睡眠不足が運動能力に及ぼす影響を検証 起床時刻が早い睡眠不足は瞬発力や筋力低下に直結
睡眠不足によるスポーツパフォーマンスへの影響に関するシステマティックレビューとメタ解析の結果が報告された。アスリートと非アスリートによる違い、就寝時刻が遅いのか起床時刻が早いのかの違い、評価のタイミングが午前中か午後かの違い、持久力、スピード、瞬発力、筋力などによる影響の違いが明らかにされている。
さまざまなパターンの睡眠不足によるさまざまな影響をメタ解析で検討
睡眠不足がスポーツパフォーマンスにマイナスの影響を及ぼすことが広く認識されるようになってきた。そのエビデンスも蓄積されている。しかし、個々の研究報告は少なくないものの、研究対象や評価指標、睡眠不足の程度やパターンが異なり、影響の有無や程度の包括的な理解が制限されていた。これを背景として今回紹介する論文の著者らは、先行研究のエビデンスを総括する研究手法である、システマティックレビューとメタ解析を行った。
文献検索について
PubMed、Cochrane、Embase、Web of Science、EBSCOなどの文献データベースに、それぞれの開始から2024年9月までに収載された、ヒトを対象に対照群・条件を設けて睡眠不足によるスポーツパフォーマンスへの影響を検討した無作為化比較試験の結果を、査読システムのあるジャーナルに英語で発表している論文を検索。ヒットした報告の参考文献のハンドサーチも行った。カフェインなどの覚醒作用のある物質の影響を評価した研究、動物実験、レビュー論文、レター、学会発表などは除外した。
一次検索で1万8,104報がヒットし、ハンドサーチで23報を追加した1万8,127報から重複削除後の1万3,544報を、タイトルと要約に基づき2名の研究者が独立してスクリーニングを実施。意見の不一致は3人目の研究者の判断により解決した。85報を全文精査の対象とし、最終的に45件の研究報告を適格と判断した。
抽出された研究報告の特徴
研究参加者数は合計670人で、28件はアスリート対象研究、17件は健康な非アスリート対象研究だった。年齢は15~40歳の範囲だった。7件の研究は対象集団や介入期間などの異なる2回の研究を行っていた。
評価されていたパフォーマンス指標は、有酸素性持久力、無酸素性持久力、瞬発力、最大筋力、スピードなど。これらについて、全研究報告およびアスリート対象の研究報告、非アスリート対象の研究報告を対象とするメタ解析が行われ、また、睡眠不足のパターン(完全な徹夜、就寝時刻が遅い睡眠不足、起床時刻が早い睡眠不足、時刻が特定されない睡眠不足)の違いの影響、および、午前中にパフォーマンスを評価した研究と午後に評価した研究の違いを考慮した、サブグループ解析も行われている。
起床時刻が早いことによる睡眠不足や、午後のパフォーマンスへの影響が大きい傾向
有酸素性持久力
16件の研究のメタ解析で、睡眠不足は有酸素性持久力の有意な低下と関連していた(標準化平均差〈SMD〉=-0.76〈95%CI;-1.27~-0.25)〉、p=0.003、異質性〈I2〉=84%)。
サブグループ解析から、アスリート(SMD=-0.66〈-1.28~-0.04〉、p=0.04)、非アスリート(SMD=-1.02〈-1.84~-0.21〉、p=0.01)ともに有意な影響がみられた。
睡眠不足のパターンの違いに着目すると、完全な徹夜では有酸素性持久力の有意な低下がみられた(SMD=-0.56〈-1.08~-0.05〉、p=0.03)。それに対して、就寝時刻が遅い(p=0.09)、起床時刻が早い(p=0.58)、およびその他のパターン(p=0.16)の睡眠不足では、有意な影響はみられなかった。
パフォーマンス評価を午後に行った研究では、有酸素性持久力の有意な低下がみられた(SMD=-1.4〈-2.47~-0.34〉、p=0.01)。それに対して、午前中にパフォーマンス評価を行った研究では、有意な影響はみられなかった(p=0.08)。
無酸素性持久力
8件の研究のメタ解析で、睡眠不足は無酸素性持久力とは有意な関連がみられなかった(SMD=-0.08〈-0.38~0.22〉、p=0.6、I2=50%)。
サブグループ解析の結果もすべて非有意であり、アスリートか非アスリートか、睡眠不足のパターン、パフォーマンス評価のタイミングが午前中か午後かにかかわらず、いずれも無酸素性持久力への有意な影響はみられなかった。
瞬発力
23件の研究のメタ解析で、睡眠不足は瞬発力の有意な低下と関連していた(SMD=-0.46〈-0.7~-0.21〉、p=0.0002、I2=69%)。
サブグループ解析から、アスリート(SMD=-0.63〈-0.94~-0.33〉、p<0.00001)には有意な影響がみられたが、非アスリート(p=0.9)への影響は観察されなかった。
睡眠不足のパターンの違いに着目すると、起床時刻が早いことによる睡眠不足は、瞬発力の低下と関連していた(SMD=-1.04〈-1.58~-0.5〉、p=0.0002)。しかし、完全な徹夜(p=0.07)、および、就寝時刻が遅いこと(p=0.27)、またはその他のパターンの睡眠不足(p=0.79)は、瞬発力に対する有意な影響がみられなかった。
パフォーマンス評価を午後に行った研究では、瞬発力の有意な低下がみられた(SMD=-0.68〈-0.58~-0.5〉、p=0.0002)。それに対して、午前中にパフォーマンス評価を行った研究では、有意な影響はみられなかった(p=0.08)。
最大筋力
