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位相角を測定すると、BMIや除脂肪量ではわからない、競技レベルや身体活動量の違いが明らかになる

生体電気インピーダンス法で把握でき、筋肉の質や細胞の栄養状態などの指標とされる位相角と、BMIや除脂肪量との関係を、日常的な身体トレーニング習慣の有無で層別化して解析した結果が報告された。岡山県立大学情報工学部の大下和茂氏、村井聡紀氏、九州共立大学スポーツ学部の疋田晃久氏、名頭薗亮太氏の研究によるもので、「Physiological Reports」に論文が掲載された。位相角が、BMIや除脂肪量では把握できない、競技レベルや身体活動量の新たな指標となる可能性が示唆されている。

位相角を測定すると、BMIや除脂肪量ではわからない、競技レベルや身体活動量の違いが明らかになる

簡便かつ低コストで測定可能な位相角の新たな可能性を探る

微細な電流を生体に流し、その抵抗から体脂肪率などのパラメーターを得る生体電気インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis;BIA)は、低コストで簡便に繰り返し測定できるという特徴から、医学の臨床や研究のほか、健診やスポーツの現場でも広く用いられるようになってきている。これまでのところBIAは主に、体組成の評価のために使われてきているが、BIAで測定可能なパラメーターの一つに「位相角(phase angle;PhA)」も含まれる。

位相角は、周波数の影響を受ける抵抗と影響を受けにくい抵抗の位相差から算出される値であり、細胞の健康状態を表すマーカーとして位置づけられている。また、身体トレーニングや栄養介入の効果の評価指標としてのエビデンスも蓄積されつつある。ただし、スポーツ領域における位相角の研究は結果の一貫性が十分でなく、年齢や性別、競技レベルなどの多因子が位相角に影響を及ぼしている可能性がある。

これを背景として大下氏らは、国内の大学生を対象とする横断研究を実施し、BMIや競技スポーツへの参加の有無と位相角との関連を調査した。

スポーツへの参加の有無による位相角への影響の違いが明らかに

研究参加者は、18~22歳の大学生408人(うち男子230人)。この集団を、性別および、競技スポーツを行っているか否かで二分し、かつ、各群のBMIの中央値で二分し、合計八つの群に分類した。詳細は以下のとおり。

男性で競技スポーツを行っている(以下、アスリート)学生が159人で、BMIが23.2以上の「L-sports群」が63人、BMIが23.1以下の「S-sports群」が65人。男性で競技スポーツを行っていない(以下、非アスリート)学生は71人で、BMIが21.0以上の「L-normal群」が34人、BMIが20.9以下の「S-normal群」が37人。

女性はアスリートが95人で、BMIが21.9以上の「L-sports群」が39人、BMIが21.8以下の「S-sports群」が40人。女性の非アスリートは83人で、BMIが20.4以上の「L-normal群」が41人、BMIが20.3以下の「S-normal群」が42人。

なお、スポーツを行っているアスリートは、競技レベルがTier2以下(地域大会レベルまで)とし、Tier3(国内大会レベル)以上のアスリートは少数のため解析から除外した。

では、結果を見ていこう。

性別を問わず非アスリートはBMIにかかわらず位相角が低値

男子の位相角は、L-sports群が7.05±0.45°、S-sports群6.90±0.46°、L-normal群6.41±0.49°、S-normal群6.17±0.47°であり、非アスリートの2群はBMIにかかわらず、L-sports群およびS-sports群よりも有意に低値だった。

各群間の位相角の違いを効果量(Cohen's d)で比較すると、L-sports群とS-sports群の比較(d=0.33)やL-normal群とS-normal群の比較(d=0.52)は中程度の効果量だったが、その他はすべて大きな効果量(d≧0.8)が認められた。

女子の位相角は、同順に5.88±0.50°、5.78±0.43°、5.18±0.41°、4.75±0.40°であり、男子同様に、非アスリートの2群はBMIにかかわらず、L-sports群およびS-sports群よりも有意に低値だった。さらにS-normal群はL-normal群との比較でも、有意に低値だった。

効果量で比較すると、L-sports群とS-sports群の比較(d=0.22)のみ効果量が中であり、その他の効果量はすべて大と判定された。

除脂肪量は性別を問わずL-sports群が有意に高く、S-normal群が有意に低い

次に、除脂肪量に着目すると、男子・女子ともに、L-sports群が最も高値であり、S-sports群、L-normal群と続き、S-normal群が最も低値だった。性別にかかわらず、L-sports群は他の3群よりも有意に高値で、S-normal群は他の3群よりも有意に低値だった。

男子・女子ともに、S-sports群とL-normal群の除脂肪量は、有意差がなかった。

非アスリートはBMIと位相角が正相関するが、アスリートは相関せず

続いて、BMIと位相角との関連が検討された。

その結果、男子では、非アスリートではBMIが高いほど位相角も高値となるという、正の相関関係が認められた(r=0.34、p<0.01)。同様に、女子においても正相関が認められた(r=0.55、p<0.01)。それに対してアスリートでは、男子(r=0.17、n.s.)、女子(r=0.20、n.s.)ともに、BMIと位相角の関連は観察されなかった。

非アスリートではBMIと位相角が相関し、アスリートでは相関しないという違いが生じる理由として、著者らは以下のような考察を加えている。すなわち、BMIは一般集団において、エネルギー出納の指標として機能し、BMI低値では栄養素摂取量の少なさに起因する栄養不良が位相角に反映されることが多いのに対し、アスリートにおけるBMI高値は栄養摂取だけでなく、トレーニングによる除脂肪量の高さによるものであるため位相角に反映されにくいのではないかという。

位相角を身体活動量や競技レベルのマーカーとして使える可能性も

まとめると、非アスリートの学生においてのみ、位相角とBMIの間に有意な正の相関関係が認められ、BMIが高い学生ほど位相角も高かった。しかし、位相角自体はアスリート群のほうが高い範囲に分布していた。そのため、BMIの高い非アスリート学生とBMIの低いアスリート学生では、除脂肪量に有意差がないにもかかわらず、位相角はアスリート学生で有意に高かった。一方アスリート群内ではBMIの高低によって除脂肪量に有意差がみられたが、位相角には有意差がなかった。またアスリート学生では位相角とBMIの間に有意な関係は認められなかった。

著者らは本研究が横断研究であること、女子学生の月経周期を考慮していないことなどを限界点として挙げたうえで、「明らかになったこれらの結果は、位相角がBMIや筋肉量では捉えられない競技レベルや身体活動量の違いを把握するための、新たな指標になり得ることを示唆している」と総括している。

なお、論文の末尾には、解析から除外したTier3以上でBMIがL-sports群と同じ範囲の学生アスリートの除脂肪量や位相角のデータが参考として付記されている。それによりと、除脂肪量、位相角のいずれも、L-sports群(BMI高値のアスリート学生)よりさらに、有意に高値であることがわかる。このことから著者らは「推測の域を出ないが」と断りつつ、「よりハイレベルのアスリートを含めた大規模サンプルで検討した場合、競技レベルと位相角の相関が検出される可能性もあるのではないか。この点は、スポーツ領域における位相角の位置づけや重要性にかかわるため、今後の研究では、身体活動量や競技レベルごとに位相角を調べる必要がある」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Assessment of muscle quality by phase angle and body physique in nonathlete students and trained/developmental athletes」。〔Physiol Rep. 2025 Jun;13(11):e70412〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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