運動後の食欲低下の原因は睡眠の質の低さ? 国内女子学生アスリートで独立した関連が明らかに
トレーニング後の回復のため、食べなければならないとわかっていても、食欲が出ずに食べられない――この理由は、睡眠の質が低いためかもしれない。その可能性を示唆する、大東文化大学スポーツ・健康科学部の蕪木智子氏らの研究結果が「Sports」に掲載された。女子大学生アスリートを対象に行った横断研究から、睡眠の質の低さがトレーニング後の食欲低下と有意に関連していたという。

トレーニング後に食事を食べられる選手と食べられない選手は、何が違うのか?
運動後のエネルギー摂取は、回復の促進、筋タンパク質やグリコーゲンの合成による体づくり、健康の維持のために重要とされている。しかし、運動後には食欲が出ずにあまり食べられないというアスリートも少なくない。とくに学生アスリートは、学業とスポーツの両立のために、トレーニングの後に食事の時間を十分確保することが困難なことがあり、この課題がより重要となりやすい。さらに女子は、男子に比べて利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)に伴うパフォーマンスや健康への負の影響の懸念が大きくなりやすい。
一方、すべてのアスリートがトレーニング後に食欲低下を来すわけではなく、食べられるアスリートとそうでないアスリートが存在する。この差を生む原因として従来、消化管ホルモン分泌動態や消化管血行動態または自律神経活動の個人差などによるものだろうと解釈されてきた。しかし実際のところ詳細な理由は明らかではない。
以上を背景として蕪木氏らは、女子大学生アスリートを対象に、運動後の食欲低下の有無と、その関連因子を検討する横断的研究を行った。
3種類の競技、35人のアスリートを対象に、食欲、睡眠を含む15項目の質問
研究参加者は、バスケットボール部、サッカー部、スピードスケート部のいずれかに所属し、1年以上活動している女子大学生アスリート。これら3競技は、屋内競技、屋外競技、寒冷環境下での競技の差異を考慮するという意図から選ばれた。
計35人(スピードスケート11人、その他の2競技は各12人)が、webベースの15項目の質問に匿名で回答した。質問の内容は、生活習慣(喫煙・飲酒習慣、食事や間食の摂取頻度・摂取量)、ストレスレベル、ストレス耐性、身体症状(腹痛、下痢、頭痛、倦怠感)、睡眠時間、睡眠の質、運動後の食欲低下、日常における食欲不振などだった。
これらの質問項目の中には標準化された質問票が存在するものもあるが、回答者の答えやすさを優先し、いずれも簡単な選択肢から選択するのみとした。例えば睡眠の質についてはピッツバーグ睡眠質問票を用いずに、「自分の睡眠の質はどの程度だと思うか?」という質問と、「良い」「悪い」「どちらとも言えない」という選択肢を設け、その回答を主観的な評価として解析に用いた。
女子学生アスリートの4人に3人は、運動後の食欲低下を経験している
運動後の食欲低下は、「頻繁にある」が3人、「時々ある」が23人、「全くない」が9人だった。この後の解析に際しては、前二者を統合し26人(74.3%)を「運動後の食欲低下を経験している」アスリートとして、食欲低下を経験していない9人(25.7%)と比較された。
行っている競技は運動後の食欲低下に関係がない
運動後に食欲低下を経験しているアスリートの割合を競技別にみると、いずれも約4人に3人の割合(72.7~75.0%)であり、有意差は観察されなかった(p=0.881)。このことから、運動後の食欲低下の原因が、行っている競技の違いによるものとは考えにくく、個人差によるものである可能性が高いと推測された。
運動後の食欲低下と有意な関連があるのは、睡眠の質の低下と下痢症状
次に、15項目の質問で把握された生活習慣や身体症状などの回答が、運動後の食欲低下の有無で異なるかが検討された。
その結果、主観的な睡眠の質の低さと下痢症状の2項目で有意差が認められた。具体的には、睡眠の質が低い(悪い+どちらとも言えない)場合は、運動後の食欲低下のオッズ比(OR)が11.63(95%CI;1.90~73.64)、下痢症状を経験している(頻繁に+時々)場合はOR25.61(1.33~492.9)だった。ただし、下痢症状に関しては、下痢を経験するアスリートの中に運動後の食欲低下の経験がないアスリートがいなかったため(0人)、ハルデイン-アンスコム補正(0.5を追加する)によりオッズ比を算出していることから、著者らは「慎重な解釈を要する」と記している。
睡眠の質と下痢症状以外に評価されていた、腹痛、倦怠感、睡眠時間、日常における食欲不振、ストレスなどはすべて、運動後の食欲低下がある群とない群で有意差がなかった。
トレーニング後の食欲低下は急性反応ではなく、日々の生活の影響である可能性
続いて、探索的な検討として、運動後の食欲低下を従属変数とするロジスティック回帰分析を実施。独立変数には、上記の解析で有意差のみられた「睡眠の質の低さ」、および「日常生活における食欲不振」を加えた。下痢症状については信頼性が低いことから独立変数に加えなかった。
解析の結果、睡眠の質の低さは運動後の食欲低下に独立した有意な関連が認められた(OR9.68〈1.51~61.93〉)。日常生活における食欲不振は、関連が有意でなかった(OR2.44〈0.40~14.79〉)。
著者らはこれらの結果を総括して、「運動後の食欲低下は急性の生理学的メカニズムのみで説明できるものではなく、より広範な生活習慣関連因子の影響を受けて生じることが示唆される。とくに主観的な睡眠の質の低さが重要な因子の可能性がある。睡眠の質をモニタリングすることが、回復遅延やLEAなどのリスクのあるアスリートの特定に役立つのではないか」と結論づけている。
一方、限界点として、横断研究であること、サンプルサイズが小さく単一の大学の学生を対象としていること、すべて自己申告の評価に基づき解析していることなどを挙げ、「本研究は探索的なものであり、結果は仮説の生成と解釈すべきで、より大規模な縦断的研究による検証が必要」としている。
文献情報
原典論文のタイトルは、「Subjective Sleep Quality Is Associated with Post-Exercise Appetite Loss in Female University Athletes: An Exploratory Cross-Sectional Study」。〔Sports (Basel). 2026 Apr 16;14(4):157〕
原文はこちら(MDPI)







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