AI指標によると、健康寿命を伸ばすには1日9,000千歩、健康状態の改善には1万1,000歩 京都府立医科大学
1日の歩数と健康寿命の関係が明らかになった。健康寿命延伸につながるウォーキング目標歩数は1日9,000歩だという。京都府立医科大学大学院医学研究科などの研究チームが、AI指標を用いた研究により明らかにしたもので、「BMJ Health & Care Informatics」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。
研究の概要:AI指標で健康寿命と歩数との関連を検討
京都府立医科大学大学院医学研究科や京都府健康福祉部による研究グループは、全国の国民生活基礎調査票と国民健康・栄養調査票データをもとに、健康寿命のAI指標(HCAL)を用いて、1日歩数と健康寿命の関係を明らかにした。健康寿命延伸につながるウォーキング目標歩数は1日9,000歩であり、自覚的な健康状態を改善するための目標は1万1,000歩だという。研究チームでは、「この成果は国や自治体の健康寿命延伸を目指した保健医療政策や個人の健康増進に貢献することが期待される」としている。
論文の概要:健康寿命の延伸には身体活動の増加が重要
研究分野の背景や問題点:歩数と「健康寿命」の関連は不明だった
超高齢化社会を迎えているなか、平均寿命の延伸だけでなく、いかに健康に長生きできるかが重要な課題となっている。国民の健康増進のための基本的な方針である「健康日本21」や「循環器病対策推進基本計画」等においても、健康寿命の延伸が第一の目標として掲げられている。
研究チームではこれまでに、疾病負荷を統合した健康寿命の指標(health condition without activity limitations;HCAL)を、AI/機械学習を用いて開発し、健康寿命に大きな影響を与える要因が、うつ病などこころの病気、腰痛や骨折など筋骨格系の問題、脳神経疾患などであることを報告してきている。
健康寿命の延伸には身体活動の増加が重要であり、なかでもウォーキングは最も手軽にできる運動。心血管病発症は7,200歩/日、死亡は8,800歩/日まで、1日歩数が増加するに伴いリスクが低下することが、最近のメタ解析(複数論文の統合解析)で報告されている。しかし、1日歩数と健康寿命の関係については不明なままだった。
本研究では、全国の国民生活基礎調査票と国民健康・栄養調査票データをもとに、健康寿命のAI指標(HCAL)を用いて、1日歩数と健康寿命の関係を明らかにし、健康寿命を延伸するための1日のウォーキング目標歩数を提唱することを目指した。
研究内容・成果の要点:年齢や性別にかかわらず、目標は一緒
日本では国民生活基礎調査を行い、年齢別の日常生活での活動制限(主指標)や自覚的な健康状態(副指標)を生命表に組み入れて健康寿命を算出している。米国や英国でも、活動制限の有無や自覚的な健康状態について同様のアンケート調査を行うことで健康寿命を求めている。本研究では2019年の全国の国民生活基礎調査票と国民健康・栄養調査票の突合データのうち、成人4,957人分のデータを使用した。
活動制限と自覚的な健康状態を主要評価項目とし、健康寿命のAI指標(HCAL)を副次評価項目とした。国民生活基礎調査票の「あなたは現在健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という質問に対し、「はい」と答えた場合を「活動制限あり」、「いいえ」と答えた場合を「活動制限なし」とした。「あなたの現在の健康状態はいかがですか」という質問に対して、「よい・まあよい・ふつう」と答えた場合を「自覚的に健康」、「あまりよくない・よくない」と答えた場合を「自覚的に不健康」とした。
まず、1日歩数と健康寿命のAI指標(HCAL)との関係について、成人全体と65歳以上の人で調べたところ、年齢にかかわらず、1日歩数が増加するに従いHCALは増加し、やがてフラットになることがわかった(図1)。また、性別による違いはみられなかった(図2)。
図1 1日歩数と健康寿命のAI指標(HCAL)との関係
図2 性別ごとの1日歩数と健康寿命のAI指標(HCAL)との関係
次に、閾値推定の不確かさを最小化するためにブートストラップ法でデータを1,000倍に増幅し、多変量ロジスティック回帰モデルで解析を行った。説明変数は、先行研究でわかっていた健康寿命の要因である年齢、性別、40種の傷病、そして1日歩数とした。
1日歩数が増加すると、活動制限の調整オッズ比は減少し、やがてフラットになった。さらに隣り合う歩数間の調整オッズ比は、年齢にかかわらず9,000歩/日に達するまで95%信頼区間の上限が1.0未満で統計的に有意だった(図3)。また1日歩数が増加すると、自覚的な不健康状態の調整オッズ比は減少し、やがてフラットになった。調整オッズ比は年齢にかかわらず1万1,000歩/日に達するまで統計的に有意な値を示した(図4)。
図3 1日歩数と活動制限の関係
図4 1日歩数と自覚的な不健康状態の関係
今後の展開と社会へのアピールポイント
本研究により、1日の歩数と健康寿命の関係が明らかとなり、健康寿命を延伸するための目標値9,000歩/日と、自覚的な健康状態を改善するための目標値1万1,000歩/日を提唱することができた(表1)。これらの結果は年齢により変わらなかった。
表1 各指標における1日歩数の目標値
指 標 | 1日歩数の目標値 |
自覚的な健康状態(健康寿命の副指標) | 11,000歩 |
活動制限(健康寿命の主指標) | 9,000歩 |
死亡 | 8,800歩 |
心血管病発症 | 7,200歩 |
研究チームでは、「本研究成果は、国や自治体の健康寿命延伸を目指した保健医療政策や個人の健康増進に貢献できると考える。目標値に達しなくても、今より1歩でも多く歩くことが、健康寿命を延伸し、死亡や心血管病発症リスクを減少する。ただし、目標値を超えて歩いてもそれ以上の効果は期待できないことに留意が必要。また、健康寿命のAI指標(HCAL)は電子カルテや医療介護レセプトデータとの親和性も高く、研究やアプリケーションへの応用など今後もさまざまな用途で用いられると予想している」と述べている。
プレスリリース
【論文掲載】一日の歩数と健康寿命の関係が明らかに~健康寿命延伸につながるウォーキング目標歩数を提唱~(京都府立医科大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Association between daily step counts and healthy life years: a national cross-sectional study in Japan」。〔BMJ Health Care Inform. 2024 Apr 30;31(1):e101051〕
原文はこちら(BMJ Publishing)
https://informatics.bmj.com/content/31/1/e101051