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水球選手のパフォーマンスと回復を支える栄養戦略 食事とサプリメントの実践的エビデンス

水球選手のパフォーマンス向上や回復促進のための栄養戦略について、システマティックレビューに基づきこれまでの知見を総括した論文が報告された。スペインの研究者らの報告。

水球選手のパフォーマンスと回復を支える栄養戦略 食事とサプリメントの実践的エビデンス

水球の栄養戦略の“ナラティブ・メタアナリシス”

水球は、短時間の高速動作とそれに続くやはり短時間の低速動作が繰り返されるチームスポーツで、無酸素性と有酸素性のエネルギー代謝の双方が重要とされる。この点は多くのチームスポーツの共通点とも言えるが、他のチームスポーツと大きく異なることとして、水の抵抗の存在、および、競技パフォーマンスを発揮するための基盤として水泳スキルの高さが必須であることが挙げられる。

スポーツパフォーマンスのための栄養戦略に関する研究のシステマティックレビューは多くの競技でなされてきているが、この論文の著者によると、水球に関してはまだ行われていないという。これを背景に著者らは、水球の栄養戦略の体型的な理解を意図して、システマティックレビューに基づき定性的な検討(論文では「ナラティブ・メタアナリシス(narrative meta-analysis」と表現)を行った。

レビューの手法について

システマティックレビューとメタ解析のためのガイドライン(PRISMA)に準拠し、Web of Science、Scopus、Medline(PubMed)など6件の文献データベースで、「水球」、「栄養」、「回復」、「エルゴジェニックエイド」などのキーワードを用いて、ヒトを対象とした研究の英語論文の検索を2025年1月3日に実施。水球以外のアスリートや疾患既往者対象の研究、査読システムのないジャーナルの論文、学会抄録、書籍などは除外した。

一次検索で1万438報がヒット。重複削除後に2名の研究者が論文のタイトルと要約に基づくスクリーニングを実施。採否の意見の不一致は3人目の研究者を含めた討議により解決した。122報を全文精査の対象として、最終的に11件の研究報告を抽出した。この11件という数値について著者らは、「この数字は残念ながら、水球に特化した科学研究が不足している実態を浮き彫りにしている。既存の研究が限られているため、選手やコーチ、研究者が利用できる情報が少なく、この競技におけるパフォーマンスの向上戦略が制限される可能性がある」と記している。

水球特異的なエビデンスが少ないが、β-アラニン、L-アルギニンに関しては比較的豊富

先述のように本研究では定量的な解析はされず、定性的な検討としてまとめられている。一部を抜粋して紹介する。

食品による栄養戦略

ある研究では、栄養戦略によって日々のトレーニング、回復、試合日のパフォーマンスを向上させることができ、1日の炭水化物の必要量は4~8g/kgの範囲である可能性が高く、またトレーニング直後に20~30gのタンパク質を摂取することで、筋肉の増強の最大化が可能としている。

一方、ハンガリーのエリート水球選手19人を対象とする別の研究では、タンパク質と炭水化物の摂取量が推奨よりもはるかに少ない実態が観察されたことが報告されている。そのようなケースでは、なによりも栄養所要量が満たされるような、適切な計画と教育が不可欠と考えられる。

回復戦略

回復期のサプリメントとして、ホエイプロテイン、β-アラニン、L-アルギニン、スピルリナ+銅などの報告が認められた。ホエイプロテインはトレーニング後の筋肉の修復を増強し、β-アラニンは筋肉内のカルノシン濃度を高め持久力を向上させ、L-アルギニンは一酸化窒素の生成に関与し血流と筋肉の酸素化を改善する。スピルリナは銅との併用で、酸化ストレスや疲労の軽減に役立つ。このほかに硝酸塩は、一酸化窒素の利用を高め、水中での無呼吸運動のパフォーマンス向上に有効とする報告がみられる。

一方、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)やクレアチンなどは、性別や評価項目によって、回復への有効性が制限されることもあるようだ。

エルゴジェニックサプリメント

研究件数の多いものから順に、β-アラニン、L-アルギニン、スピルリナ、リン、ビート根ジュースなどが検討されていた。

ブラジルのトップ選手22人を対象とする4週間のβ-アラニン介入により、水球の試合における最初のクォーターでの反復スプリント能力がわずかに向上したが、それ以降のピリオドでは、必ずしも有意な改善はみられなかったという。またイタリアのトップ選手がL-アルギニンを4週間摂取したところ、運動中の酸化代謝が増加した。

このほか、スピルリナと銅を含むサプリメントを8週間摂取したところ、パフォーマンスの主観的尺度が改善し、筋肉のストレスが軽減したという報告がある。一方で、オーストラリアの世界クラス女子選手を対象とする炭酸水素ナトリウムによる介入、オランダのエリートレベル女子選手を対象とするビート根ジュースによる介入は、有意な影響を報告していない。

論文の結論は以下のようにまとめられている。

「水球特有の高いエネルギー需要を満たすため、栄養戦略が基礎となる。数多くの選択肢の中で、β-アラニンとL-アルギニンは比較的確固たるエビデンスに基づいたサプリメントとして注目されている。ただ、これらのサプリメントの使用を推奨する前に、他のサプリメントや医薬品との相互作用や個々の副作用を考慮することが重要。これらの戦略の実践は、エビデンスに基づき、選手個々のニーズとスポーツ特有の要求に合わせて個別化されるべきだろう」。

文献情報

原題のタイトルは、「Ergonutrition Supplementation and Recovery in Water Polo: A Systematic Review」。〔Nutrients. 2025 Apr 10;17(8):1319〕
原文はこちら(MDPI)

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