BCAA+ビタミンD摂取と運動介入が、高齢者の除脂肪体重を維持し身体機能を改善
60歳以上の日本人を対象に、運動介入にBCAAとビタミンDのサプリメントによる栄養介入を並行して行ったところ、除脂肪体重が維持され身体機能が向上したとする研究結果が「BMC Geriatrics」に掲載された。宮崎大学医学部整形外科の横江琢示氏らによるもので、高齢者のサルコペニアやロコモティブシンドロームの予防戦略の確立につながる知見と言える。
運動とBCAA、ビタミンDの複合的な効果を探る
急速な高齢化を背景に、サルコペニアやロコモティブシンドローム抑制のための公衆衛生対策の重要性が増している。これまでの研究から、運動介入と栄養介入の有用性が示唆されており、後者については筋タンパク質の同化刺激作用のある分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acids;BCAA)、および、骨代謝や筋肉機能の改善作用のあるビタミンDに関するエビデンスが蓄積されてきている。
ただし、現在までのエビデンスの多くは、それらの介入効果を個別に検討した研究結果が多く、複合的な影響については十分に検討されていない。横江氏らはこの点を明らかにするため、以下の研究を行った。
宮崎県の三つの自治体の住民を対象として、居住地域ごとに3通りの介入
この研究には、宮崎県内の三つの自治体から募集された、60歳以上でロコモティブシンドロームに該当する地域住民247人が参加登録された。このうち、元プロスポーツ選手、日常的に運動を継続している人を除外。また、医師が研究参加に不適と判断した人やプロトコルからの脱落者などを除外し、12週間の介入を終了した121人が解析対象とされた。
居住している自治体によって、運動介入のみを行う地域(解析対象者45人)、運動介入と栄養介入を並行して行う地域(同45人)、および介入なし(週1回の電話連絡のみ)の地域(31人)という3群に分類した。つまり、介入の割り付けは無作為化されていなかった。ただし、ベースライン時点で、年齢、性別の分布、BMI、疾患既往歴、疼痛の有無、ロコモティブシンドロームの重症度(Geriatric Locomotive Function Scale-25;GLFS-25〈ロコモ度〉)などは3群間に有意差がなく、後述する三つの評価項目についても有意差がなかった。
介入方法
運動介入の内容は、開眼片足立ち、スクワット、かかとの上げ下げ、フロントランジなどを1日3機会実施することとした。
栄養介入も行う群では、毎日いずれかの運動機会の終了後30分以内に、BCAAとビタミンDを主成分とするサプリメント(大塚製薬「ボディメンテゼリー」)の摂取を指示した。
これらの介入を行う2群には、週1回電話連絡を行い、遵守状況を確認した。
評価項目
評価項目は、除脂肪体重、身体機能(立ち上がりテスト、2ステップテスト)、GLFS-25(ロコモ度)、および血清25(OH)Dとした。
これらのうち、立ち上がりテストは、高さ40cm、30cm、20cm、10cmという4種類の椅子から立ち上がるテストで、より低い高さの椅子から立ち上がれるほど身体機能が優れていると判定する。本研究では先行研究に従い0~8点にスコア化して評価した。
2ステップテストは、できるだけ大股で2歩歩き、その距離を身長で除した値が大きいほど身体機能が優れていると判定する。
GLFS-25は25項目からなる自記式質問票で、0~100点の範囲でスコア化され、スコアが低いほどロコモが重症と判定する。
運動+栄養介入は除脂肪体重と身体機能の維持・改善につながる
前述のように、ベースライン時点ではすべての評価項目の群間差が非有意だったが、3カ月の介入により、以下のような差が生じていた。
除脂肪体重:運動+栄養介入群は有意な変化がなく、他の2群は有意に減少
全身の除脂肪体重は、運動介入群(-0.64±1.33kg、p=0.002)と対照群(-0.74±1.15kg、p=0.001)では有意に減少していた。それに対して運動+栄養介入群は有意な変化が生じていなかった(-0.14±1.15kg、p=0.418)。
部位別にみると、左右の上肢および体幹の除脂肪量は、対照群では有意に減少し、運動介入群、および、運動+栄養介入群の変化は非有意だった。左右の下肢については、対照群と運動介入群は有意に減少し、運動+栄養介入群の変化は非有意だった。また、左下肢については、3カ月の介入前後の変化量に有意差が認められ、運動+栄養介入群の変化量が少なかった(分散分析p=0.047)。
身体機能:立ち上がりテスト、2ステップテストともに介入後に有意差が観察される
介入後の立ち上がりテストのスコアは、対照群3.52±1.26点、運動介入群3.84±1.17点、運動+栄養介入群4.22±1.06点であり、3群間の有意差が認められた(分散分析p=0.033)。また、運動+栄養介入群のスコアは対照群より有意に高かった。
介入後の2ステップテストの値にも3群間の有意差が認められ(分散分析p=0.004)、対照群1.182±0.130、運動介入群1.286±0.155、運動+栄養介入群1.268±0.123であった。また、運動介入群、および、運動+栄養介入群は、対照群に比べ有意に高値だった。
運動とBCAA・ビタミンDの栄養介入が、加齢による筋量や身体機能の低下抑制に有用
上記以外の評価項目であるGLFS-25には、有意な群間差はみられなかった。血清25(OH)Dについては、対照群では有意な変化がなく、運動介入群では有意に低下、運動+栄養介入群では有意に上昇し、介入後の3群間の値に有意差があった(分散分析p<0.001)。
著者らは本研究について、介入条件が無作為化されていないこと、栄養介入のみの群が設定されていないことなどを限界点として挙げたうえで、「運動介入とBCAAおよびビタミンDサプリメントを用いた栄養介入を組み合わせることで、身体機能低下リスクのある高齢者の筋肉量を維持し身体機能を向上し、血清ビタミンDレベルを改善できることが示された」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of branched-chain amino acid- and vitamin D-containing high-protein food supplementation plus exercise on elderly people with decreased physical functions」。〔BMC Geriatr. 2025 Jul 5;25(1):500〕
原文はこちら(Springer Nature)