは、「長距離ランナーのパフォーマンス最大化のために、アスリートのエネルギー不足による代償機転を早期に検出する必要があるのではないか」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Pre-Season Energy Deficiency Predicts Poorer Performance During a Competitive Season in Collegiate Female Long-Distance Runners」。〔Eur J Sport Sci. 2025 Mar;25(3):e12261〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)