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月経異常のある女性アスリートは運動後に血圧がより大きく低下する

運動後には血圧が低下することが知られているが、稀発月経や無月経の女性アスリートでは、より大きな血圧変動が生じている実態が報告された。独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)国立スポーツ科学センター(JISS)の中村真理子氏らの研究によるもので、論文が「JSAMS Plus」に掲載された。著者らは、「起立不耐性によるめまいや転倒リスクなど、安全上の懸念も考えられる」と述べている。

月経異常のある女性アスリートは運動後に血圧がより大きく低下する

女性アスリートの運動後の血圧低下に、月経異常が影響する?

運動後にみられる血圧の低下は「運動後低血圧(post-exercise hypotension;PEH)」と呼ばれる。そのメカニズムは明らかでないが、一時的な交感神経抑制による血管拡張、心拍出量低下、圧受容器反射の変化などが関与していると考えられている。

先行研究によると、女性アスリートの場合、卵巣ホルモン濃度によってPEHの程度が異なり、卵胞期後期や黄体期中期には卵胞期初期より血圧の低下幅が小さくなると報告されている。これは、卵巣ホルモンが運動後の血圧変動に対して緩衝的に働くという仮説と一致する。そのため、卵巣ホルモン分泌が慢性的に低下している無月経(または月経異常)女性では、この緩衝作用が得られないために、大きなPEH応答が生じている可能性がある。しかし、それを実際に検証した研究は過去に報告されていない。

持久系競技の女性アスリートでは、月経異常の有病率が高い。仮に月経異常によってPEHに伴う血圧低下がより増強されるのであれば、持久系アスリートではトレーニング後のめまいやそれに伴う転倒リスクへの留意が必要になると考えられる。

中村氏らは以上を背景として、持久系学生アスリートを月経異常の有無により二分し、運動負荷後の血圧や血行動態が異なるかを検討した。

研究対象と評価項目

研究参加者は18人で全員陸上競技選手であり、血圧が正常域、服薬をしていない非喫煙者で、トレーニング量は週に6±0.2日、1日あたり3.1±0.2時間だった。月経周期により正常月経群(10名)と月経異常群(8名〈うち稀発月経2名、無月経6名〉)に分けた。

自転車エルゴメーターを用いた漸増負荷試験により疲労困憊に至るまで運動を継続し、運動負荷前(ベースライン)、負荷終了15分後、30分後、60分後に血圧を測定した。また、血行動態関連指標として、心拍出量、全末梢血管抵抗、圧受容器反射感受性を測定した。

ホルモン濃度は、正常月経群については月経開始後4~8日の卵胞期初期(卵巣ホルモン濃度が低値となる時期)に、卵巣ホルモン(エストラジオール、プロゲステロン)、および黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモンを測定した。一方、月経異常群は任意の時期にそれらを測定した。

月経異常のある持久系アスリートは、運動後低血圧(PEH)がより顕著

正常月経群と月経異常群との間で、年齢(18.2±0.4 vs 18.9±0.6歳)、BMI(19.6±1.1 vs 20.1±2.8)、VO2max(59.4±5.7 vs 56.8±6.7mL/kg/min)に有意差はなかった。また、測定した4種類のホルモン濃度にも有意差はみられなかった。

運動負荷前から負荷終了60分後までの血圧の絶対値と変動の比較

収縮期血圧(systolic blood pressure;SBP)、拡張期血圧(diastolic blood pressure;DBP)、平均動脈圧(mean arterial pressure;MAP)はいずれも、両群において運動負荷終了後に低下するという有意な時間効果が観察された(すべてp<0.01)。つまり、月経異常の有無にかかわらずPEHが生じることが確認された。

ただし、PEHの程度には群間差が認められた。SBP、DBP、MAPごとの詳細は以下のとおり。

SBP

SBPの絶対値はベースラインから負荷終了後までいずれの時点でも、有意な群間差がなかった。時間×群間については境界域の有意性が示され(p=0.053)、月経異常群で運動負荷後の血圧低下幅が大きい傾向にあった。

DBP

DBPの絶対値はベースラインにおいて月経異常群のほうが有意に高く(55±3 vs 58±4mmHg)、負荷終了30分後の値も月経異常群のほうが有意に高かった(52±4 vs 55±3mmHg)。その他の時点では有意差がなかったが、全体として境界域の群間差が認められ(p=0.05)、両群の血圧推移が異なる傾向がみられた。

時間×群間は有意であり(p=0.017)、またベースラインから負荷終了60分後までの絶対値の低下幅は、月経異常群のほうが有意に大きかった(-1.5±2.2 vs -5.3±3.7mmHg、p<0.05)。

MAP

MAPの絶対値はベースラインにおいて月経異常群のほうが有意に高く(70±4 vs 74±4mmHg)、その他の時点では有意差がなかった。全体として群間差は非有意だったが(p=0.09)、時間×群間は有意であり(p=0.047)、両群で異なる血圧推移を示した。また、ベースラインから負荷終了60分後までの絶対値の低下幅は、月経異常群のほうが有意に大きかった(-2.0±2.1 vs -6.0±3.4mmHg、p<0.05)。

血行動態関連指標の比較

血行動態の把握のために測定した心拍出量、全末梢血管抵抗、圧受容器反射感受性については、両群ともに有意な時間効果が認められた。ただし、群間差はいずれも非有意だった。このことから、月経異常の有無での比較で観察されたPEHの程度の差には、全身の血行動態の指標では把握できないメカニズムが関与している可能性が示唆された。

安全対策の検討とメカニズムの解明が望まれる

著者らは、「本研究により、正常月経のアスリートと比較して月経異常のあるアスリートでは、運動後により顕著なPEHを示すことが初めて実証された」と述べている。

限界点として、正常月経群は卵胞期初期のみに測定しており、月経周期のほかの時期と比較した場合、月経異常群のPEHとどの程度異なるのかが不明なことなどを挙げたうえで、「月経異常のあるアスリートは、運動後の血圧の大きな低下とそれによる起立不耐性を生じさせる可能性があり、メカニズムの解明のためさらなる研究が必要とされる」と結論づけている。

文献情報

原典論文のタイトルは、「Enhanced post-exercise hypotension in female athletes with menstrual disorders」。〔JSAMS Plus. 2026 Mar 5:7:100137〕
原文はこちら(Elsevier)

参考情報

ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)では女性アスリートの研究・支援プロジェクトを実施しています。
女性アスリート研究・支援プロジェクト
Female Sport ナビ

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