オーバーユース障害のリスクが高い高校バスケ選手の特徴が明らかに 国内男子エリート校で調査
オーバーユース障害を来しやすい男子高校生バスケットボール選手の特徴が報告された。クラスター分析の結果、骨格筋量指数(SMI)や垂直跳びの記録が低く、トレーニング時間が長いという三つの特徴を併せもっている選手のリスクが高いことが明らかにされている。和歌山リハビリテーション専門職大学健康科学部リハビリテーション学科の山下裕氏らによる研究の結果であり、「Cureus」に論文が掲載された。
キャリアを左右しかねないオーバーユース障害のリスク因子を包括的に探る
オーバーユース障害は組織への反復する負荷により徐々に発症する。バスケットボールはジャンプや急な方向転換・停止などが繰り返される高強度スポーツであり、また高校生は骨格が未熟でかつ急な成長期にあたり、競技スキルも短期間で大きく変わるため、オーバーユース障害のリスクが高い。オーバーユース障害は、トレーニングの制限、試合参加機会の喪失、さらにはキャリアの短縮にもつながり得るため、予防的介入が重要とされる。
これまでにもオーバーユース障害のリスク因子に関する研究は行われてきているが、限られた因子との関連のみを検討した報告が多い。実際には、単一の原因でオーバーユース障害が発症するということは少なく、複数の因子が相互に作用してリスクを押し上げていると考えられる。そのため、有効性の高い予防戦略の確立には、関連するリスク因子を総合的に評価したうえでクラスタリングを行い、ハイリスク者の特徴を探る必要がある。
以上を背景として山下氏らは、エリートレベルの男子高校生バスケットボール選手を対象に、オーバーユース障害の既往を調べ、その関連因子の包括的な調査結果に基づくクラスター分析を実施。オーバーユース障害を来しやすい選手の特定を試みた。
国内トップレベルの高校バスケ部員を対象に調査
この研究は、バスケットボールで全国大会に出場するなど、国内トップレベルの実力を持つ高校のバスケ部男子部員80人を対象に実施された。怪我の急性期(受傷2週間以内)や手術歴のある選手などは除外されている。
オーバーユース障害のリスクとの関連の有無を検討した項目は、年齢、経験年数、トレーニング時間・頻度、ポジション、利き手・利き足、身長・体重・体組成、身体能力(握力、大腿四頭筋厚、座位前屈、サイドステップ、垂直跳び)、および、食習慣(トレーニング前に食事を摂るか、トレーニング量にあわせて摂取量を調整しているか)など。
オーバーユース障害のリスクの高さと関連のある3因子が明らかに
解析対象者は16.5±0.9歳で、バスケの経験は8.5±2.4年、トレーニング時間は1日3.8±1.2時間、週あたり26.0±9.2時間、トレーニング頻度は6.7±1.1日/週だった。食事に関しては、トレーニング前に食事を摂るようにしている選手が27.2%、トレーニング量にあわせて摂取量を調整している選手が31.3%だった。
3割の選手が過去半年以内にオーバーユース障害を経験
オーバーユース障害を、「過去6カ月以内にスポーツ活動に伴い発症し、医療専門家によって診断され、スポーツへの参加が制限される慢性的な痛みや不快感」と定義すると、24人(30%)がこれに該当した。
単変量解析の結果、6カ月以内のオーバーユース障害の既往あり群は、1日のトレーニング時間が有意に長く(4.3±0.6 vs 3.6±1.3時間、p=0.034)、垂直跳びの記録が有意に低かった(52.6±4.3 vs 56.3±6.5cm、p=0.011)。このほかに、週あたりのトレーニング時間や骨格筋量指数(skeletal muscle mass index;SMI)にも非有意ながら比較的大きな群間差(p<0.1)が認められ、リスク因子を探索するという研究目的から、以降の分析ではこれらも説明変数として採用した。ただし、1日のトレーニング時間と週あたりのトレーニング時間については、多重共線性を回避するため後者を除外した。年齢やバスケの経験年数などのその他の因子はp値が0.1以上であり、両群間に差は認められなかった。
クラスター分析で特徴づけられた4群
1日のトレーニング時間、垂直跳び、SMIという3因子に基づくクラスター分析の結果、以下の四つのクラスターに分類できることが明らかになった。
クラスター1(C1)は、垂直跳びの記録がよく(Zスコアが1.13)、SMIもやや高くて(同0.47)、身体能力が高いと判断され、トレーニング時間は平均的(0.05)な群であり、21人が該当した。
クラスター2(C2)は、SMIが最も高く(1.07)、垂直跳びの記録は低く(-0.52)、トレーニング時間が短いという(-0.64)、筋肉量は多いが身体能力と活動レベルは低い群であり、15人が該当した。
クラスター3(C3)は、トレーニング時間が最も長く(1.46)、垂直跳び(-0.26)とSMI(-0.11)は平均以下であって、トレーニング負荷の高さと身体能力が一致していないことを特徴とする群であり、16人が該当した。
クラスター4(C4)は、トレーニング時間(-0.53)、垂直跳び(-0.44)、SMI(-0.86)のすべてが平均以下で、身体能力と活動レベルがともに低い群であり、28人が該当した。
クラスター2、3はオーバーユース障害のオッズ比が顕著に高い
上記の各クラスターのオーバーユース障害を有する選手の割合は、C1から順に、4.8%、53.3%、56.2%、21.4%だった。
オーバーユース障害が最も少ないC1を基準とすると、C2のオーバーユース障害のオッズ比(OR)は22.9(95%CI;2.4~216.9)、C3はOR25.7(2.7~241.1)、C4はOR5.5(0.6~49.3)であり、C2とC3は有意に高いオッズ比が示された。
ROC解析の結果、このクラスタリングによるオーバーユース障害の予測能(AUC)は0.77と計算され、中等度の予測能と判定された。
多因子に基づくクラスタリングで早期スクリーニングと予防戦略の個別化が可能に
著者らは本研究の限界点として、観察研究であり因果関係は不明であること、単一の集団での検討であること、オーバーユース障害と関連が想定されている他の因子(ストレス、睡眠習慣、自己効力感など)を把握していないことなどを挙げ、さらなる研究の必要性を指摘している。
そのうえで、「体組成、身体能力、トレーニング負荷を総合的に評価することで、オーバーユース障害のリスクを体系的に分類・可視化できることが示された。このアプローチは、オーバーユース障害の早期スクリーニングとして実現可能性を有している」と総括。また、「このようなクラスタリングの採用が、個々のアスリートにあわせた予防戦略の開発につながるのではないか」と今後の研究への期待を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Multifactorial Risk Profiling of Overuse Injuries in Elite High School Basketball Players in Japan: A Cluster Analysis Approach」。〔Cureus. 2025 May 31;17(5):e85134〕
原文はこちら(Cureus)