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空手選手の水分制限による減量を検証 軽度の脱水でパフォーマンスが一部低下するも影響は限定的か

エリートレベルの空手選手を対象とする研究から、減量のための水分摂取制限による脱水で、パフォーマンス指標の一部が低下するという結果が報告された。ただし、空手に重要な高速での動作には影響が認められないことから、慎重に計画された水分摂取制限による減量戦略は、試合に有利に働く可能性もあるという。ギリシャからの報告。

空手選手の水分制限による減量を検証 軽度の脱水でパフォーマンスが一部低下するも影響は限定的か

空手の試合前の水分制限による減量は有利か不利か?

多くの格闘技と同様に空手も体重別階級があり、有利な条件で試合に臨むため、急速な減量を行う選手が少なくない。急速な減量の手段として、水分摂取制限は良く用いられている。これまでの研究で、脱水は有酸素運動能力を低下させることが明らかにされているが、無酸素性パワーについては結果が一貫しておらず、測定の部位や指標、条件によって異なる結果が報告されている。

さらに、空手に関しては、そもそも急速な減量の影響を調査した研究が他の格闘技より少ない。また、同じ格闘技でも柔道などは投げ技・組み技(グラップリング)が多いのに比べ、空手は打撃(ストライキング)が多く、無酸素運動能力への依存が大きいことも、これまでの知見の援用の妨げとなっている。

これらを背景として今回取り上げる論文の著者らは、ギリシャのトップレベルの男性空手選手を対象に、軽度の脱水状態を引き起こして筋力やパワーを計測し、水分のバランスが定常状態の時と比較するという、無作為化クロスオーバー研究を実施した。著者らは、エリート空手選手の脱水の影響を調べた研究は、本研究が初めてだとしている。

ギリシャの代表レベルの空手選手を対象に研究

研究対象は、ギリシャのナショナルチームに所属する14人の男性選手で、過去2年以内に国内大会でメダリを獲得していて、全員が国際大会の経験を有している。適格基準は年齢が18歳以上で体重が67~84kgであり、除外基準は喫煙者、サプリメント利用中、筋骨格系の疾患などだった。主な特徴は、年齢23.4±3.5歳、競技歴11.5±3.5年、BMI25.2±2.1、体脂肪率13.1±4.3%など。

脱水状態は、テスト24時間前からの水分摂取制限により惹起し、体重が2%減少した状態と定義した。一方、定常状態はテスト前日に30mL/kg以上の水分を摂取し、かつテスト当日の朝に500mLの水分を摂取することとした。この2条件の試行順序は無作為化した。

評価項目は、下肢を曲げて反動を利用するカウンタームーブメントジャンプ(countermovement jump;CMJ)、静止姿勢から反動を利用せずに行うスクワットジャンプ(squat jump;SJ)、および、膝関節の伸展・屈曲に対する等速性筋力テスト(60°/秒、180°/秒、300°/秒の3条件)におけるトルクやパワーなどだった。

スクワットジャンプと低速での膝関節筋力が有意に低下

研究期間中の食事の変更などのプロトコルからの逸脱はなく、また脱水条件では体重が-1.9±0.1%、尿比重が1.028~1.035となり、脱水が達成されたことが確認された。一方、定常状態の尿比重は1.005~1.017であり、水分バランスが満たされていた。

評価したパフォーマンス関連指標のうち、スクワットジャンプ(SJ)と低速での膝関節の伸展・屈曲筋力に有意差が観察された。詳細は以下のとおり。

スクワットジャンプ(SJ)への影響

SJの高さは定常状態で39.34±5.08cm、脱水状態では37.19±3.69cmであり、後者で-5.4%低かった(p=0.04)。一方、カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)に関しては、同順に42.93±4.92cm、41.85±5.06cmであり、有意差はみられなかった(p=0.256)。

ジャンプ時のパワーについても同様に、SJには有意差が認められ(2,351.1±347.2 vs 2,188.2±307.2W〈後者が-7.1%〉、p=0.001)、CMJの条件間の差は非有意だった(2,536±396 vs 2,448±422W、p=0.169)。

SJには有意差が生じ、CMJはそうでないという結果について、論文中の考察では、「CMJでは下肢屈曲の反動を利用できるため、脱水による負の影響が緩和されたのではないか」と述べられている。

低速での膝関節伸展・屈曲筋力への影響

上記のように、膝関節の伸展・屈曲のトルクやパワーは、角速度60、180、300°/秒という3条件で計測された。その結果、60°/秒という低速での伸展(164.91±26.69 vs 158.02±28.57W)および屈曲(99.10±16.13 vs 96.65±18.87W)のパワーに有意差が認められ、脱水状態で低下していた(いずれもp<0.05)。

それに対して高速(180および300°/秒)での伸展・屈曲のパワーには条件間の有意差がなく、またトルクに関しては全条件で有意差がなかった。

著者によると、脱水によって低速等速性筋力のみが低下するという現象は既報研究でも認められており、明確なメカニズムは不明だが、「脱水の筋力への影響は特定の指標に選択的な影響を及ぼすようだ」としている。

適切な水分制限は打撃系格闘技では有効な可能性もあるが、さらなる研究が必要

本研究から、エリートレベル空手選手において、体重の2%に相当する急性脱水により、スクワットジャンプと低速等速性筋力が低下する一方で、カウンタームーブメントジャンプ、および、空手の組手のパフォーマンスに重要とされる高速等速性筋力は、影響を受けないことが示された。

この結果について著者らは、「爆発的なパワーを必要とするスポーツにおいて、軽度の脱水が特定の強度パラメーターにのみに影響を与え、他のパラメーターには影響を与えないとするエビデンスが増えてきており、本研究もそれを支持するものと言える」としたうえで、「適切な水分補給は健康の維持と運動負荷後の回復に不可欠ではあるものの、慎重に計画された減量戦略の一環としての水分制限は、スポーツ特有のパフォーマンスを大幅に損なうことなく、効果的である可能性がある」と総括している。

ただし、「脱水の影響が選択的に生じることのメカニズムは依然として不明であり、打撃系格闘技の適切な水分補給戦略の開発にはさらなる研究が必要」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effect of Acute Dehydration upon Muscle Strength Indices at Elite Karate Athletes: A Randomized Crossover Study」。〔Nutrients. 2025 Apr 25;17(9):1452.〕
原文はこちら(MDPI)

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