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食習慣を含む生活習慣しだいで全身の慢性炎症を抑制できる可能性 日本人中高年1万人のデータ解析

中高年日本人を対象に行われた研究から、食習慣を含む複数の生活習慣因子を基に算出される酸化バランススコア(oxidative balance score;OBS)の高さが、高感度CRPなどの炎症マーカーと有意に逆相関することが明らかになった。抗酸化能に優れた食品を摂取していることが、全身の慢性炎症の抑制を介して種々の疾患リスク低減につながる可能性が示唆される。医薬基盤・健康・栄養研究所身体活動研究部の南里妃名子氏らの研究によるもので、「American Journal of Human Biology」に論文が掲載された。

食習慣を含む生活習慣しだいで全身の慢性炎症を抑制できる可能性 日本人中高年1万人のデータ解析

さまざまな生活習慣病のベースにある慢性炎症を生活習慣で抑制できるか?

近年、肥満症や糖尿病をはじめとする心血管代謝疾患の発症や進行において、全身の慢性炎症が中心的な役割を果たしていると理解されるようになってきている。全身の慢性炎症の強さは、年齢や生活習慣などのさまざまな要因によって変化し、とくに食生活の関与が注目されている。酸化ストレスを軽減する抗酸化能のあるカロテン、ビタミンC、Eなどは炎症反応を抑制し、反対に喫煙や鉄の摂取などは酸化ストレスを亢進させ炎症反応を高めると考えられている。また、食事を含む生活習慣因子の複雑な組み合わせは、個々の酸化促進因子や抗酸化因子を考慮する場合よりも、より強く疾患リスクと関連することが報告されており、酸化ストレスに対する複数のライフスタイル要因の累積的な影響を包括的に捉えるためのOBSが欧米を中心に開発されてきた。

実際これまでにも海外からは、OBSが炎症マーカーである高感度C反応蛋白(high-sensitivity C-reactive protein;hs-CRP)と逆相関することが報告されている。ただし、食習慣は人種/民族によって大きく異なり、また性別のデータ解析やhs-CRP以外の炎症マーカーでの検討は十分行われていない。これを背景として、南里氏らは、「日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)」の佐賀地方での研究のベースラインデータを用いた横断的解析を行った。

OBSと炎症との関連を性別に複数のマーカーを用いて解析

「J-MICC Study佐賀フィールド」は2005~07年に登録が行われ、40~69歳の一般住民1万2,068人が参加した。今回の研究では、登録時点で心血管疾患や癌、肝疾患、腎不全などの炎症レベルに影響を及ぼし得る疾患の罹患者、エネルギー摂取量が極端な人(男性は800~4,500、女性は500~3,500kcal/日から逸脱)、データ欠落者などを除外して、9,703人(男性40.2%)を解析対象とし、食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)により食習慣を把握したほかに、喫煙・飲酒習慣、身体活動量(加速度計による把握)などを調査した。

炎症レベルの評価には、hs-CRPのほかに、炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-6、IL-8、IL-15、および腫瘍壊死因子α(TNFα)を測定。それらのzスコアを合計した値を「炎症性zスコア」として解析に用いた。

酸化バランススコア(OBS)の計算方法

酸化バランススコア(OBS)は、以下のように算出した。

まず、カロテン、ビタミンE、C、血清フェリチン、n-3系およびn-6系多価不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸、身体活動量、飲酒、喫煙、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)など11項目について、それぞれの三分位に基づき3群に分類。そのうえで、酸化促進因子(BMI高値や飽和脂肪酸の摂取量が多いことなど)については最高三分位群を0点、最低三分位群を2点、中間の三分位群を1点とし、抗酸化因子(ビタミンC・Eの摂取量や身体活動量が多いことなど)はその逆にスコア付けして、合計点をOBSとした。

なお、飲酒については、習慣的飲酒なしが2点、エタノール換算で23g/日未満の飲酒が1点、23g/日以上の飲酒が0点、喫煙は、喫煙歴なしが2点、元喫煙者が1点、現喫煙者は0点、NSAIDは常用の有無で0点と2点とした。

これらの因子のうち、血清フェリチンと喫煙は酸化ストレスへの影響がとくに強いことから、これら二つを含める場合と除外する場合の2通りでOBSを算出した。

性別にかかわりなく、食習慣は全身の慢性炎症の規定因子

OBSの性別の四分位に基づき4群に群分けして比較すると、OBSが高い(酸化ストレスが低い)群は、男女ともBMIとエネルギー摂取量が低かった。年齢については、男性ではOBSが高い群は高齢だったが、女性はOBSとの有意な関連はみられなかった。なお、女性ではOBSが高い群ほど高血圧の有病率が低く、閉経後の人が少なかった。

OBSが高い群ほどhs-CRPが低く、炎症性zスコアと負の相関

年齢、エネルギー摂取量、BMI、高血圧・糖尿病・脂質異常症、(女性の場合)閉経前/後を調整後、男性・女性ともにOBSが高い群ほどhs-CRPが低いという、有意な傾向性が認められた。また、調整因子に血清フェリチンや喫煙状態を追加した解析でも、結果は同様だった(すべて傾向性p<0.01)。

炎症性zスコアとの関連をみると、男性は標準化偏回帰係数(β)が-0.067、女性は-0.075であり、やはりOBSが高いことが慢性炎症の低さと関連していた(ともにp<0.01)。個々のマーカーとの関連を検討すると、男性ではhs-CRPのほかにTNFαが、女性ではhs-CRPのほかにIL-15とTNFαが、OBSと逆相関していた。

以上からの結論として著者らは、「OBSが高いことは、性別に関係なく、hs-CRPレベルおよび全身性炎症を抑制することが示唆された。本研究結果から、OBSは、慢性炎症の決定要因として食事を含む生活習慣の役割を評価するのに有用である可能性がある」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association between oxidative balance score and inflammatory markers in middle-aged and older Japanese people」。〔Am J Hum Biol. 2024 Mar 11:e24059〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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