綱引き選手のパフォーマンス向上にカフェインが有効 牽引持久力向上と疲労抑制の可能性
カフェインが綱引きのパフォーマンスを向上させ得ることを示す研究結果が報告された。台湾で実施された二重盲検クロスオーバー試験で、プラセボに比べて最大牽引力の80%での持久力に有意差が認められたという。
綱引きのパフォーマンスは、カフェイン摂取や炭水化物洗口で向上するか?
カフェインはさまざまなスポーツのパフォーマンスを向上させ得ることが、多くの研究で明らかになっている。また、エネルギー基質としての炭水化物摂取による消化器症状発現のリスクを回避しながら、中枢神経系の刺激作用を期待し、炭水化物水溶液の洗口という手法も有効性のエビデンスがある。ただし、いずれについても、綱引きで検討した報告はみられない。今回紹介する論文はこれを背景として、二重盲検クロスオーバー試験として実施された。
研究参加者は、屋内綱引きのトレーニングを3年以上継続している18~25歳の選手18人(うち女性8人)。年齢20.17±2.07歳、体重73.17±8.56kg、体脂肪率23.2±86.11%で、最大牽引力は136.4±13.1kg。綱引きのパフォーマンスは、最大牽引力の80%の負荷に耐えられる時間の長さを測定するという、耐久テストでの持久力を評価した。また、テスト終了直後に、10段階のボルグスケールにより自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)を評価した。
試行したのは以下の4条件で、参加者を無作為に4群に分けたうえで、4パターン設定したいずれかの試行順序で実施した。なお、各テストの8時間前から絶食とし、1時間前に標準化された朝食(約433kcal)を摂取。また、各条件の試行には48~72時間をおいた。
試行した4条件
カフェイン摂取(CAF)条件
テストの1時間前に6.5mg/kg、最大400mgのカフェインカプセルを摂取。テストの10秒前にプラセボ(コーンスターチ)水溶液で10秒間の洗口。
炭水化物洗口(CHO)条件
テストの1時間前にプラセボ(コーンスターチ)カプセルを摂取。テストの10秒前にマルトデキストリン6gを含む100mLの水溶液で10秒間の洗口。
カフェイン摂取と炭水化物洗口(CAF+CHO)条件
テストの1時間前に6.5mg/kg、最大400mgのカフェインカプセルを摂取。テストの10秒前にマルトデキストリン6gを含む100mLの水溶液で10秒間の洗口。
プラセボ(PLA)条件
テストの1時間前にプラセボ(コーンスターチ)カプセルを摂取。テストの10秒前にプラセボ(コーンスターチ)水溶液で10秒間の洗口。
カフェイン摂取は綱引きの牽引持久力を高めるが炭水化物洗口は有意な影響が観察されず
男性3人がテスト試行中の不快感のため脱落し、解析は男性7人、女性8人となった。
持久力の比較:カフェイン摂取を含む条件で有意な効果
最大牽引力の80%の負荷での耐久時間は、プラセボ(PLA)条件が137.4±48.9秒、カフェイン摂取(CAF)条件が162.0±14.1秒、炭水化物洗口(CHO)条件は135.6.±66.6秒、カフェイン摂取と炭水化物洗口(CAF+CHO)条件は165.0±69.2秒であり、CAF+CHO条件はPLA条件(p=0.022)およびCHO条件(p=0.027)よりも有意に長く、一方でCHO条件はCAF条件より有意に短かった(p=0.024)。
CAF条件は、全体解析ではPLA条件と有意差がなかった。ただし、性別の解析では、男性において有意差があり、PLA条件の113.5±37.0秒よりCAF条件の173.4±50.2秒のほうが有意に長かった(p=0.012)。女性では全体解析と同様に、CAF条件とPLA条件の間に有意差がなかった。
効果量(ω2)を、0.01以下はほぼ効果なし、0.01~0.06は限定的な効果、0.06~0.14は中等度の効果、0.14超は実質的な効果と判定すると、PLA条件に対してCAF条件はω2が0.683、CAF+CHO条件は0.460であり、明確な効果が認められた。
自覚的運動強度(RPE)の比較:カフェイン摂取のみではRPEが上昇
テスト直後の自覚的運動強度(RPE)は、CAF条件(7.4±0.9)とCHO条件(6.8±0.6)との間に有意差がみられ、CAF条件で高かった。そのたの条件間では有意差がなかった。
綱引きにおける炭水化物洗口の効果は要再検討
まとめると、カフェイン摂取により綱引きの牽引持久力が有意に延長することが示されて、一方で炭水化物洗口にはその効果が認められなかった。炭水化物洗口が無効との結果については、テスト試行の1時間前に炭水化物を含む食事を摂取するという条件であったため、体の炭水化物需要が満たされていたことにより有効性が現れにくかったのではないかとの考察を加え、今後の検討の必要性を指摘している。
著者らは、「この研究結果は、屋内綱引きの競技中やトレーニング中に疲労を抑え、牽引パフォーマンスを向上させる実用的な戦略を、コーチや選手に示している」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Caffeine Supplementation Is Beneficial for the Pulling Performance of Indoor Tug-of-War Athletes」。〔Biology (Basel). 2025 Mar 28;14(4):354〕
原文はこちら(MDPI)