全身冷却(WBC)の禁忌リストを国際冷凍学会が公表 80歳以上、心疾患、糖尿病、緑内障などが対象に
冷凍チャンバーを用いて全身を極低温に曝す「全身冷却刺激/療法」を行うべきではない「禁忌」のリストが、国際冷凍学会ワーキンググループと専門家パネルのポジションペーパーとして発表された。感染症、全身倦怠感、血圧高値/低値、妊娠、緑内障などが禁忌として掲げられている。
スポーツ医学領域でも広く利用されている全身冷却刺激/療法(WBC)
全身冷却刺激/療法(whole-body cryostimulation;WBC、全身クライオセラピー)は、冷凍チャンバーに短時間入り、全身を極低温で乾燥した空気に曝すという刺激療法。今回取り上げる論文のイントロダクションによると、WBCはもとはリウマチ性疾患の症状改善を目的に開発されたものであり、現在は主としてスポーツトレーニングに伴う筋損傷の抑制や回復の促進を意図して用いられている。また、スパ施設での利用も増加している。
これまでにWBCは、リウマチ、骨関節疾患、線維筋痛症、中枢感作に伴う疼痛、睡眠の質、認知機能、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状などに有効とする報告がされている。WBCに伴う有害事象は稀ながら、頭痛、めまい、反応性高血圧、蕁麻疹、悪寒の持続など知られている。ただしいずれも一時的なものとされている。脳内出血や大動脈解離の症例報告もあるが、既存のリスク因子が原因と考えられている。
しかし、近年、WBCがより多くの症状に対して用いられるようになってきたことで、医学的根拠に基づく禁忌リストの策定の必要性が高まっている。これを背景として、国際冷凍学会(International Institute of Refrigeration)のWBCに関するワーキンググループは、システマティックレビューとさまざまな領域の専門家によるデルファイ法に基づき、WBCの禁忌リストを作成した。
システマティックレビューによる禁忌候補事項の検索
文献データベース(PubMed、Scopus、Embase)に2023年2月28日までに収載された論文を対象として、全身冷却刺激/療法(WBC)に関する論文を検索。動物実験の報告や全文を入手できない論文は除外した。
一次検索で614報がヒットし、重複削除とスクリーニング、全文精査を経て、213報を適格と判断。それらの論文で、合計59項目が、WBCの禁忌として報告されていた。
デルファイ法による禁忌リストの決定
次に、これら59項目を禁忌リストに含めるか否かが、デルファイ法により検討された。なお、デルファイ法は、メタ解析の報告などのハイレベルなエビデンスが十分でない領域で何らかの指針を策定しようとする際に、ステートメントの候補を作成したうえで、それぞれについて合意と再検討を繰り返し、採否を決定する方法。
この検討のため、英国、フランス、イタリア、フィンランドなどの欧州諸国から、WBCの専門家のほか、リハビリテーション、心臓病学、神経学、内分泌学、腫瘍学、および臨床栄養学の専門家、計48名からなる学際的パネルが構成され、オンラインで討議が進められた。
第1ステージでは、5段階評価で3~5点との回答が70%以上となった項目を特定。この基準をクリアした56項目を第2ステージで検討し、「WBCの禁忌リストに含めるか否か」に「YES」または「NO」で回答してもらい、「YES」が80%を占めた項目を最終的に、禁忌リストに含めることとした。
全身冷却刺激/療法(WBC)の禁忌リスト(抜粋)
以下が特定された全身冷却刺激/療法(WBC)の禁忌事項の一部。全文は論文を参照のこと。
一時的な事項(回復後には禁忌でない事項)
急性疾患または感染症、血圧160/100mmHg以上または100/60mmHg未満、発熱、皮膚病変、過度の皮膚発汗、全身倦怠感、妊娠、重度貧血(ヘモグロビン8g/dL以下)、電解質異常、中等度から重度の血小板減少症、悪液質、抗腫瘍治療中、閉所恐怖症、寒冷不耐性。
一時的でない事項
- 一般:80歳超であり、インフォームドコンセントが得られない場合。
- 心血管系:虚血性心疾患、血行動態不安定、心筋炎/心膜炎/心内膜炎、管理不良の高血圧、弁膜症、非代償性心不全、肥大型心筋症、コントロール不良の不整脈、ペースメーカー/自動植込み型除細動器植え込み後、末梢動脈疾患、血管炎、肺塞栓症発症から6カ月以内、慢性片頭痛。
- 内分泌系:コントロール不良の甲状腺疾患、副腎機能低下症、1型糖尿病、管理不良の2型糖尿病または網膜症の合併。
- 免疫系:免疫疾患、血小板減少症。
- 臓器不全:慢性腎不全、重症慢性呼吸不全、活動性肺結核。
- 腫瘍:悪性黒色腫の存在または既往、未治療・制御不能または進行性の浸潤癌。
- 神経/精神系:神経栄養障害、慢性片頭痛、多発性神経障害、最近の脳卒中(12カ月未満)、てんかん/発作、インフォームドコンセントを得ることが困難な精神状態、認知症、アルコールやその他の精神活性物質への依存、自殺傾向。
- 皮膚科:化膿性/壊疽性の皮膚の病変。
- 眼科:緑内障。
なお、論文の結論部分には、「WBCの処方は、必ずしもこの禁忌リストに含まれていないリスク因子の可能性を考慮して行う必要がある」と記されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Contraindications to Whole-Body Cryostimulation (WBC). A position paper from the WBC Working Group of the International Institute of Refrigeration and the multidisciplinary expert panel」。〔Front Rehabil Sci. 2025 Apr 15:6:1567402〕
原文はこちら(Frontiers Media)