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暑熱環境での運動中のカフェイン摂取で、生理的な負担なくパフォーマンスが向上する可能性 筑波大学

暑熱下においては運動前にカフェインを摂取すると、運動時の過換気や脳血流量減少などの生理的ストレスを増大させる可能性がある。それに対して運動中にカフェインを摂取すると、それらの生理的ストレス増大を伴わずに、長時間運動の後半にパフォーマンスが向上する可能性のあることが報告された。筑波大学の研究グループによる成果であり、「Medicine and Science in Sports and Exercise」に論文が掲載されるとともにプレスリリースが発表された。

暑熱環境での運動中のカフェイン摂取で、生理的な負担なくパフォーマンスが向上する可能性 筑波大学

研究の概要:暑熱下でのカフェイン摂取の有効性を探る

飲食料品などから日常的に摂取されるカフェインは、運動パフォーマンス向上に有効であることが広く知られているが、近年、暑熱環境下ではその効果が得られない可能性が指摘されている。本研究グループはこれまでに、暑熱下での運動前にカフェインを摂取すると、深部体温上昇に伴う過度な呼吸(高体温誘発性換気亢進)や、それに起因する脳血流の低下反応などの生理的ストレスが増大することを明らかにしている。これらの生理応答は、血中カフェイン濃度が運動前から急激に上昇することで引き起こされ、カフェインの有益な効果を打ち消している可能性がある。

本研究では、健常な若年男女を対象に、暑熱下での長時間運動において、運動途中に中用量のカフェインを摂取したときの効果を調べた。その結果、運動時の血中カフェイン濃度は徐々に上昇し、運動終盤に実施した高強度運動の継続時間が延長した。また、高強度運動の直前には、運動の主観的なきつさが軽減された。一方で、運動時の高体温誘発性換気亢進反応や脳血流低下反応は、カフェイン摂取によって増大することはなかった。

以上のことから、暑熱下においては、カフェインを運動中に摂取することで、運動時の生理的ストレスを増大させることなくカフェインの有益な効果が発揮され、パフォーマンスの向上につながると考えられる。ただし、パフォーマンスが向上した場合には結果的に仕事量が増加するため、運動終了時の深部体温や呼吸・循環系への負荷が増大するリスクに留意する必要がある。

研究の背景:暑熱時はカフェインを運動前ではなく、運動の途中に摂取してはどうか?

多くのスポーツでは、長時間の運動中に高いパフォーマンスの発揮が求められる。その対策の一つとして、飲食料品に含まれるカフェインの運動前摂取がパフォーマンス向上に有効であることは広く知られている。しかし近年、地球温暖化に伴い、暑熱環境下での競技場面が増加しており、こうした条件下ではカフェインの有益な効果が発揮されない可能性が指摘されている。

暑熱下運動時には、深部体温※1の上昇に伴って、代謝量に見合わない過度な換気※2(高体温誘発性換気亢進反応)が生じ、体内の二酸化炭素が過剰に排出される。その結果、動脈血中の二酸化炭素の分圧が低下し、脳血流量が減少する。これが脳での熱除去を妨げ、脳温上昇および中枢疲労を招き、運動効率を低下させる可能性がある。

※1 深部体温:ヒトの体温は身体の深部に近いほど高く、体表に近いほど低くなる温度勾配が存在する。身体中心部の温度を深部体温といい、食道温、直腸温、鼓膜温や内臓温度等がその指標として用いられる。
※2 換気:空気を肺へ出し入れする機械的な過程を換気(一般的には呼吸)という。

本研究グループはこれまでに、暑熱下運動前に中用量のカフェインを摂取すると、高体温誘発性換気亢進および脳血流低下反応などの生理応答が増大することを明らかにしている(Fujii et al. Med Sci Sports Exerc 2020、図1左下)。これらの生理応答がカフェインの有益な効果を打ち消す可能性があり、パフォーマンス向上には、こうした負の影響を引き起こさないカフェイン摂取方法の構築が必要。

