思春期女性アスリートのRED-Sによる生殖リスクに警鐘、健康管理の推奨事項を策定 北米小児・思春期婦人科学会議
北米小児・思春期婦人科学会議(NASPAG)の研修医教育委員会はこのほど、スポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;REDs)を抱える思春期女性アスリートの生殖関連の健康管理に関する推奨事項をまとめたレポートを発表した。思春期/若年成人(AYA)の女性アスリートにおけるREDsのスクリーニング、診断、および治療等を総括しつつ、とくに長期的な後遺症を来し得る、生殖機能低下のリスク評価や介入について解説されている。
AYA女性アスリートのREDsに関連する生殖機能への影響
この文書の冒頭では、「女性」とは出生時に女性と指定された人を指し、「アスリート」とは習慣的に身体活動に参加する個人と定義するとしたうえで、REDs状態にある女性AYA(adolescent/young adult)アスリートのケアを担当する医療提供者によって使用されることを想定し、この文書が書かれたと述べている。
全体の構成は、まず推奨事項を羅列し、その推奨にいたる研究方法、各項目の詳細な解説というもの。本稿では、「研究の目的と方法」、その研究に基づく「推奨事項」の一部、および、各項目の詳細な解説のうち「栄養に関する推奨の解説」の一部を紹介する。
研究の目的と方法
2005年に国際オリンピック委員会(International Olympic Committee;IOC)は、女性アスリートのトライアド(三主徴〈female athlete triad;FAT〉)という病態に関する合意声明を発表した。その後、2014年には知見をブラッシュアップするかたちで、現在使われている「REDs」と定義し、さらに2023年に新たなエビデンスに基づき詳細な定義づけと、スクリーニングおよび管理方法が提示された。
REDsは、パフォーマンス低下というアスリートの成長やキャリアの妨げるとなる重要なリスク因子であるのと同時に、骨量低下、易感染性、抑うつ、成長・発育不全など、種々の健康リスクを高める。中でも女性アスリートに好発する生殖機能の低下は、アスリートを引退後にも回復せず、生涯にわたる妊孕性低下を来すことがある。
妊孕性(にんようせい)とは
妊孕性(にんようせい)(がん情報サービス)北米小児・思春期婦人科学会議(North American Society for Pediatric and Adolescent Gynecology;NASPAG)により今般発表されたレポートは、REDsのこれらの健康リスクにうち、AYA世代の女性アスリートの生殖機能への影響を主な焦点として、AYA女性アスリートに接する医療従事者への推奨事項をまとめたもの。
この推奨の策定にあたり、2023年9月に文献データベース(PubMed、Cochrane Wiley、Cochrane)を用いたシステマティックレビューが行われた。2005年以降に報告されたヒトを対象とする論文を、「REDs」、「トライアド(FAT)」、「骨密度」、「無月経」などの検索キーワードで検索。英語で執筆されている論文を抽出した。
女性アスリートの生殖機能障害の実態と、医療従事者の認識の不十分さの実態が明らかに
レビューの結果、高校生女子アスリートの約24%が稀発月経を経験し、78%がトライアド(月経異常、摂食障害、骨代謝障害)のうち少なくとも一つを報告していた。また大学生アスリートの原発性無月経は全体で7%、体操やチアリーディングのアスリートでは22%だった。大学生アスリートの続発性無月経の有病率は2~5%で、長距離ランナーでは65%、ダンサーでは69%にも達していた。
医療従事者のトライアド(FAT)に対する理解は不十分で、医師、コーチ、理学療法士、アスレチックトレーナーのうち、IOC2018合意声明に示されている診断に必要な3要素をすべて特定できるのは50%未満だった。FATの診断項目を認識していると回答した医療従事者は3分の1だった。患者のケア、または受診勧奨に抵抗がないとの回答は、半数に過ぎなかった。
推奨事項(一部のみの抜粋・要約)
推奨の根拠と強さについて
- Ⅰ.1件以上の適切に設計されたランダム化比較試験から得られたエビデンス。
- Ⅱ-1.無作為化なしで適切に設計された対照試験から得られたエビデンス。
- Ⅱ-2.適切に設計されたコホート研究または症例対照研究から得られたエビデンス(多施設または複数の研究グループからの報告であることが望ましい)。
