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サッカー上級者のトラップ技術を最新技術で解析 骨盤と足首を駆使してプレーの精度とスピードを両立 筑波大学

大学サッカー選手を対象に、ボールを止めて方向を変える「トラップ動作」における身体の動きを解析した結果、上級者はボールを止める際に、方向転換を予測して、骨盤の向きや足首の動き、ボールとの接触位置を調整し、より素早く正確に次のプレーに移行していることが明らかになった。筑波大学の研究グループによる研究成果であり、「International Journal of Sports Science & Coaching」に論文が掲載され、プレスリリースが発表された。

サッカー上級者のトラップ技術を最新技術で解析 骨盤と足首を駆使してプレーの精度とスピードを両立 筑波大学

研究の概要:上級者のトラップは中級者と何が違うのか?

サッカーでは、パスを受けた後に素早く向きを変えて攻撃に移る「トラップ」という動作がとても大切。とくに相手の守備と中盤の間のスペースでこの動作がうまくできると、試合の流れを大きく変えることができる。しかし、実際の試合における、トラップが上手な選手の体の使い方については、これまであまり詳しくわかっていなかった。

本研究では、大学のサッカー選手を対象に、180度方向転換をするトラップ動作を詳しく調べた。ボールを止めて向きを変え、パスを出す一連の動きを、赤外線カメラで記録し、対象選手を、全国大会に出場するレベルの上級者グループと、出場経験のない中級者グループに分けて比較検討した。

その結果、上級者は中級者より、足とボールの中心位置を正確に合わせているためにトラップミスが少なく、素早い足首の外側への回転運動でボールの勢いを吸収している傾向がみられた。また、上級者は中級者より、トラップ時に身体や骨盤の向きを大きく進行方向に向け、あらかじめその動作をしやすい位置に足を置くことで、よりバランスよく、かつスムーズに方向転換をしながら精度良くトラップをしていることがわかった。

これらのことから、上級者はトラップ時において、ボールをコントロールしながら、方向転換を予測した先取り的な運動準備を行うことで、効率的かつ目的志向的なトラップ動作を実現していることが明らかになった。本研究成果は、サッカーを練習する人たちが、より効果的にトラップ技術を身に付けるためのヒントになると期待される。

研究の背景:複雑な状況下でのトラップ動作のメカニズムを探る

サッカーにおけるボールトラップ(ボールを足や胸で止め、次の動きに向けて方向転換する)は、攻撃の起点を作り出すための基本的かつ戦術的に非常に重要な技術。とくに、守備ラインと中盤ラインの間のギャップスペースでパスを受けて、180度の方向転換を行いながら攻撃へとつなげる動作は、得点機会を創出するうえで極めて重要なプレーの一つ。このような状況では、選手は限られた空間と時間の中で、瞬時に身体の向きや重心位置を調整し、次のプレーへとスムーズに移行する必要がある。

しかしながら、これまでのトラップに関するバイオメカニクスやコーチング学的な研究の多くは、静的な条件下でセーフティコーンを相手に見立てた単純な動作を対象としており、実際の試合のように動的かつ予測困難な状況下での身体制御や熟練度による動作の違いに注目したものは限られていた。とくに、方向転換を伴うような複雑な状況下でのトラップ動作のメカニズムについては、十分に明らかにされておらず、これを科学的に解明することは、選手育成や実践的なコーチングにおいて重要。

研究内容と成果:上級者はトラップでボールを止めた後の動作が連結している

本研究では、大学サッカー選手18名(全国大会に出場経験のある上級者10名、出場経験のない中級者8名)を対象に、180度の方向転換を伴うボールトラップ動作における身体の使い方の違いを、三次元動作解析によって検討した(図1)。使用機器にはVicon社製モーションキャプチャシステム(撮影周波数500Hz)を用い、選手の全身およびボールに複数の反射マーカーを装着して、室内において精密な動作データを取得した。

図1 トラップ動作の実験概要

トラップ動作の実験概要

20台の赤外線カメラを備えたモーションキャプチャシステムを用いて、サッカーのトラップ動作を三次元的に計測した。被験者には全身およびボールに反射マーカーを装着し、方向転換を含む実戦的な動作を高精度で記録した。
(出典:筑波大学)

実験では、被験者が5m走行後に正面からパスされたボールを受け取り、トラップと180度方向転換を行った後、再度パスを出す一連の動作を実施し、ボールインパクトからパスまでの所要時間、足とボールの接触点、足関節の動き、骨盤の角度、足部や重心の速度などの指標を、上級者グループと中級者グループとで比較した。

