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女性アスリートの栄養指導にはPUFA摂取量に加えて食事性炎症指数(DII)の評価も重要

女性アスリート特有の健康リスク抑制作用が期待される多価不飽和脂肪酸(PUFA)だが、栄養指導に際しては、単にPUFAの摂取量を把握するのみでなく、食事性炎症指数(DII)やω3指数を評価することの重要性を示唆する研究結果が報告された。摂南大学農学部食品栄養学科の藤林真美氏、京都華頂大学現代生活学部食物栄養学科の林育代氏、京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室の坂根直樹氏らの研究によるもので、論文が「Journal of Nutritional Science and Vitaminology」に掲載された。

女性アスリートの栄養指導にはPUFA摂取量に加えて食事性炎症指数(DII)の評価も重要

女性アスリートとPUFA

女性アスリートに特有の健康障害として、トライアド(利用可能エネルギー不足、月経異常、骨粗鬆症という三主徴)の存在が古くから指摘されている。これに対して、心血管リスク抑制に関するエビデンスが豊富なω3脂肪酸が、骨代謝の改善、抗炎症、細胞内シグナル伝達のサポートなどによって、トライアドのリスク抑制にも寄与する可能性が示唆されている。また、トレーニングによる筋損傷や外傷性脳損傷からの回復促進効果も示されていて、ω3脂肪酸はアスリートが積極的に摂取すべき栄養素と考えられる。

一方、全身の慢性炎症が種々の疾患のリスクに深く関与していることが明らかにされ、慢性炎症の規定因子の一つとして食事の催炎症/抗炎症作用が注目されてきており、その評価指標として「食事性炎症指数(dietary inflammatory index;DII)」が用いられている。そのほか、血液中の総脂肪酸に占めるエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の合計の割合である「ω3指数(Omega-3 index;O3i)」も、食事の適切さを判定する指標の一つとして活用されている。ただし、女性アスリートのPUFA摂取量とDIIやO3iとの関連はこれまで十分検討されておらず、非アスリートとの相違の有無も明らかでない。

以上を背景として坂根氏らは、日本人女性アスリートおよび非アスリートを対象に、これらの評価指標同士の関連性を検討した。

女性アスリートと非アスリートを対象にPUFA摂取量、DII、O3iなどを調査

研究参加者は年齢18~29歳の女性とし、ω3サプリメント摂取、抗凝固療法、易出血傾向に該当する場合を除外して、74人のアスリート群と38人の非アスリート(対照)群を設けた。アスリートが行っている競技は、短距離42.4%、中距離3.4%、長距離5.1%、跳躍25.4%、ハードル6.8%、投擲13.6%などだった。

食事性炎症指数(DII)は、食事摂取状況を食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)で評価したのち、Shivappaらが開発した食品パラメーターごとの炎症スコアをもとに、環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」で用いられた手法により算出した。なお、DIIには脂肪酸摂取量のほかに、食物繊維や植物性化合物などの摂取量も反映される。

血中脂肪酸については、ひと晩絶食後の採血により、ω3脂肪酸(EPA、DHA、α-リノレン酸〈ALA〉)、ω6脂肪酸、飽和脂肪酸(SFA)、一価不飽和脂肪酸(MUFA)、トランス脂肪酸など、計22項目の脂肪酸を測定した。

このほか、生体インピーダンス法により体組成を測定。また、月経状態を質問し、3カ月以上月経がない場合は無月経と定義した。

アスリート群と対照群の特徴

アスリート群と対照群の特徴を比較すると、年齢は同順に19.7±1.2歳、20.0±0.9歳、BMIは21.1±2.4、20.3±2.4で有意差がなかったが、体脂肪率は21.2±5.1%、27.1±5.9%でアスリート群のほうが有意に低く、骨格筋量は23.5±2.6kg、19.4±2.7kgでアスリート群のほうが有意に多かった(いずれもp<0.001)。無月経の割合は、7.5%、2.7%で有意差がなかった(p=0.645)。

EPA、DHAの摂取量はアスリート群が有意に多い

エネルギー摂取量は、アスリート群1,869±490kcal、対照群1,672±391kcalで、前者が有意に多かった(p=0.033)。エネルギー摂取量に対する主要栄養素の割合については、タンパク質はアスリート群、脂質は対照群で有意に高く、炭水化物は有意差がなかった。

脂肪酸の摂取量については、EPA(182.1±122.5 vs 120.4±78.0mg、p=0.002)、DHA(322.2±178.8 vs 226.9±120.0mg、p=0.004)はアスリート群が多く摂取していたが、SFA、MUFA、PUFA、ω3PUFA、ω6PUFA、ALAは有意差がなかった。

食事性炎症指数(DII)、ω3指数(O3i)は群間に有意差なし

食事性炎症指数(DII)は、エネルギー摂取量で調整した値である「E-DII(energy-adjusted dietary inflammatory index)」として比較すると、アスリート群1.96±2.65、対照群2.54±2.06であり前者のほうが低値だが有意差はなかった(p=0.237)。なお、DIIやE-DIIは値が高いほど催炎症作用が強いことを意味する。

ω3指数(O3i)もアスリート群4.88±1.37、対照群4.50±1.38であり有意差はなかった(p=0.173)。先行研究に基づき、O3iが8%以上を心血管疾患リスクが低いと定義すると、その割合はアスリート群が24.3%、対照群が42.1%でありアスリート群で少なかったが、有意差はなかった(p=0.082)。

このほかには、アスリート群は対照群に比較し、SFA/MUFA比(1.68±0.15 vs 1.49±0.15、p<0.001)、トランス脂肪酸指数(0.41±0.38 vs 0.27±0.07、p=0.026)が高く、ω6/3比が低い(8.37±2.48 vs 9.79±4.17、p=0.025)という有意差が認められた。

O3iはE-DIIと負の関連があるが、ω3PUFA摂取量とは関連しない

次に、脂肪酸関連指標同士の関連性をみると、アスリート群においてO3iは、EPA+DHAの摂取量と正相関し(r=0.356、p=0.002)、DIIとは負の関連が認められた。一方、対照群ではいずれの関連も非有意だった。

また、エネルギー摂取量で調整した食事性炎症指数(E-DII)とO3iは、アスリート群(r=-0.284)、対照群(r=-0.514)の双方で有意な負の相関が認められた。その一方で、ω3PUFAの摂取量とO3iの関連は両群ともに非有意だった。

女性アスリートへの栄養指導にはPUFA摂取量ではなくDIIを評価

著者らは本研究のアスリート群の多くが陸上競技選手のため、結果解釈の一般化が制限されること、横断研究であることなどを限界点として挙げたうえで、以下のように結論づけている。

「DIIには食品中の催炎症性成分と抗炎症性成分の双方が反映される。われわれの研究結果は、ω3PUFA摂取量そのものを評価するよりもDIIのほうが、女性アスリートのO3iの予測において優れていることを示唆している。よって医療専門家とコーチは、女性アスリートのω3PUFA摂取量のみに頼るのではなく、DIIあるいはO3iに基づく栄養指導を検討する必要がある」。

文献情報

原題のタイトルは、「Association of Dietary Inflammatory Index with Omega-3 Index in Female Athlete」。〔J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2025;71(1):55-62〕
原文はこちら(J-STAGE)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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