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持久力運動中の糖質摂取量の設定に体格を考慮すべき根拠 体格によって糖酸化速度に有意な違い

スポーツ栄養に関する現行の主要なガイドラインでは、持久力運動中の糖質摂取量について、体重を問わず、単位時間あたりの摂取量を示した推奨がなされている。このような推奨に疑問を投げかける研究結果が昨年、国際スポーツ栄養学会発行の「International Journal of Sport nutrition and Exercise Metabolism」に掲載されている。英国とスペインの研究者の報告。要旨を紹介する。

持久力運動中の糖質摂取量の設定に体格を考慮すべき根拠 体格によって糖酸化速度に有意な違い

持久力運動中の糖質摂取量の推奨のこれまでの変化と著者らの仮説

長時間運動中の糖質補給は、持久力パフォーマンス向上戦略の一つとして確立されている。論文のイントロダクションではまずこの戦略について、これまでの考え方の変化が概説されている。それによると、現行のガイドライン等の推奨に至るまでに以下のような変遷があっという。

過去のガイドライン等では、持久力運動中の糖質摂取量の設定に関して、体重を考慮することが示されていた。例えば、「体重1kg、1時間あたり0.7gの糖質摂取(0.7g/kg/時)」といった推奨が掲げられていた。しかし、外因性(運動中に摂取する)糖質の酸化速度は体重と関連がないことなどの報告がなされたことから、現在では例えば「1時間あたり30~60g、より長時間の運動では90g/時」といった推奨がなされるようになった。

一方、本論文の著者によると、外因性糖質の酸化速度と体重が相関しないとした報告は、その相関を検討することを主目的とした研究で実施されたものではない研究の二次解析で得られた結果だという。そのために、被験者の体重が狭い範囲に分布していて、相関の検討に適したものでなかった可能性があるとのことだ。

これに対して、外因性糖酸化速度を規定する主要な因子は腸管における糖質の吸収速度であり、腸管での糖質の吸収速度は小腸の表面積に比例し、小腸の表面積は種を超えて体格に比例するというエビデンスがある。よって、体格が大きい個人は時間あたりの糖質吸収量が多いと考えられ、結果として外因性糖酸化速度も速い可能性がある。

このような理論的背景の基もと著者らは、体格の大きいアスリートの方が体格の小さいアスリートよりも、外因性糖酸化率が高いという仮説を立て、以下の検討を行った。

体重70kg未満/以上で二分して持久力運動中の糖酸化率を比較

研究対象は、英国内から募集された、レクリエーションレベルのサイクリストまたはトライアスリート20人(女性2人)。研究参加の適格条件は、年齢18~60歳、VO2peak40~75mL/kg/分で、中等強度のサイクリングを2時間連続可能なこと、脂肪量指数(fat-mass index;FMI)5.5kg/m2未満などであり、除外条件は、低炭水化物高脂肪食の実践者、妊娠中・授乳中、クローン病や大腸炎などの消化管疾患、糖尿病などの代謝性疾患。

体重(70kg未満/以上)に基づき2群に分類。後述のテストをすべて完了したものは15人で、内訳は、体重70kg未満のsmall群が9人(女性2人)、体重70kg以上のlarge群は6人(全員男性)となった。この2群を比較すると、年齢、体脂肪率、体重補正した乳酸閾値およびVO2peakは有意差がなかった。一方、身長、体重、除脂肪量、乳酸閾値およびVO2peakの絶対値はlarge群の方が有意に高かった。3日間の食事記録から栄養素摂取量は、タンパク質はlarge群、食物繊維はsmall群が有意に多く、その他は有意差がなかった。

検討方法

研究ではまず、自転車エルゴメーターを用いて参加者個々の乳酸閾値を測定。次に、small群に対して、第一乳酸閾値の95%で120分間の負荷試験を実施。一方、large群に対しては、試行順序を無作為化したうえで、small群と絶対強度が一致する条件、および、個人の第一乳酸閾値の95%の強度という2条件で、120分間の負荷試験を実施した。すべての試行は一晩絶食後に行われた。またlarge群では最初の試行の直前72時間に摂取したものと身体活動を記録してもらい、2番目の試行の前にそれを再現してもらった。

負荷試験開始直前に、42g(14%、300mL)のブドウ糖溶液を摂取し、その後、負荷中は15分ごとに20g(140mL)を摂取。平均摂取速度は1.5g/分(2時間で合計180g)とした。外因性糖酸化率計測のため、ブドウ糖は安定同位体である炭素13で標識した。負荷中には30分ごとに呼気および血液を採取し、VO2、VCO2や代謝関連マーカーを測定。また主観的な運動強度と不快感を報告してもらった。

体格差が大きい集団では、その差を考慮した糖質補給戦略が必要な可能性

large群の負荷中の運動強度(W)やVO2、VCO2は、体重補正しない場合、乳酸閾値の95%の強度という条件ではsmall群より有意に高値だった。それに対して、運動強度をsmall群の絶対値にあわせる条件では、small群と有意差がなかった。

そしてlarge群の外因性糖酸化率は、乳酸閾値の95%の強度ではsmall群と比較して有意に高かった(平均差13g/時〈95%CI;2~24〉、p=0.03)。これは、small群に含まれていた女性2人を除外した感度分析、および、large群の中で最も体格の大きい男性を除外した感度分析でも、同様の結果だった。一方、large群の負荷強度をsmall群の絶対値にあわせて下げる条件では群間差が非有意だった(平均差13g/時〈95%CI;-1~27〉、p=0.07)。

また、外因性糖酸化率と体格(身長、体重、体表面積)との間に有意な相関が認められた。例えば、体表面積は外因性糖酸化のピーク値との相関が、r=0.85(95%CI;0.51~0.95)だった。

必要に応じてガイドラインの推奨のアレンジを考慮すべきか

これらの結果を基に著者らは、「体格の大きいアスリートは、体格の小さいアスリートよりも、運動中に外因性の糖質を酸化する能力が高いことを示している。この差が絶対的な運動強度の差にどの程度寄与しているのかという点については、さらなる研究が必要だが、持久力運動中に糖質の可用性を最大化しようとする場合に、現行のスポーツ栄養ガイドラインの推奨をアレンジして、体重に基づき調整したほうが、アスリートにとって有益かもしれない」と結論づけている。

文献情報

原題のタイトルは、「Exogenous Glucose Oxidation During Exercise Is Positively Related to Body Size」。〔Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2024 Sep 27;35(1):12-23〕
原文はこちら(Human Kinetics)

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