- Ⅱ-3.介入の有無にかかわらず、複数の時系列での報告のエビデンス。コントロールされていない実験での劇的な結果も、このタイプのエビデンスと見なされる。
- Ⅲ.臨床経験、記述的研究、または専門委員会の報告書に基づいた権威者の意見。
- レベルA.推奨事項は、強力かつ一貫した科学的エビデンスに基づいている。
- レベルB.推奨事項は、限定的または一貫性のない科学的エビデンスに基づいている。
- レベルC.推奨事項は、主にコンセンサスと専門家の意見に基づいている。
レベルIBの推奨
- REDsのAYA女性アスリートに対して、月経回復または骨保護のいずれかの目的のみで、複合経口避妊薬を使用することは推奨されない。
- エネルギー利用能(energy availability;EA)の改善が1年以上成功せず、骨密度低下および/または反復性骨ストレス障害のあるAYA女性アスリートには、経皮エストラジオールと経口プロゲステロンによる薬理学的治療が検討される。これらの薬剤は、十分なEAの回復と維持に向けた栄養介入および身体活動の変更に加えて処方する必要がある。
レベルII-3の推奨
REDsの第一選択治療は非薬物療法であり、栄養介入および身体活動の変更を通じてEAを回復し維持することに重点が置かれる。
AYAの場合、血清25-ヒドロキシビタミンD(25OHD)濃度の至適範囲は30~50ng/mL(75~125nmol/L)。ビタミンD欠乏症では、ビタミンD3またはD2経口投与を要する。
レベルIIIBの推奨
無月経のAYAアスリートは、血清25OHD濃度の測定を通じてビタミンD欠乏症を評価する必要がある。
レベルIIICの推奨
- AYAアスリートは、毎年の健康診断やスポーツ参加前の身体検査の際に、REDsの検査を受ける必要がある。
- 以下の症状を呈するAYAアスリートに対して、EAの低下(利用可能エネルギー不足〈(low energy availability;LEA〉)および/または摂食障害のスクリーニングを実施する必要がある。
体重減少または期待される成長と発達の欠如/月経障害/骨ストレス障害の既往
栄養に関する推奨の解説(抜粋・要約)
すべてのアスリートの毎日の栄養摂取量を評価する必要がある。
注意すべきこととして、利用可能エネルギー不足(LEA)は、意図的でない場合がある。つまり、(ボディーイメージやパフォーマンスのためではなく)食品に関する知識や食品へのアクセスが限られているために、摂取量が不十分でLEAを来すケースがある。
摂食障害行動(意図的なカロリー制限、過食、または嘔吐)がある場合は、摂食障害の専門医への紹介が推奨される。摂食障害の行動や態度を評価するための有効な質問票が開発されているが、全年齢・性別、全パフォーマンスレベルに適用可能な、普遍的に有効な単一の質問票は存在しない。
非薬物療法
REDsの治療は、EAを増やして毎日の必要量を満たすことに重点が置かれる。目標は、視床下部-下垂体-卵巣系および、その他の生理学的機能をサポートするために、十分なEAを一貫して維持することである。
REDsの発症・悪化に関連するすべての因子に対処するため、学際的なチームアプローチが有用である。そのチームには、AYAの生殖機能に関する専門家(小児/思春期婦人科医、思春期医学専門家)、スポーツ医学者、スポーツ栄養士、AYAアスリートの摂食障害の治療経験のあるセラピストを含めることを考慮する。
スポーツ栄養カウンセリングは、個別化し、栄養素の摂取量と種類に関する具体的な推奨事項とする必要がある。治療に関する一貫したメッセージを伝えることが、アスリートの回復と、患者や家族との明確なコミュニケーションの確保に最も役立つ。
REDs治療に際し、大半のアスリートはREDs悪化リスクを最小限に抑えるために、日々の栄養ニーズが満たされるまでは一時的に身体活動を減らすか中止する必要がある。身体活動を減らすことが困難な場合には、心理的サポートが援用される。
文献情報
原題のタイトルは、「Reproductive Health Management of Female Adolescent Athletes With Relative-Energy Deficiency in Sport」。〔J Pediatr Adolesc Gynecol. 2025 Apr;38(2):108-116〕
原文はこちら(Elsevier)