分析の結果、上級者群はインパクトからパスまでの所要時間が0.98±0.14秒と、中級者群(1.22±0.26秒)に比べて有意に短く(p<0.001、d=-1.14)、より迅速な動作を実行していることが確認された。また、足とボールの接触点は、垂直方向でボール中心より約0.071m上方、前後方向では約0.007mと中心に近い位置に集中しており、トラップ後の跳ね上がりや過度なボール速度を抑制するのに有利な位置をとっていた(p<0.05、図2)。

図2 トラップ時のボール接触点の比較

トラップ時のボール接触点の比較

青:上級者、赤:中級者。
上級者はボールの中心よりやや上かつ前後の中心付近で足と接触しており、跳ね返りや方向のズレを抑えやすい位置でトラップしている。一方で中級者はばらつきが大きく、接触点が低く遠くなる傾向が見られた。
(出典:筑波大学)

さらに、上級者群ではインパクト直前の足関節の外反角速度※1 が3.9rad/sと、中級者群(1.67rad/s)よりも有意に高く(p<0.05)、ボールからの衝撃をより効率的に吸収していることが示唆された。骨盤の角度についても、インパクト時の骨盤角が−79.4°と中級者群の−72.5°より有意に小さく(p<0.01、d=−0.50)、ボールの進行方向と平行に近い姿勢がとられていた(図3)。

※1 足関節の外反角速度(そくかんせつのがいはんかくそくど):足首が小指側へ傾く動き(足関節の外反)がどれだけ速く行われたかを表す指標。サッカーでは、ボールに触れる瞬間に足首がすばやく外反することで、衝撃を吸収しやすくなり、安定したボールコントロールにつながると考えられる。

図3 トラップ時のボールに対する骨盤の位置と向きの比較

トラップ時のボールに対する骨盤の位置と向きの比較

青:上級者、赤:中級者。
上級者はボールに触れる瞬間、骨盤の向きがボールの進行方向とより平行に保たれており、次の動作へのスムーズな移行が可能な姿勢となっている。中級者は骨盤が進行方向からややそれており、回旋の効率に差がみられた。
(出典:筑波大学)

また、支持脚(左足)※2の位置関係では、上級者群がボールに対して水平方向で0.44m、縦方向で0.20mと、中級者群(0.50m、0.12m)よりも近接かつ斜め後方に配置されており(p<0.001)、安定した重心移動と方向転換の実行に寄与していると考えられる。

※2 支持足(しじあし):プレー中に体を支えている方の足のこと。サッカーでは、キックやトラップのときにボールに触れていない足が支持足になる。支持足の置き方や位置によって、バランスの取りやすさや体重移動のスムーズさが大きく変わる。

これらの結果から、上級者はトラップを単にボールを「止める」動作としてではなく、次の攻撃動作に連結する準備動作として戦略的に活用していることが明らかになった(図4)。本研究結果は、実戦に即した視点からトラップ技術を評価し、指導するための有効な科学的知見を提供している。

図4 トラップ動作における先取り的な動きの準備の比較

トラップ動作における先取り的な動きの準備の比較

上:上級者、下:中級者。
上級者と中級者がトラップを行う際に見せる先取り的な運動準備(proactive movement preparation)の違いを連続写真で示したもの。上級者は、中級者よりも早い段階で身体と骨盤の向きを進行方向へ大きく整え、さらに足を「動き出しやすい位置」に配置している。その結果、ボールを正確にコントロールしながらもバランスを崩さずにスムーズな方向転換を実現している。一方、中級者は、トラップ直前まで体をボールに正対させた姿勢を保つ傾向が強く、次の動作に移る際に体の回転を大きく伴うため、方向転換に時間を要する。これらの結果から、熟練者は単にボールを「止める」だけではなく、次のターンを予測して身体を準備し、効率的かつ目的志向的なトラップを実現していることが明らかとなった。
(出典:筑波大学)

今後の展開:新たなトレーニングメニューの開発へ

著者らは、「今後は、本研究で明らかになったトラップ時の動作特性(接触点の調整、骨盤の先行回旋、足関節の可動性と筋力など)を生かして、これらを反映したトレーニングメニューの開発を進めていく。また、実際の試合に近い実験条件(屋外環境、守備者からのプレッシャーなど)での検証を通じて、生態学的妥当性をより高めた実践的研究の展開を目指す。さらに、トラップ技術の改善に向けた個別的な指導アプローチの構築や、選手の身体的特性に応じたトレーニング計画の最適化にも取り組む予定」とし、「これにより、選手の技術向上に寄与するとともに、競技パフォーマンスの質的向上につながると期待される」と述べている。

プレスリリース

サッカー上級者はプレーを止めないようにボールを止めている(筑波大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Motion Characteristics of Directional Ball-Trapping Techniques in Soccer: A Comparative Study of Advanced and Intermediate Players」。〔Int J Sports Sci Coach. 2025 Jun 27〕
原文はこちら(SAGE Publications)

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