図1 参考図

参加者は、気温35°C、湿度50%の暑熱下において、30分間の中強度自転車運動を実施し、それに続いて高強度運動を疲労困憊まで行い、運動継続時間(運動パフォーマンス)を評価した。また、中強度運動開始5分⽬に、体重1kgあたり5mgのブドウ糖(プラセボ)またはカフェインを摂取した。その結果、カフェイン条件ではプラセボ条件に比べて、高体温誘発性換気亢進は増大しない(脳血流低下を助長しない)こと、高強度運動のパフォーマンスが向上すること、などが示された。
(出典:筑波大学)

上記の先行研究では、運動1時間前にカフェインを摂取しており、運動開始時には血中カフェイン濃度が急激に上昇していたと考えられる。そこで本研究では、暑熱下での長時間運動時において、カフェインを運動途中に摂取すれば、血中のカフェイン濃度が徐々に上昇し、高体温誘発性換気亢進や脳血流低下反応の増大を最小限に抑えつつ、運動終盤における高強度運動の継続時間が延長(パフォーマンスが向上)する、という仮説を検討した。

研究内容と成果:運動中のカフェインで生理的ストレスを増大させずに効果を得られる

本研究では、健常な若年男女12名を対象に、気温35°C、湿度50%の暑熱下において、中強度の自転車運動を実施した後、高強度の自転車運動を疲労困憊まで行った。中強度運動開始5分目に、二重盲検ランダム化比較試験※3を用いて、体重1kgあたり5mgのブドウ糖(プラセボ)またはカフェインを摂取した(図1上)。実験中には、血清カフェイン濃度、食道温(深部体温の指標)、呼吸代謝パラメーター(換気量など)、中大脳動脈平均血流速度(脳血流量の指標)、主観的運動強度※4などを測定した。

※3 二重盲検ランダム化比較試験:第三者が無作為に条件を割り当て、研究対象者と研究者の双方にその情報を伏せることで、先入観によるバイアスを排除し、介入効果を厳密に比較・検証する手法。
※4 主観的運動強度:運動強度(疲労度)を主観的に数値で評価したもの。一般に6~20の範囲で設定されており、20に近づくほど運動がきつく感じることを表す。

その結果、カフェインを摂取した場合(カフェイン条件)は、運動時に血清カフェイン濃度が徐々に上昇し、運動終盤に実施した高強度運動の継続時間はプラセボ条件よりも延長した(図1右下)。また、中強度運動終了時(高強度運動の直前)における運動の主観的なきつさは、カフェイン条件でプラセボ条件よりも低値を示した。

一方で、換気量は両条件とも運動時間経過に伴って増加し、深部体温上昇に対する換気量増加の傾き(高体温誘発性換気亢進反応の指標)に条件間の差はみられなかった(図1下)。同様に、運動時の脳血流低下反応にも条件間の差はみられなかった。

以上のことから、暑熱下での長時間運動時において、カフェインを運動中に摂取すると、高体温誘発性換気亢進反応や脳血流低下反応などの生理的ストレスが増大することなく、パフォーマンスが向上すると推察される。ただし、カフェインによってパフォーマンスが向上した場合、結果的に仕事量が増加するため、運動終了時の深部体温や呼吸・循環系への負荷が増大するリスクに留意する必要はある。

今後の展開:暑熱下でのカフェイン摂取の最適な方法の確立へ

著者らは、「本研究の知見は、暑熱環境下の運動時におけるカフェイン摂取のタイミングを再考するうえで重要。今後は、より幅広い条件(摂取量、摂取タイミングの個別化、習慣化の影響など)を考慮した研究を進める。暑熱下でのカフェイン摂取の最適な方法の確立は、競技パフォーマンスの最大化につながると期待される」としている。

プレスリリース

暑熱下では運動中のカフェイン摂取によりパフォーマンスが向上する(筑波大学)

文献情報

原題のタイトルは、「In-Exercise Caffeine Improves Exercise Performance in the Heat Without Exacerbating Hyperventilation and Brain Hypoperfusion」。〔Med Sci Sports Exerc. 2025 Jun 23〕
原文はこちら(American College of Sports Medicine)

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