10件の研究のメタ解析で、睡眠不足は最大筋力の有意な低下と関連していた(SMD=-0.24〈-0.4~-0.09〉、p=0.002、I2=0%)。
サブグループ解析から、アスリート(SMD=-0.35〈-0.56~-0.14〉、p=0.001)には有意な影響がみられたが、非アスリート(p=0.42)への影響は観察されなかった。
睡眠不足のパターンの違いに着目すると、起床時刻が早いことによる睡眠不足は、最大筋力の低下と関連していた(SMD=-0.5〈-0.94~-0.19〉、p=0.003)。しかし、完全な徹夜(p=0.15)、および、就寝時刻が遅いことによる睡眠不足(p=0.17)は、最大筋力に対する有意な影響がみられなかった。
パフォーマンス評価を午後に行った研究では、最大筋力の有意な低下がみられた(SMD=-0.3〈-0.51~-0.09〉、p=0.005)。それに対して、午前中にパフォーマンス評価を行った研究では、有意な影響はみられなかった(p=0.15)。
スピード
4件の研究のメタ解析で、睡眠不足はスピードの有意な低下と関連していた(SMD=-0.58〈-0.95~-0.2〉、p=0.003、I2=61%)。
サブグループ解析から、アスリート(SMD=-0.52〈-0.83~-0.22〉、p=0.0008)には有意な影響がみられたが、非アスリート(p=0.31)への影響は観察されなかった。
睡眠不足のパターンの違いに着目すると、起床時刻が早いことによる睡眠不足は、有意なスピードの低下と関連していた(SMD=-0.78〈-1.35~-0.2〉、p=0.008)。就寝時刻が遅いことによる睡眠不足は、境界域の関連がみられた(SMD=-0.57〈-1.15~0.01〉、p=0.05)。一方、完全な徹夜はスピードに対して有意な影響がみられなかった(p=0.22)。
パフォーマンス評価を午前中に行った研究では、スピードの有意な低下がみられた(SMD=-0.81〈-1.5~-0.1〉、p=0.03)。それに対して、午後にパフォーマンス評価を行った研究では、有意な影響はみられなかった(p=0.15)。
コントロールスキル
サーブの正確さなどのコントロールスキルについて、4件の研究のメタ解析の結果、睡眠不足はその有意な低下と関連していた(SMD=-0.87〈-1.7~-0.04〉、p=0.04、I2=90%)。なお、コントロールスキルに関する研究の対象はすべてアスリートであり、非アスリート集団では検討されていなかった。
睡眠不足のパターンの違いに着目すると、完全な徹夜はコントロールスキルに有意な影響を与えていなかった(p=0.98)。しかし、就寝時刻が遅いことによる睡眠不足(SMD=-2.12〈-3.01~-1.24〉、p<0.00001)と、その他のパターンの睡眠不足(SMD=-0.83〈-1.55~-0.11〉、p=0.02)は、コントロールスキルの有意な低下と関連していた。
パフォーマンス評価を午後に行った研究では、コントロールスキルの有意な低下がみられた(SMD=-2.12〈-3.01~-1.24〉、p<0.00001)。それに対して、午前中にパフォーマンス評価を行った研究では、有意な影響はみられなかった(p=0.55)。
自覚的運動強度(RPE)
12件の研究のメタ解析で、睡眠不足は自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)の有意な上昇と関連していた(SMD=0.51〈0.2~0.82〉、p=0.001、I2=62%)。
サブグループ解析から、アスリート(SMD=0.39〈0.11~0.66〉、p=0.006)には有意な影響がみられたが、非アスリート(p=0.07)への影響は観察されなかった。
睡眠不足のパターンの違いに着目すると、完全な徹夜はRPEの上昇と関連がなかったが(SMD=0.37〈-0.72~1.45〉、p=0.51)、就寝時刻が遅いこと(SMD=0.47〈0.02~0.92〉、p=0.04)や起床時刻が早いこと(SMD=0.6〈0.17~1.02〉、p=0.006)、およびその他のパターン(SMD=0.62〈0.06~1.18〉、p=0.03)による睡眠不足は、RPEの有意な上昇と関連していた。
パフォーマンス評価のタイミングに関しては、午前中に行った研究(SMD=0.44〈0.01~0.86〉、p=0.04)と午後に行った研究(SMD=0.72〈0.20~1.24〉、p=0.007)の双方で、RPEの有意な上昇が認められた。
以上に基づき著者らは、「睡眠不足は有酸素性持久力、筋力、スピード、スキルコントロールを有意に低下させ、自覚的運動強度(RPE)を増大させることが明らかになった。その影響はとくに、午後のパフォーマンス、および、起床時刻が早いことによる睡眠不足において、より顕著だった。アスリートのパフォーマンスと健康を最適化するために、十分な睡眠を確保することが不可欠である」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of sleep deprivation on sports performance and perceived exertion in athletes and non-athletes: a systematic review and meta-analysis」。〔Front Physiol. 2025 Apr 1:16:1544286〕
原文はこちら(Frontiers Media)